武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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七一、牢獄

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 ひたすらに修太朗は刀を振るい続けた。斬れば斬るほど修太朗の霊性が上がっていくのか力が漲る。修太朗は黒夜叉に煩悩を消し去る漆黒の炎を纏わせるのみならず、やがては自分自身もそして、背負ったひなたも共に漆黒の炎となり大地を駆け巡った。無名一刀斎とユリが修太朗の死角から敵が近づけないように剣閃をはためかせながら舞い踊る。鳳凰の炎と九頭竜の雨で焼けただれた悪鬼たちを銀獅子とラーが修太朗のもとへと弾き飛ばす。修太朗達はやがて悪鬼を殲滅し、数百体のマーラのもとへと辿りついていた。
 一番近くにいたマーラが修太朗に爪を振り下ろす。その爪を雷撃が貫く。修太朗の視線の先には浄化を終えた紫苑の姿があった。南極大陸を全て浄化した紫苑と守護していた風蓮も参戦してきた。そこにしづかが声をかける。
「奥にいるマーラは魂喰いが擬態している。手前のマーラは力が弱まっておる。修太朗の前に直線状に並ぶように誘導するのだ」
 それから紫苑が雷撃を飛ばしてマーラを弾き飛ばすと、風蓮が暴風で動かす。十数体のマーラが直線状に並んだ瞬間に、修太朗は、
「四の太刀『閃光』」
 と呟き、漆黒の炎と化した自分自身を剣気と一体と化し、一筋の漆黒の炎が閃光となってマーラを貫き通す。十数体のマーラを一気に屠ると周辺にいたマーラを、「二の太刀『破邪顕正』」で数体同時に倒す。すると、修太朗の背中からひなたが邪滅の神気をまとった小さな不動明王を無数に編み出すと、その不動明王は一気に魂喰いの胸に風穴を開ける。そこにしづかが「死」の神気を飛ばして、一気に虫を絶命させると、紫苑が魂喰いに穢された魂たちを浄化する。既に残るマーラは数体となっていた。
 修太朗がマーラを睨み付ける。そして雄叫びをあげその体に纏わせた漆黒の炎を膨れ上がらせると、自身最大の奥義、
「八の太刀『迦楼羅』」
 を連弾で残りのマーラに放った。
 煩悩の化身マーラは、すべてが消え去り終わったかのように思えた。だが、ひなたが放った小さな不動明王の残りが一ヶ所に集まりだすと、何もなかったはずの空中に漂うひとかけらの石を取り囲みだした。それを見たしづかが、
「修太朗、その石がマーラの芯になったものだ」
 と、叫んだ。
 修太朗がその小石を黒夜叉で斬り捨てると小さな不動明王達もかき消えたのであった。一刀両断にされた石を修太朗はしづかに渡した。すると、しづかは悲しげな顔でシリウスに告げる。
「この石は……元々この星の人間の魂であるな」
「……人間の魂」
「煩悩は人間なら誰しもが持っているものだ。だが、人間として踏み込んではならん所まで踏み込んだものがいたのだ」
「……踏み込んではいけないところ?」
「それは色々だな。おそらく狂気にでも駆られたのであろう。この人間の魂はもはや黄泉にもいけぬ。輪廻転生の輪をくぐることを選ばず己の魂を穢し続けるうちに煩悩を取り込み、煩悩の化身マーラへと姿を変えたのであろうな」
「そうするとあの大量のマーラ達は……」
「一人の人間が生み出した化物だということだ」
「……そうなると、まだまだマーラは生まれてくるということだな」
 しづかはひとつ大きくため息をつくとシリウスに頷いて、
「人間だけではない。新右衛門は実に多くの現人神を消滅させておった。邪神、悪神もまだまだ多くおる。恨み、憎しみ、嫉妬、怒り、悲しみ、絶望、恐怖……まだまだあるが……それらは消えることがないのだ」
 しづかの言葉をうけて王碧が言う。
「人に限らず、神もまた心を強く正しく持ち続けるのは至難の業だ」
 それを聞いた修太朗は背中のひなたを腕の中に抱きなおすと、
「だが、心を強く正しく持とうとする者は増やすことができる。そうすることがマーラの勢力を弱め、この子達の未来を照らすのだと信じて進むしかない」
 全員がその言葉に頷いていると、
「見えてきましたね、魂の牢獄が」
 と、風蓮が言う。風蓮が指さす先には、空中から溶け出すかのように大きな鉄格子が現れつつあった。修太朗とユリはその鉄格子に駆け寄っていく。
 その後ろ姿をしづかは眺めながら言う。
「だが、魂となってもあれだけの者たちが穢されず光り輝いておるな」
 確かに、空中から現れつつある鉄格子の中からは色とりどりの美しい光を放つ魂たちがひしめき合っていた。修太朗とユリは不謹慎にも、
「綺麗だね……」
「綺麗ですね……」
 と見とれてしまっていた。やがて牢獄が全貌を現した時、しづかが舞い始める。しづかの振るう鈴が鳴るたびに牢獄は徐々に朽ち果てていく。最後に、
「黄泉の大神、しづかが願う。汝ら美しき魂達の来世に幸多からんことを」
 そう言うと、牢獄の鉄格子は消え去った。しづかは修太朗に、
「ユキを呼べ。ひなたを見せてやれ」
 という。修太朗がひなたを掲げて、
「ユキ、ここだ。修太朗とお前の子供ひなただ」
 そう叫ぶと、ひときわ大きな魂がひなたのもとへ近づいてきた。それを見たひなたが、
「まま……」
 と、口にした瞬間、魂がひなたに擦り寄り激しく明滅し始めた。ユリもそれを見て、「ようやく私が私になれそうですね……」
と言って一筋の涙を流したのだった。


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