武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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六三、砂漠

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 夜が訪れ辺りを夕闇に染める。修太朗達はこの場で無念に旅立った数多くの人々のために祈りを捧げた。そしてユリに聞く。
「よく、あれが魂喰いだと分かったね」
「現人神泣かせで有名なのです」
「現人神泣かせ?」
「はい。通常は修太朗さんのように複数の神気を使い分けたりできません。虫は弱いのですが、その周りを覆う魂は虫に支配されている状態ではすぐに浄化できません。虫はその場に漂う汚れた魂をすぐに集めて何度でも再生します。特にこの場所は……」
「……大量の魂が絶望した場所、だね」
「はい。ですから、あれだけ強力な存在になったと思います」
 その時、修太朗の頭上にある月が突如まばゆく輝きだした。
「あれは……」
「おそらく月にいるマーラの眷族をどなたかが倒したのでしょうね」
 それを聞いて修太朗は、力を貸してくれた仲間たちへと感謝を捧げた。残るマーラの眷族は二つのはず。必ず打倒して見せると修太朗は輝く月に誓った。
 修太朗達は、そのまま赤道を目指して南下することにした。だんだんと肌を焦がす紫外線が強まっていくのを感じながらひたすらに南へ向かった。海のような広さの大河を越え、三日ほど進んだ日の夜、半月になっていた月の光がまたしても強くなった。修太朗達は、また仲間たちがマーラの眷族を倒したのだろうと笑みを浮かべて感謝を捧げた。その次の日、修太朗達の目の前に広大な砂漠が広がっていた。修太朗はユリたちを待たせて高速で空を飛び、空路で砂漠を横断してみた。特に何もないことを確認すると、砂漠を避けて西へ進もうと進路を変えようとした。しかし突然ひなたがぐずりだし、修太朗とユリが二人であやしても言うことを利かない。
「困ったな」
「困りましたね」
「なあ、ひなた、どうしたいの?」
 修太朗とユリがそう聞くと砂漠を指差して笑う。
「こっちに行けと言っているのかな……」
「そうとしか思えませんね」
「しょうがない。飛んでいくことにするか」
 修太朗がそう言うとまたしても泣き出した。
「なあ、ユリ。歩いて行けと言っているのかな?」
「……不思議ですけど何かを感じているのかもしれませんね」
 修太朗とユリはひなたの意思に従うかのように砂漠に足を踏み入れたのであった。
 それから数日間徒歩で砂漠を歩き、砂漠の中央付近に差し掛かると、またしてもひなたが泣き出した。ひなたの意思を尊重しようと東、西に踏み出してみると、東に行けと言っているような仕草をしたのでしばらく東に進む。するとまたしても泣き出したので、またひなたの意思を確認しようとすると東西南北どちらを向いても泣き止まない。修太朗はユリと相談して、この場所に何かあるのではないかと考えた。とりあえず、日が高くなっていることもあり後ほど地下を探そうと考え、休息をとった。
 やがて太陽が真上に昇る。
「そろそろ赤道直下だね」
「はい。そろそろ何かあってもよさそうな気がするのですが……」
 すると、砂漠に突風が吹いた。
「修太朗さん、あれは?」
「……何かの線みたいに見えるね」
 そう言うと、二人は上空から地表を眺めた。背後から照りつける赤道直下の強烈な太陽の光が二人の影を地表に写すことすら許そうとはしない。地面から照り返す日の光が視界を遮る。二人が地表の線を見ていると徐々に長くなってゆく。その線はやがて一筆書きの要領で五芒星を描いた。次に五芒星の頂点に輪が描かれる。さらに、その輪が消されていくと今度は五芒星の中心部に輪が描き出される。そして、その輪の中央に正四角錘の形状の物体が浮かび上がった。それ以降は変化がないため、その正四角錘のそばに寄っていく。すると、その正四角錘の物体は修太朗が背負っていたひなたのもとに飛んで行った。ひなたはそれを嬉しそうに受け取る。修太朗がひなたからその正四角錘の物体を眺めると半透明な乳白色をしていた。すると、その正四角錘から弱弱しい一人の人が出てくる。
「……修太朗さん、この人は残滓ですね」
「残滓……」
「かなり弱っていますが間違いないと思います」

 修太朗達は、その残滓に世界樹の雫を飲ませた。すると、
「私は……主神。最後……言付けたい。すべての……は開か」
 そこまで言うと残滓は霧がかすむかのように消え去ってしまった。その直後、砂漠を覆っていた砂が舞い上がると通路が現れ、進むと一本の杖が台座に刺さっていた。その杖を抜こうと手を伸ばすと弾き返されてしまう。二人は主神が何か意味を持たせているかもしれないと考え、一旦そのままにしておくことにした。
「主神と言っていたね」
「はい。確かに……この惑星マリシャスはマーラが主神となってからおよそ三〇〇〇年は経ちます」
「……三〇〇〇年か。全ての何だろう?」
「先ほどの絵だと月に関係しているように思いますね……」
「そうかもしれない」
 いずれにしても、自分たちがなすべきことは変わらないと思いなおした二人は主神に敬意を表して祈りを捧げて先に進むことに決めたのである。
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