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五〇、不動明王
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大天狗を消滅させた後、修太朗はユリのもとに駆け寄ると世界樹の雫を飲ませた。全快したユリは修太朗に、
「……先程、武神新右衛門と名乗られましたね」
と、聞く。修太朗は、
「新右衛門と酒を酌み交わしていた時に教わった技なんだ。大天狗打倒の為に考え続けたそうだよ。時間と空間も世界の一部だから、敵のいる時間とその空間をまとめて斬り飛ばせばいいって言ってた。ただね、無茶苦茶に神力を使うんだよね。連発しては出せないかな」
そう言って、ひなたとラーが無事なのを確認すると、ユリの絣の着物が破れているのに気づいた。
「ごめんね。傷つけてしまった」
そう謝る修太朗に、
「悪いと思われているのでしたら、愛しんでください」
と、しなだれかかった。火宝石と水宝石を出してへたり込んでいた豪焔と清碧が微妙に悔しそうにしているのを横目に、そろそろ帰して欲しいと頼み、修太朗一家は豪焔と清碧に連れられて黄泉へと帰還した。
だが、修太朗一家の前に現れたのはいつものように静寂を保った黄泉の光景ではなかった。黄泉比良坂を大量の天狗が縦横無尽に飛び交い、大鬼たちが死者の行列を蹴散らしている。無名一刀斎の剣気があちこちで煌めき、しづかの神気が吹き乱れる。その横を風蓮の神気が風となって駆け抜け、紫苑の雷が轟音を轟かせる。修太朗は、黒夜叉を構えて、
「どうなっている」
と、口にする。ユリも白拍子を構えて油断なくあたりを見まわした。すると、修太朗達に気づいた大鬼がこちらに向かって走ってくる。その時、しづかの神気が一陣の風となって大鬼を飲み込むと、大鬼は死に絶え消滅した。不意に現れたしづかは修太朗達にひなたと、修太朗達と一緒に転移していた豪焔と清碧を守るように言い残すと、再び前線へと飛び出していった。
「マーラが何か仕掛けてきたのか。よくわからないが、やることは決まっているな」
「はい。私は大鬼を倒しますので、修太朗さんは天狗をお願いします」
修太朗とユリは短く会話を交わすと、豪焔と清碧に『過保護車』の傍にいるように告げて、襲い掛かる大鬼の群れと天狗と対峙した。
修太朗の大刀が風車のように砂塵を巻き上げながら振り回される。その横で可憐に舞を踊るかのようにユリが優雅に捌く。守られている豪焔と清碧は二人の織りなす動と静が混じり合う美しさに見惚れていた。豪焔と清碧が二人の動きに身惚れる中、黄泉の上空から巨大な邪な影が現れるのを見つけると、咄嗟に豪焔は修太朗達に、
「上からでかいのが来るぞ」
と、警告をした。
修太朗達が上空を見ると、そこには巨大な女の顔が現れていた。
その髪は全てが真っ赤な大蛇の姿をしていてうねうねと蠢き、血走った目からは鮮血の涙を流し、大きく裂けた口から鋭い犬歯を覗かせ、耳は千切れ、顔中に醜い傷が走っていた。その女に強大なしづかの死の神気が襲い掛かる。だが、一瞬揺らいだものの、その女は不気味に笑っていた。次々と飛来する神気。風蓮が、紫苑が、しづかがその強大な神気を惜しげもなくその女にめがけて飛ばす。修太朗もまた全身から神気を高めると、
「神刀武神流奥義、「六の太刀『世界』」」
と呟き、その女の存在する時間と空間を消滅させた。
「仕留めたか」
そう思ったのも束の間、一旦は消滅したものの、またその女は現れる。修太朗の技は大きく神力を消費するため乱発ができない。焦る修太朗がその女を睨みつけると、修太朗の前に、ラーに跨ったひなたが現れた。
「ひなた、駄目だ。戻りなさい」
そう絶叫する修太朗、しかしひなたがその女に向かって小さな両手を差し出すと、
「かーん」
と、言い、目の前に小さな不動明王を創り出した。ひなたを守るために近づいていた修太朗がひなたとラーを抱き上げると、にっこり笑ってその不動明王に、何やら指示するような動きをした。すると、その不動明王はその女に向かって飛んでいき、左手に持っていた羂索で女の顔を縛り上げ、右手に持っていた三鈷剣で女の顔を斬り裂いた。
女の顔は締め付ける羂索の力によって歪み、三鈷剣で斬りつけられた途端に絶叫して消え失せてしまった。また、女が消え失せると、あたりを埋め尽くすかのような大鬼の大群も、空を飛ぶ天狗たちも一斉に消え失せてしまった。
「どうなっている……」
抱きかかえたラーとひなたを見ながら驚く修太朗に、ユリが駆け寄る。やがて風蓮、紫苑、しづかもやって来た。
「あの女を仕留めたのは……ひなたか?」
しづかが修太朗に問う。
「ひなたが小さな不動明王を生み出して倒しました……」
修太朗が信じられないように答えた。するとユリが、
「よく新右衛門様はお不動様にお参りに行っておられました。そのお不動様のお力がひなたの力になったのではありませんか?」
「お不動様の力?」
「はい。お不動様は、降魔の三鈷剣で魔と煩悩を断ち切り、羂索で煩悩を縛るといいます。今の光景はまさしくそうではないかと思います」
「だが、それだと今の女は……」
「はい。煩悩の化身マーラだと推測致します」
そのユリの言葉に全員がしばらく沈黙したのである。
「……先程、武神新右衛門と名乗られましたね」
と、聞く。修太朗は、
「新右衛門と酒を酌み交わしていた時に教わった技なんだ。大天狗打倒の為に考え続けたそうだよ。時間と空間も世界の一部だから、敵のいる時間とその空間をまとめて斬り飛ばせばいいって言ってた。ただね、無茶苦茶に神力を使うんだよね。連発しては出せないかな」
そう言って、ひなたとラーが無事なのを確認すると、ユリの絣の着物が破れているのに気づいた。
「ごめんね。傷つけてしまった」
そう謝る修太朗に、
「悪いと思われているのでしたら、愛しんでください」
と、しなだれかかった。火宝石と水宝石を出してへたり込んでいた豪焔と清碧が微妙に悔しそうにしているのを横目に、そろそろ帰して欲しいと頼み、修太朗一家は豪焔と清碧に連れられて黄泉へと帰還した。
だが、修太朗一家の前に現れたのはいつものように静寂を保った黄泉の光景ではなかった。黄泉比良坂を大量の天狗が縦横無尽に飛び交い、大鬼たちが死者の行列を蹴散らしている。無名一刀斎の剣気があちこちで煌めき、しづかの神気が吹き乱れる。その横を風蓮の神気が風となって駆け抜け、紫苑の雷が轟音を轟かせる。修太朗は、黒夜叉を構えて、
「どうなっている」
と、口にする。ユリも白拍子を構えて油断なくあたりを見まわした。すると、修太朗達に気づいた大鬼がこちらに向かって走ってくる。その時、しづかの神気が一陣の風となって大鬼を飲み込むと、大鬼は死に絶え消滅した。不意に現れたしづかは修太朗達にひなたと、修太朗達と一緒に転移していた豪焔と清碧を守るように言い残すと、再び前線へと飛び出していった。
「マーラが何か仕掛けてきたのか。よくわからないが、やることは決まっているな」
「はい。私は大鬼を倒しますので、修太朗さんは天狗をお願いします」
修太朗とユリは短く会話を交わすと、豪焔と清碧に『過保護車』の傍にいるように告げて、襲い掛かる大鬼の群れと天狗と対峙した。
修太朗の大刀が風車のように砂塵を巻き上げながら振り回される。その横で可憐に舞を踊るかのようにユリが優雅に捌く。守られている豪焔と清碧は二人の織りなす動と静が混じり合う美しさに見惚れていた。豪焔と清碧が二人の動きに身惚れる中、黄泉の上空から巨大な邪な影が現れるのを見つけると、咄嗟に豪焔は修太朗達に、
「上からでかいのが来るぞ」
と、警告をした。
修太朗達が上空を見ると、そこには巨大な女の顔が現れていた。
その髪は全てが真っ赤な大蛇の姿をしていてうねうねと蠢き、血走った目からは鮮血の涙を流し、大きく裂けた口から鋭い犬歯を覗かせ、耳は千切れ、顔中に醜い傷が走っていた。その女に強大なしづかの死の神気が襲い掛かる。だが、一瞬揺らいだものの、その女は不気味に笑っていた。次々と飛来する神気。風蓮が、紫苑が、しづかがその強大な神気を惜しげもなくその女にめがけて飛ばす。修太朗もまた全身から神気を高めると、
「神刀武神流奥義、「六の太刀『世界』」」
と呟き、その女の存在する時間と空間を消滅させた。
「仕留めたか」
そう思ったのも束の間、一旦は消滅したものの、またその女は現れる。修太朗の技は大きく神力を消費するため乱発ができない。焦る修太朗がその女を睨みつけると、修太朗の前に、ラーに跨ったひなたが現れた。
「ひなた、駄目だ。戻りなさい」
そう絶叫する修太朗、しかしひなたがその女に向かって小さな両手を差し出すと、
「かーん」
と、言い、目の前に小さな不動明王を創り出した。ひなたを守るために近づいていた修太朗がひなたとラーを抱き上げると、にっこり笑ってその不動明王に、何やら指示するような動きをした。すると、その不動明王はその女に向かって飛んでいき、左手に持っていた羂索で女の顔を縛り上げ、右手に持っていた三鈷剣で女の顔を斬り裂いた。
女の顔は締め付ける羂索の力によって歪み、三鈷剣で斬りつけられた途端に絶叫して消え失せてしまった。また、女が消え失せると、あたりを埋め尽くすかのような大鬼の大群も、空を飛ぶ天狗たちも一斉に消え失せてしまった。
「どうなっている……」
抱きかかえたラーとひなたを見ながら驚く修太朗に、ユリが駆け寄る。やがて風蓮、紫苑、しづかもやって来た。
「あの女を仕留めたのは……ひなたか?」
しづかが修太朗に問う。
「ひなたが小さな不動明王を生み出して倒しました……」
修太朗が信じられないように答えた。するとユリが、
「よく新右衛門様はお不動様にお参りに行っておられました。そのお不動様のお力がひなたの力になったのではありませんか?」
「お不動様の力?」
「はい。お不動様は、降魔の三鈷剣で魔と煩悩を断ち切り、羂索で煩悩を縛るといいます。今の光景はまさしくそうではないかと思います」
「だが、それだと今の女は……」
「はい。煩悩の化身マーラだと推測致します」
そのユリの言葉に全員がしばらく沈黙したのである。
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