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四九、大天狗
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その星での浄化作業は難なく進んだ。案内された場所に転移して紫苑から得た神気を発すれば、鉱山の中にある瘴気は簡単に浄化できた。何の手ごたえもないままに、まるで家族旅行を楽しんでいるかのような日々が続いていた。
「さて、この星での仕事はこれで終わりかな?」
「ああ、助かったのだ。礼においらを嫁にくれてやるぞ」
「あのなぁ、ユリが聞いたら……って、ほら」
懲りずに脱兎のごとく逃げる豪焔をユリが追いかけまわしていた。そんな平和な光景を横目に見ながら、清碧に、
「世話になったな。ありがとう」
と、修太朗は礼を言っていた。
「いいえ、礼を言うのはこちらでございます。ほんにありがとうございました」
そう言って、清碧はおっとり頭を下げた。
そして、豪焔を呼ぶ。
「しづか様が仰せの通り、我ら水の神と火の神の秘宝、水宝石と火宝石をお渡しします。水宝石は水を自在に扱えるだけではなく、治癒能力を得ることができます。また、火宝石は火を自在に操り、生命力を高めて能力を底上げします」
「そんな貴重なものを頂いていいのですか?」
「はい。わらわ達の体の中で常に作り続けているものです。ですが、これを出すとしばらく神力が弱ってしまいますので、安全な時でないと出せません。そちらのひなたさんの魂鎧にお使いください」
そう言うと、二人は一気に神力を高めて二つの大きな赤と青の宝石を取り出した。
「ふぅ、流石に一〇〇〇年ぶりだと疲れますね」
「あぁ、一〇〇〇年ぶりに糞が出た気分だ」
全く対照的な二人を見ながら修太朗は感謝をして水宝石と火宝石を受け取った。
すると、
「おお、よいわよいわ。その二つの宝石をよこせやよこせ」
と、天空から転移してくる存在があった。
不気味に渦巻くその場所からは、煩悩の化身マーラの眷族である天狗が現れた。
だが、その天狗を見た瞬間、ユリの顔色がかわった。
「修太朗さん、そいつはただの天狗ではなく、大天狗です」
ユリにそう言われてよく見ると、山伏の衣装を身に着けているのは同じであったが、前回の天狗とは違い、兜巾が金色であった。また、腰にほら貝をぶら下げて、先端のとがった錫杖を持っていた。
「大天狗は幻術に長けています。ご注意ください」
ユリは修太朗に忠告すると白拍子を構えてひなたを守る体制になった。
「おおう、ようみれば旨そうな至誠の御霊までもおるわおるわ」
そう言うと、大天狗は『過保護車』の脇に転移してひなたに手を伸ばしてさらおうとした。しかし、『過保護車』から、しづかの死の神気が発すると大天狗はまたしても転移して逃げた。
「おおう、こわいこわい。さすがに黄泉の大神の神気はこわいこわい」
と、言うと、またしても大天狗は転移して修太朗の背後をとる。その大天狗を斬るため、修太朗は、
「二の太刀『破邪顕正』」
と、呟き、自分の周囲に同心円状の剣気を飛ばす。
だが、次の瞬間、修太朗は確かに技を出したはずなのに、技を出す前の体制で大天狗がもつ錫杖に胸を貫かれていた。
「ぶざまよぶざま。ほんの少し時を戻せば、ぐさりぐさり」
と、言うと、修太朗の全身を錫杖が貫いていく。修太朗が抵抗しようにも動こうとした瞬間にはもう錫杖に貫かれていた。その時、
「二の舞『胡蝶』」
そう言って、ユリが白拍子を手に舞い踊る。白拍子の刃は大天狗ではなく、修太朗の周囲を蝶が舞うかのように優雅に煌めかせながら奔る。修太朗は動けるようになると、その隙に世界樹の雫を飲み、傷を回復させた。
すると、大天狗は忌々しそうに舌打ちをしながら、
「戻った時を再生し、元に戻すとは、やっかいやっかい」
そう言いながら、少し距離をとった。
「ありがとうユリ。今のは?」
と、修太朗が問うと、
「大天狗はあのほら貝の力で、相手の時間を少しずつ戻しながら攻撃してきます。私は、修太朗さんに絡みついていた時間を戻すほら貝の法力を斬り捨てました」
「時間を戻す法力……」
「はい、非常に厄介です。新右衛門様もその法力に巻き込まれ幻術にやられました」
それを聞いた修太朗に闘志が宿る。
「じゃぁ、雪辱戦ってやつだ」
そう言って、黒夜叉を構える。その修太朗の姿を見て大天狗は、
「むだよむだよ、あきらめよあきらめよ」
と、呟き、今度はほら貝を手に持ち大きく吹き鳴らした。すると次の瞬間、
「うっ」とうめき声が聞こえたかと思うと、ユリの腹部を錫杖が貫いていた。大天狗はにやりと笑うとまたしても修太朗の正面に立つ。
「くやしかろ、くやしかろ。まもれずまもれず」
と、からかいだした。
修太朗の胸中にこの上ない口惜しさがこみ上げてくる。だが、修太朗はユリの傷が腹部の一か所だけであることを確認すると、大天狗に口上を述べた。
「聞け、大天狗。拙者は武神新右衛門。現人神にして魔を誅するものなり。いざ尋常に勝負せよ」
そこまで言うと、大天狗に向かって走り出した。
「つがいなきかなしさかな、錯乱したのか、ゆかいやゆかい」
そう言うと、またもやほら貝を吹き鳴らす。修太朗は走りながら、
「三の太刀『蜷局』」
と、呟き、紫苑の神気を纏わせた黒夜叉を視認できない速度で全身に奔らせる。その姿は全身を刃の鎧が包み込むかのようであった。もし、大天狗の放つ法力に色がついていて視認出来たとしたら、黒夜叉が法力という存在を斬り捨てる様を見ることができたであろう。
だが、そんな修太朗の姿を見ても大天狗は余裕の表情で錫杖を振り鳴らし、転移して逃げようとする。大天狗の姿がかき消えようとした瞬間、修太朗は、
「この瞬間を六〇〇年待ってたぜ」
そう呟くと、
「神刀武神流奥義、六の太刀『世界』」
と、叫んだ。すると、修太朗の体に大蛇が蜷局を巻くように絡みついていた黒夜叉が修太朗の周りに蓮の花が開くかのような幻影を形作る。しづかの神気、風蓮の神気、紫苑の神気、修太朗の周りを三色の神気が取り囲み大輪の蓮の花が開く。蓮の花が開ききった瞬間、転移していたはずの大天狗が五体をばらばらにされて空間から落ちてくる。その大天狗の虚ろな目を見て、修太朗は、
「消えろ」
と、呟くと、神速の刀捌きで大天狗の存在を消滅させたのである。
「さて、この星での仕事はこれで終わりかな?」
「ああ、助かったのだ。礼においらを嫁にくれてやるぞ」
「あのなぁ、ユリが聞いたら……って、ほら」
懲りずに脱兎のごとく逃げる豪焔をユリが追いかけまわしていた。そんな平和な光景を横目に見ながら、清碧に、
「世話になったな。ありがとう」
と、修太朗は礼を言っていた。
「いいえ、礼を言うのはこちらでございます。ほんにありがとうございました」
そう言って、清碧はおっとり頭を下げた。
そして、豪焔を呼ぶ。
「しづか様が仰せの通り、我ら水の神と火の神の秘宝、水宝石と火宝石をお渡しします。水宝石は水を自在に扱えるだけではなく、治癒能力を得ることができます。また、火宝石は火を自在に操り、生命力を高めて能力を底上げします」
「そんな貴重なものを頂いていいのですか?」
「はい。わらわ達の体の中で常に作り続けているものです。ですが、これを出すとしばらく神力が弱ってしまいますので、安全な時でないと出せません。そちらのひなたさんの魂鎧にお使いください」
そう言うと、二人は一気に神力を高めて二つの大きな赤と青の宝石を取り出した。
「ふぅ、流石に一〇〇〇年ぶりだと疲れますね」
「あぁ、一〇〇〇年ぶりに糞が出た気分だ」
全く対照的な二人を見ながら修太朗は感謝をして水宝石と火宝石を受け取った。
すると、
「おお、よいわよいわ。その二つの宝石をよこせやよこせ」
と、天空から転移してくる存在があった。
不気味に渦巻くその場所からは、煩悩の化身マーラの眷族である天狗が現れた。
だが、その天狗を見た瞬間、ユリの顔色がかわった。
「修太朗さん、そいつはただの天狗ではなく、大天狗です」
ユリにそう言われてよく見ると、山伏の衣装を身に着けているのは同じであったが、前回の天狗とは違い、兜巾が金色であった。また、腰にほら貝をぶら下げて、先端のとがった錫杖を持っていた。
「大天狗は幻術に長けています。ご注意ください」
ユリは修太朗に忠告すると白拍子を構えてひなたを守る体制になった。
「おおう、ようみれば旨そうな至誠の御霊までもおるわおるわ」
そう言うと、大天狗は『過保護車』の脇に転移してひなたに手を伸ばしてさらおうとした。しかし、『過保護車』から、しづかの死の神気が発すると大天狗はまたしても転移して逃げた。
「おおう、こわいこわい。さすがに黄泉の大神の神気はこわいこわい」
と、言うと、またしても大天狗は転移して修太朗の背後をとる。その大天狗を斬るため、修太朗は、
「二の太刀『破邪顕正』」
と、呟き、自分の周囲に同心円状の剣気を飛ばす。
だが、次の瞬間、修太朗は確かに技を出したはずなのに、技を出す前の体制で大天狗がもつ錫杖に胸を貫かれていた。
「ぶざまよぶざま。ほんの少し時を戻せば、ぐさりぐさり」
と、言うと、修太朗の全身を錫杖が貫いていく。修太朗が抵抗しようにも動こうとした瞬間にはもう錫杖に貫かれていた。その時、
「二の舞『胡蝶』」
そう言って、ユリが白拍子を手に舞い踊る。白拍子の刃は大天狗ではなく、修太朗の周囲を蝶が舞うかのように優雅に煌めかせながら奔る。修太朗は動けるようになると、その隙に世界樹の雫を飲み、傷を回復させた。
すると、大天狗は忌々しそうに舌打ちをしながら、
「戻った時を再生し、元に戻すとは、やっかいやっかい」
そう言いながら、少し距離をとった。
「ありがとうユリ。今のは?」
と、修太朗が問うと、
「大天狗はあのほら貝の力で、相手の時間を少しずつ戻しながら攻撃してきます。私は、修太朗さんに絡みついていた時間を戻すほら貝の法力を斬り捨てました」
「時間を戻す法力……」
「はい、非常に厄介です。新右衛門様もその法力に巻き込まれ幻術にやられました」
それを聞いた修太朗に闘志が宿る。
「じゃぁ、雪辱戦ってやつだ」
そう言って、黒夜叉を構える。その修太朗の姿を見て大天狗は、
「むだよむだよ、あきらめよあきらめよ」
と、呟き、今度はほら貝を手に持ち大きく吹き鳴らした。すると次の瞬間、
「うっ」とうめき声が聞こえたかと思うと、ユリの腹部を錫杖が貫いていた。大天狗はにやりと笑うとまたしても修太朗の正面に立つ。
「くやしかろ、くやしかろ。まもれずまもれず」
と、からかいだした。
修太朗の胸中にこの上ない口惜しさがこみ上げてくる。だが、修太朗はユリの傷が腹部の一か所だけであることを確認すると、大天狗に口上を述べた。
「聞け、大天狗。拙者は武神新右衛門。現人神にして魔を誅するものなり。いざ尋常に勝負せよ」
そこまで言うと、大天狗に向かって走り出した。
「つがいなきかなしさかな、錯乱したのか、ゆかいやゆかい」
そう言うと、またもやほら貝を吹き鳴らす。修太朗は走りながら、
「三の太刀『蜷局』」
と、呟き、紫苑の神気を纏わせた黒夜叉を視認できない速度で全身に奔らせる。その姿は全身を刃の鎧が包み込むかのようであった。もし、大天狗の放つ法力に色がついていて視認出来たとしたら、黒夜叉が法力という存在を斬り捨てる様を見ることができたであろう。
だが、そんな修太朗の姿を見ても大天狗は余裕の表情で錫杖を振り鳴らし、転移して逃げようとする。大天狗の姿がかき消えようとした瞬間、修太朗は、
「この瞬間を六〇〇年待ってたぜ」
そう呟くと、
「神刀武神流奥義、六の太刀『世界』」
と、叫んだ。すると、修太朗の体に大蛇が蜷局を巻くように絡みついていた黒夜叉が修太朗の周りに蓮の花が開くかのような幻影を形作る。しづかの神気、風蓮の神気、紫苑の神気、修太朗の周りを三色の神気が取り囲み大輪の蓮の花が開く。蓮の花が開ききった瞬間、転移していたはずの大天狗が五体をばらばらにされて空間から落ちてくる。その大天狗の虚ろな目を見て、修太朗は、
「消えろ」
と、呟くと、神速の刀捌きで大天狗の存在を消滅させたのである。
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