47 / 73
四七、絆
しおりを挟む
修太朗は夢を見ていた。
開け広げられた障子の向こうには、玉砂利を敷き詰めた庭があり、そこには松の木が数本植わっている。大石と小石が仲良くもたれあうように置かれた庭の隅には小さな池があり、備え付けられた鹿威しの奏でる音が風情を醸し出す。
いつの間にか目の前にいる男と少しぬるくなった酒を交わしていた。
男はつまみの味噌田楽をうまそうに食いながら、修太朗に酒を勧めた。一献もらいながら修太朗が呑むのを眺めて、男は言う。
「本当に良かったのか」
と。
その意味を察した修太朗は、徳利を手にして無言で男の盃へと酒を注いだ。
「拙者は現人神だと言いながら、惚れた女ひとり幸せに出来なかった」
そう言いながら、男は酒をあおった。
その男の盃にさらに酒を注いでから、修太朗は、
「まだまだ、これからだ」
そう言って、自分も酒をあおった。
田楽を口にした修太朗に男は、
「美味いだろ」
と言う。
「当たり前だ。ユリが作った田楽だ」
修太朗は、そう返した。
「礼を言うぞ」
そう言って、男が頭を下げる。修太朗は、それを止めて、
「まだ早い」
と、返してから続けた。
「あんたがいたから自分は存在している。自分がいるからあんたはこうして出てくることができる。お互いさまだ」
そう言って、修太朗は酒の入った盃を男に差し出した。
「次こそは幸せにしてやってくれ」
そう言うと男は修太朗から出された盃を一気に飲み干し、そこに酒を注いで修太朗に返す。修太朗が一気にあおるのを満足げに眺めると、
「拙者の得た剣技、全ての技、そして記憶を譲る。受け取れ」
男がそう告げた瞬間、修太朗の頭に一気に熱いものが流れ込む。修太朗が受け取ったのを確認すると、男は去り際に
「さらば修太朗」
と告げて消え去った。修太朗は男が座っていた場所を眺めながら酒をあおると、
「さようなら新右衛門」
と、誰もいない空間に向けて呟いた。
修太朗が目を覚ますと、ユリが泣きはらした顔で修太朗の隣に座っていた。目が覚めた修太朗が、ユリに、
「膝枕ではないんだね」
と、言うと、ユリは号泣しながら、
「およそ半年間眠っておいででした。世界樹の雫も効きませんでした」
と、言い出した。
「ずいぶんと長い間酒を飲んでいたんだな」
と、修太朗が呟くと、
「なにゆえ、あのようなことをされたのですか?」
と、問いただされた。修太朗は若干痛む体を起こしながらユリに言う。
「敢えて言うなら……絆かな」
「……絆でございますか?」
「そう、絆だね……。ユリと新右衛門、修太朗とユキ、ユリとユキ、新右衛門と修太朗。さらに、陽日とひなた。全ては絆で繋がっていると思うんだ」
「……絆……」
「自分は修太朗でもあり、新右衛門でもある。そう気づいた」
「……」
「その絆を確かなものにしたい。そう考える青臭い男は嫌いかな?」
修太朗がユリにそう言うと、ユリは世界樹の雫を杯に入れて修太朗に飲ませてから、
「その言い方はずるいです」
と、拗ねた仕草をして見せた。修太朗はそんなユリの顎を軽く持ち上げると、
「欲しい」
と、耳元で囁くと抱きしめた。
その日、修太朗ははじめて自分の意思でユリと一つになったのである。
開け広げられた障子の向こうには、玉砂利を敷き詰めた庭があり、そこには松の木が数本植わっている。大石と小石が仲良くもたれあうように置かれた庭の隅には小さな池があり、備え付けられた鹿威しの奏でる音が風情を醸し出す。
いつの間にか目の前にいる男と少しぬるくなった酒を交わしていた。
男はつまみの味噌田楽をうまそうに食いながら、修太朗に酒を勧めた。一献もらいながら修太朗が呑むのを眺めて、男は言う。
「本当に良かったのか」
と。
その意味を察した修太朗は、徳利を手にして無言で男の盃へと酒を注いだ。
「拙者は現人神だと言いながら、惚れた女ひとり幸せに出来なかった」
そう言いながら、男は酒をあおった。
その男の盃にさらに酒を注いでから、修太朗は、
「まだまだ、これからだ」
そう言って、自分も酒をあおった。
田楽を口にした修太朗に男は、
「美味いだろ」
と言う。
「当たり前だ。ユリが作った田楽だ」
修太朗は、そう返した。
「礼を言うぞ」
そう言って、男が頭を下げる。修太朗は、それを止めて、
「まだ早い」
と、返してから続けた。
「あんたがいたから自分は存在している。自分がいるからあんたはこうして出てくることができる。お互いさまだ」
そう言って、修太朗は酒の入った盃を男に差し出した。
「次こそは幸せにしてやってくれ」
そう言うと男は修太朗から出された盃を一気に飲み干し、そこに酒を注いで修太朗に返す。修太朗が一気にあおるのを満足げに眺めると、
「拙者の得た剣技、全ての技、そして記憶を譲る。受け取れ」
男がそう告げた瞬間、修太朗の頭に一気に熱いものが流れ込む。修太朗が受け取ったのを確認すると、男は去り際に
「さらば修太朗」
と告げて消え去った。修太朗は男が座っていた場所を眺めながら酒をあおると、
「さようなら新右衛門」
と、誰もいない空間に向けて呟いた。
修太朗が目を覚ますと、ユリが泣きはらした顔で修太朗の隣に座っていた。目が覚めた修太朗が、ユリに、
「膝枕ではないんだね」
と、言うと、ユリは号泣しながら、
「およそ半年間眠っておいででした。世界樹の雫も効きませんでした」
と、言い出した。
「ずいぶんと長い間酒を飲んでいたんだな」
と、修太朗が呟くと、
「なにゆえ、あのようなことをされたのですか?」
と、問いただされた。修太朗は若干痛む体を起こしながらユリに言う。
「敢えて言うなら……絆かな」
「……絆でございますか?」
「そう、絆だね……。ユリと新右衛門、修太朗とユキ、ユリとユキ、新右衛門と修太朗。さらに、陽日とひなた。全ては絆で繋がっていると思うんだ」
「……絆……」
「自分は修太朗でもあり、新右衛門でもある。そう気づいた」
「……」
「その絆を確かなものにしたい。そう考える青臭い男は嫌いかな?」
修太朗がユリにそう言うと、ユリは世界樹の雫を杯に入れて修太朗に飲ませてから、
「その言い方はずるいです」
と、拗ねた仕草をして見せた。修太朗はそんなユリの顎を軽く持ち上げると、
「欲しい」
と、耳元で囁くと抱きしめた。
その日、修太朗ははじめて自分の意思でユリと一つになったのである。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。


クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる