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六一、尊厳
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修太朗達はそのまま次の日まで大人しく過ごしていた。その日の地下空間は誰も一言も発せず、ひりついた空気が漂っていた。だが、息を潜めて災難をやり過ごそうとする人々の願いは届かなった。天井に空いた出入り口から異形の存在が侵入してきたのだ。
「へへへ、ようやく見つけたぜ」
「ひひひ、これで俺たちも中央の住民だな」
そう言いながら入って来たのは二足歩行の蜥蜴たちだった。地下空間の住民たちがトカゲ野郎と呼んでいた連中だということはすぐに分かった。トカゲ野郎達は近くにいた人をいきなり手に持っていた鉄棒で殴りつけた。呻く人を蹴りつけ全員に死刑宣告をした。
「お前たちは今日マーラ様に捧げる生贄になるのだ」
と。だが昨日の少年たちだろうか、棒を持ってトカゲ野郎達に殴り掛かったものがいた。しかし、トカゲ野郎達は蚊にでも刺されたかのように無反応で、反対に長い舌を伸ばすと殴り掛かった少年をべろりと舐めた。舐められた少年は皮膚がただれのたうち回って苦しみだした。
「マーラ様に捧げる大事な生贄だからな、殺すのは止めておく。だが、しばらく苦しめ」
そこまで言った時、そのトカゲ野郎達は全員が一瞬で真っ二つになり、黒夜叉の錆となっていた。修太朗達は怪我人を手当てすると、昨日話をしてくれた世話役に声を掛けた。
「さて、トカゲ野郎達を斬ってしまったが、どうなると思う?」
「時間の問題だろうな。今ここに来たということは満月に合わせて来たということだ。つまり、この場所がトカゲ野郎達にばれている、ということだ」
「ふむ。では、あの広場で大暴れしたら時間稼ぎができると思うか?」
「やめておけ。大天狗に天狗達、大鬼に小鬼、リザード族まで大量にいるぞ」
「リザード族?」
「そこのトカゲ野郎達のことだ。あんたは瞬殺してしまったが奴らの鱗は固く、口から毒の入った唾を吐く。その唾がかかると、あんな風に皮膚が溶けていくんだ」
「わかった。では先に外壁を壊してこの街の外に出られるようにしてから、ひと暴れしてやるよ。全員に準備させろ」
「本気なのか?」
「満月の日に出てくるマーラの眷族を探してここにきたんだ。気にするな」
修太朗にそう言われて住民たちは地下空間から脱出し、外壁までたどり着くと、修太朗が外壁を壊して外に出した。すると、大量の追手が現れる。
「予定より早いけど、ここから暴れながら進むか」
そう言うと、まずはラーを銀獅子の姿に変え突撃させた。見上げる巨体に変身したラーは鬱憤を晴らすかのように暴れまわった。マーラの信奉者達が暮らす街は瞬く間に瓦礫へと変わり果てていく。修太朗とユリが塔めがけて進んでいると、前方に赤い貫頭衣を着て、顔を赤い布で覆った集団が行く手を阻んだ。
「何故、このようなことをするのだ?」
と、貫頭衣の男が修太朗を非難する。
「……あんた達は人間だろ。何故マーラを信仰する?」
問いかける修太朗を無視して、貫頭衣の男は塔の頂上を指さした。そこには彼らと同じく赤い貫頭衣を着た者が次々と人々を突き落としていた。ラーが駆け回り人々を背に回収すると地面におろす。その様子を見て忌々し気に男は顔を覆っていた赤い布をとった。そこには人間では有り得ない赤い目をして犬歯を伸ばした男の「姿があった。
「我らはマーラ様に全てを捧げ新たに眷族となった選ばれし存在だ。我らの絶対の信仰を邪魔立てすることは許さん」
「……人外に堕ち、身の保身を図ったのか。憐れな」
修太朗がそう言うと、貫頭衣の男たちは激昂した。
「憐れなど、憐れなどではない、やってしまえ」
そう言いながら向かってくる男たちの手には「選ばれし存在」とは思えない粗末な武器しかなかった。木の切れ端、小さな錆びた小刀、曲がった鉄棒……。それを見た修太朗はこの惑星マリシャスで人間が生きることの辛さを悟り、マーラに対する怒りが静かに燃え広がっていくのを感じていた。
「せめて苦しまないように一瞬で終わらせる……」
そう告げると、修太朗は文字通り全員の首を一瞬で斬り飛ばし、消滅させた。その後修太朗達は淡々と無言で敵を屠りながら塔へとたどり着くと、塔の中にいた人々を救出し、街から脱出させた。
修太朗とユリは向かってくる大天狗達も倒すと太陽を眺めた。
「丁度昼ぐらいかな?」
「そうですね」
「この人間の尊厳を踏みにじって造られた街を一瞬でも建築水準が高いなんて評した自分に腹が立つよ」
「確かに、私も同じことを考えておりました」
「夕方に出てくるマーラに瓦礫の山を見せたら楽しそうだね」
「やってしまいましょうか」
そう言うと、二人は銀獅子と化したラーも含めて徹底的に街中を破壊しつくしたのである。ラーがその巨体で突進して建物を砕く。ユリは華麗に舞いながら瓦礫を塵に変え、修太朗は瓦礫そのものを消滅させる。その途中で隠れていた人々や、転移されてきた人々も救出して脱出させると、シャングリラは修太朗がわざと残した瓦礫以外は消え去り、ただの荒野へと変わり果ててしまった。
やがて日が落ちる。修太朗とユリは芸術的な記念碑を創って待つことにした。瓦礫のオブジェを不気味な雲が覆うと、空間に瘴気が舞いだした。
「そろそろくるね」
二人は吞気に瓦礫の片隅に隠れると、ラーも仔猫の姿になって、マーラが降臨するのを観察することにした。
「へへへ、ようやく見つけたぜ」
「ひひひ、これで俺たちも中央の住民だな」
そう言いながら入って来たのは二足歩行の蜥蜴たちだった。地下空間の住民たちがトカゲ野郎と呼んでいた連中だということはすぐに分かった。トカゲ野郎達は近くにいた人をいきなり手に持っていた鉄棒で殴りつけた。呻く人を蹴りつけ全員に死刑宣告をした。
「お前たちは今日マーラ様に捧げる生贄になるのだ」
と。だが昨日の少年たちだろうか、棒を持ってトカゲ野郎達に殴り掛かったものがいた。しかし、トカゲ野郎達は蚊にでも刺されたかのように無反応で、反対に長い舌を伸ばすと殴り掛かった少年をべろりと舐めた。舐められた少年は皮膚がただれのたうち回って苦しみだした。
「マーラ様に捧げる大事な生贄だからな、殺すのは止めておく。だが、しばらく苦しめ」
そこまで言った時、そのトカゲ野郎達は全員が一瞬で真っ二つになり、黒夜叉の錆となっていた。修太朗達は怪我人を手当てすると、昨日話をしてくれた世話役に声を掛けた。
「さて、トカゲ野郎達を斬ってしまったが、どうなると思う?」
「時間の問題だろうな。今ここに来たということは満月に合わせて来たということだ。つまり、この場所がトカゲ野郎達にばれている、ということだ」
「ふむ。では、あの広場で大暴れしたら時間稼ぎができると思うか?」
「やめておけ。大天狗に天狗達、大鬼に小鬼、リザード族まで大量にいるぞ」
「リザード族?」
「そこのトカゲ野郎達のことだ。あんたは瞬殺してしまったが奴らの鱗は固く、口から毒の入った唾を吐く。その唾がかかると、あんな風に皮膚が溶けていくんだ」
「わかった。では先に外壁を壊してこの街の外に出られるようにしてから、ひと暴れしてやるよ。全員に準備させろ」
「本気なのか?」
「満月の日に出てくるマーラの眷族を探してここにきたんだ。気にするな」
修太朗にそう言われて住民たちは地下空間から脱出し、外壁までたどり着くと、修太朗が外壁を壊して外に出した。すると、大量の追手が現れる。
「予定より早いけど、ここから暴れながら進むか」
そう言うと、まずはラーを銀獅子の姿に変え突撃させた。見上げる巨体に変身したラーは鬱憤を晴らすかのように暴れまわった。マーラの信奉者達が暮らす街は瞬く間に瓦礫へと変わり果てていく。修太朗とユリが塔めがけて進んでいると、前方に赤い貫頭衣を着て、顔を赤い布で覆った集団が行く手を阻んだ。
「何故、このようなことをするのだ?」
と、貫頭衣の男が修太朗を非難する。
「……あんた達は人間だろ。何故マーラを信仰する?」
問いかける修太朗を無視して、貫頭衣の男は塔の頂上を指さした。そこには彼らと同じく赤い貫頭衣を着た者が次々と人々を突き落としていた。ラーが駆け回り人々を背に回収すると地面におろす。その様子を見て忌々し気に男は顔を覆っていた赤い布をとった。そこには人間では有り得ない赤い目をして犬歯を伸ばした男の「姿があった。
「我らはマーラ様に全てを捧げ新たに眷族となった選ばれし存在だ。我らの絶対の信仰を邪魔立てすることは許さん」
「……人外に堕ち、身の保身を図ったのか。憐れな」
修太朗がそう言うと、貫頭衣の男たちは激昂した。
「憐れなど、憐れなどではない、やってしまえ」
そう言いながら向かってくる男たちの手には「選ばれし存在」とは思えない粗末な武器しかなかった。木の切れ端、小さな錆びた小刀、曲がった鉄棒……。それを見た修太朗はこの惑星マリシャスで人間が生きることの辛さを悟り、マーラに対する怒りが静かに燃え広がっていくのを感じていた。
「せめて苦しまないように一瞬で終わらせる……」
そう告げると、修太朗は文字通り全員の首を一瞬で斬り飛ばし、消滅させた。その後修太朗達は淡々と無言で敵を屠りながら塔へとたどり着くと、塔の中にいた人々を救出し、街から脱出させた。
修太朗とユリは向かってくる大天狗達も倒すと太陽を眺めた。
「丁度昼ぐらいかな?」
「そうですね」
「この人間の尊厳を踏みにじって造られた街を一瞬でも建築水準が高いなんて評した自分に腹が立つよ」
「確かに、私も同じことを考えておりました」
「夕方に出てくるマーラに瓦礫の山を見せたら楽しそうだね」
「やってしまいましょうか」
そう言うと、二人は銀獅子と化したラーも含めて徹底的に街中を破壊しつくしたのである。ラーがその巨体で突進して建物を砕く。ユリは華麗に舞いながら瓦礫を塵に変え、修太朗は瓦礫そのものを消滅させる。その途中で隠れていた人々や、転移されてきた人々も救出して脱出させると、シャングリラは修太朗がわざと残した瓦礫以外は消え去り、ただの荒野へと変わり果ててしまった。
やがて日が落ちる。修太朗とユリは芸術的な記念碑を創って待つことにした。瓦礫のオブジェを不気味な雲が覆うと、空間に瘴気が舞いだした。
「そろそろくるね」
二人は吞気に瓦礫の片隅に隠れると、ラーも仔猫の姿になって、マーラが降臨するのを観察することにした。
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