武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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六七、神格

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 修太朗はさらに事情を聞くことにした。
「何故カミュの父がマーラに?」
「南極点がどうなっているか知っているか?」
 そういう王碧に修太朗は通常極点は氷の世界だろうというと、この星の南極点はそれが崩れているとのことだった。そして崩れているのは南極点だけではなく、北極点もだという。理由を聞く修太朗に、
「マーラが地軸を少しずつずらしたためだ」
 と、王碧は告げた。マーラは主神となってから頑強に抵抗する王碧とカミュの父の力を弱めるために長年かけて徐々に地軸をずらすと、北極点と南極点を移動させた。そのことによって気候変動が発生し、この星の極点周辺は大地が崩壊したという。星から生み出された氷の神はその最も大きな氷が存在する大地そのものなのだという。
「つまり、南極と北極の大地が崩壊したということか」
「そうだな。そしてそれはカミュの父そのものが崩壊することと同意義なのだ」
 カミュの父は自らが崩壊することも厭わずマーラに抵抗を続けてきたが、衰えた力は戻らず、マーラに捕らえられてしまったという。そして、マーラはこの楽園の住民たちに力を誇示するように満月の日、カミュの父を天空から煩悩の鎖で逆さ吊りにして見せつけるそうだ。
「カミュの父はマーラに力を与えることを望まず、捕らえられたときに名を捨て神格を捨てたのだ」
 王碧はそう悔しそうに話し、続けた。
「だが、マーラは名を捨て神格を捨てたカミュの父の目を潰して、耳をそぎ鼻まで落とすと、さらに手を加えて五感全てを奪ったのだ」
そのためカミュの父は音もなく光もない場所に数百年ほど閉じ込められ、カミュとセレナが結婚したことも、また孫娘がいることも知らず、ただ満月の日にさらされるだけの生ける屍と化してしまったのだという。
 その時、セレナが口を開いた。
「ユリの持つ白冥刀なら義父を再生できるのではないかと……」
 そこでユリを見ると、
「白冥刀で斬ると必ず輪廻転生の輪をくぐります。何らかの形で再生はさせられますが、以前のように神格を持った氷の神として復活できるのかどうかは……わかりません」
 そこでカミュがユリに告げた。
「それで構いません。少なくとも今のように終わりのない苦しみからは解放されます」
 と頼みこんだ。王碧も、
「もう見てられないのだ……。楽にしてやってくれ……」
 と涙を流して頼みこんだ。さらに王碧が泣きながら、
「マーラがカミュの父をぶら下げている煩悩の鎖は自分では斬れなかった。だが修太朗は斬ることが出来る。鎖を修太朗が斬り裂き、ユリにカミュの父を斬ってほしい」
 と二人に頼み込む。修太朗とユリは顔を見合わせて頷いて承諾したのであった。

 それからしばらくは平和な日々が続いていた。この楽園島はかなり大きな島で、地球なら大陸と呼んでもよさそうなほどの面積がある自然豊かな島であった。周辺の海からは王碧によって大量の海の幸がもたらされており、氷の化身カミュが氷山を創り出してその水を人々が利用していた。人口も数百万はいるとのことだった。人々は開けた場所に街を作り、互いに支え合いながらこの惑星マリシャスを生き抜いてきたのだ。修太朗が王碧に聞くところでは、マーラは主神になると各地の王族などを煩悩で支配し世界中で戦争をはじめさせたのだという。戦争によって引き起こされる数々の悲劇はマーラに力を与え続けた。だが、数十億以上の人々が互いに殺し合い人口が減少しだすと、マーラは各地域を分断し、人間が繁殖して増えるのを待ったという。そして増えた人間を修太朗が破壊したシャングリラに送り込み恐怖と絶望を与え、さらに抵抗する各地の神々をもその奸計で捉えると吸収し力をつけた。
「だが」
 と王碧はいう。
「神々だけではなく、人間でもマーラに屈せず煩悩に染まらない存在が沢山あった」
 と。それらの存在はカミュの父から奪い取った南極点に牢獄を作り押し込められているそうだ。未来永劫解放されることなく輪廻転生の輪をくぐらせないことで魂たちに絶望をあおり、煩悩に汚染しようとしているらしい。
 それを聞いた修太朗は血が出るほど手を握りしめた。
 ユキがそんなところで苦しんでいる……その事実は修太朗にとって地獄でしかなかったのだ。
 そんな修太朗に王碧は諭すようにいう。
「修太朗、憎しみや怒りも煩悩だ。恨みもそうだ。思い続ければ魔に落ちるぞ。目の前にある光景を見てみろ。ユリにセレナ、カミュ、マリアにひなた。そしてこの地の人々。ユキは修太朗が魔に落ちることを決して望まないだろう。ユキの魂が穢れるとしたら修太朗が魔に落ちたときだ。冷静になれ。そして皆が望む未来を切り開くためにその力を使え」
 その王碧の言葉を聞いた修太朗にユリが寄り添う。ひなたを抱いたマリアも寄ってきた。カミュとセレナも目に涙を浮かべながら修太朗の傍に来てくれた。修太朗は自分を思ってくれる人々のために心を強く持とうと自分を鼓舞するかのように、
「ありがとう」
 と、皆に礼を述べた。

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