武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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四八、温泉

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 修太朗が目を覚ましてから数日が経った。
完全に回復した修太朗はひなたとラーをその背中に乗せ「お馬さん」となっていた。その様子をしづかと風蓮は見て、次の修行の前に少し休憩させようかと話をしていた。するとその時、しづかたちの前に一人の長身の女性が荒々しく現れた。
「修太朗ってのはどいつだ?」
 そう言ってあたりを睥睨し、しづかと風蓮を見ると、
「大神が二人もそろって何やってんだ?」
 と、屈託なく言う。
「相変わらずですね豪焔殿。何の用事ですか?」
 と、風蓮が言うと、
「紫苑に頼もうと思ったら修太朗を探せって言われたんだよ」
 と、答えた。
 その様子を見て、「お馬さん」をしていた修太朗がひなたをユリに預けてやって来た。そこで詳しく事情を聞いてみることにした。
 豪焔が言うには、豪焔が管理している小さな星にも惑星アークと同じく瘴気爆弾が撃ち込まれたらしい。爆弾は既に処理しているが大量の瘴気を吸い込んだ鉱山が汚染されているので、その浄化を紫苑に頼もうとしたところ、修太朗がよいと推薦されたとのことであった。
「なんせ小さな星だからな、おいらが屁こいて寝てる間に一気に汚染されちまって、清碧が必至こいて守ってくれたんだが、どうしても汚染が消せない場所ができちまってよ、慌てて半邪神とかやらは燃やし尽くしてやったんだがよ、そしたら清碧が怒り狂って紫苑様に頼み込んで来いって言いやがって、しゃあないから来たんだよ」
 と、まるで子供みたいであった。そんな豪焔を横目に風蓮は、
「彼女の名は豪焔。火の神です。多少気性に問題がありますが根はいいと思いますよ」
 と、ため息をつきながら修太朗に紹介した。豪焔は修太朗よりも背が高かった。真っ赤な髪に、気の強そうな眼をしていて、その豊満な体を赤い炎のような薄衣に包み、半分胸をあらわにし、太腿をさらして扇情的な格好をしていた。修太朗が、
「武神修太朗です」
 と、挨拶をすると、いきなりその腕を掴み取り、
「おいらの星には温泉がいっぱいあるぞ。お前いい男だな。一緒に温泉に入ろうぜ」
 と、連れて行こうとしたのだが、ユリが神速の抜刀を見せて白拍子の切っ先を豪焔の喉元に突きつけた。慌てて豪焔は、
「よ、嫁がいるなら先に言え。お、おいらはまだ何もしてない。許せ、いや、許してください」
 と、うろたえながら手を離した。
 その様子を冷ややかに見ていたしづかと風蓮は、
「その豪焔が管理する星は、惑星イース。そこでは貴重な鉱石が取れる。のんびりと温泉旅行をしながら瘴気を消し去り、豪焔と清碧に礼として火宝石と水宝石をもらって来ればよい」
 と、行かせることにした。だが、性懲りもなく豪焔は、
「なぁ、奥さん、ユリさんだっけか。一晩だけ旦那を貸してくれないか。日照りが長いんだよ」
 などと持ち掛けて、ユリの刀の錆に何度もなりかけていた。

 修太朗一家は旅支度を整えると豪焔によって惑星イースに転移した。すると、目の前に、小柄な女性がいた。その女性は豪焔とは対照的に青い髪に大人しそうな印象を与える目鼻立ちに、ほとんど肌の露出のない薄青色の袴姿をしていて清楚な佇まいをしていた。
「わらわは清碧と申します。よろしゅう」
 と、おっとり挨拶をした。
 修太朗たちが挨拶をすると、
「今日はお疲れでしょう。あちらの宿の温泉が風情たっぷりですよ」
 と、宿に案内をしてくれた。その宿は和風の作りになっていて、畳の部屋に床の間があつらえてあり、そこには「明鏡止水」と書かれた掛け軸があった。またその下には古伊万里の花瓶に生け花がされていて黒い墨で書かれた掛け軸に淡く彩りを添えるかのようであった。部屋の隣には枯山水の庭園があり、その先に檜でできた大きなかけ流しの風呂がしつらえてあった。
修太朗はひなたを抱きながらユリと風呂を楽しんでいた。ラーも桶に湯を張ってやると気持ちよさそうに浸かっていた。
 日本を思い出しながら、
「確かに風情たっぷりだね」
 と、一家は温泉を堪能し、艶々になってでると、食事の準備がされていた。その食事もまさしく懐石料理そのものであり、ほんのり酸味の効いた食前酒に、酒肴として先附が出されると、繊細な技法を凝らした彩り豊かな八寸が続き、吸物、焼物、向付、椀物、揚物、飯物、菓子に至るまで実に情緒豊かな料理の数々が続いていった。そして最後に供された抹茶の渋みがじんわりと二人の心の中の郷愁をくすぐる。
 その後、女中が敷き布団を数枚重ねて畳に敷き、そばがらのまくらを置いて、寝床の準備をしてくれた。寝間着に着替えた修太朗たちは川の字になると、柔らかな羽毛の掛ふとんに包まれて夢の世界へと旅立っていったのである。

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