武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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四六、決意

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 ユリとひなたの元に戻った修太朗は、広場で豪快に夕食を振舞っている魔王グレンと弟グランに酒を注がれながら歌い、踊っていた。完全に日が暮れて焚火の明かりだけが煌々と周囲を染める中でも修太朗と街の人々はお祭り騒ぎをやめず、皆が舞い踊っていた。その様子を見て踊りながら修太朗は、こういうのも良いものだと思った。すると、ユリが白い巫女装束で焚火の前に出ると、手に扇子を持ちながらゆらゆらと舞い始めた。その神秘的な姿に一斉にお祭り騒ぎをしていた者たちは動きを止めて食い入るようにユリに注目した。

 ユリのたおやかな手が腰のあたりから柔らかく天へのびるとユリから発せられた神気が粒子となって夜空へ舞い上がる。扇子を開いて軽く回ると、足元からきらきらと渦を巻くように輝く粒子があたりへ拡がる。その様子に見惚れていた修太朗に豊かな胸元で合わせた手を緩やかに柔らかく伸ばすと、
「修太朗さん、そろそろお迎えがやってまいりました」
 と、告げる。

 修太朗が、空を見上げると、そこには無表情ながらも少し含み笑いをしたような紫苑がいた。魔王グレンとグランに別れの挨拶をしてから、紫苑に頷くと、修太朗たちは風蓮の館へと一気に転移して帰ってきたのであった。
 風蓮の館にはしづかも出迎えに来ていた。修太朗が風蓮達に報告を済ませると、しづかは、ひなたにじゃれつくラーを見て、
「まさか銀獅子が最初の眷族になるとは思わなかったぞ」
 と、呟き、風蓮は、
「ひなたの能力は未知数ですね……」
 と、考え込んだ。
 そんな二人を横目に紫苑は修太朗の手を握り、その目を見て
「……礼を言う」
 と、一言告げると、凄まじい神気を放った。その神気を手から流し込まれた修太朗は息もできずただ硬直していた。やがてその神気が収まると紫苑は語る。
「……我は雷そのものであり、……光を司るものなり、……我が力を役立てよ」
 そう言うと、軽く口角をあげて去っていった。
「随分気に入られたようですね」
 そう告げる風蓮に、修太朗は光とはどういうことかと聞いた。風蓮は、
「現人神の修太朗さんに紫苑の全ての力を授けることはできませんが、光に弱いもの、例えば死霊の類ならその神気を当てるだけで消滅してしまいます。それに、毒や瘴気を浄化することもできます。また、身体能力もかなり向上していて、訓練次第では音速を軽く超える速度で動くことも可能になりますよ」
 とのことであった。それを聞いた修太朗は、
「……瘴気を浄化出来るのなら、紫苑さんが行けば一発だったのではないか?」
 と、風蓮に問うと、
「修太朗さんの修行のために私から紫苑にお願いしてあったのです」
 と、返事があった。修太朗は、風蓮に、
「紫苑さんにお礼をお伝えください」
 と、深々と頭を下げて礼を言った。そして、しづかに向き直ると
「お願いがあります」
 と、切り出した。しづかがどうしたのかと修太朗に尋ねると、
「ひなたを連れて黄泉に来たその日に、戻してください」
 と、口にしたのである。その言葉にしづか、風蓮、ユリは項垂れて三人は泣きそうな顔になった。その時、
「それなら、私が神別の勾玉を使えば済みます」
 ユリが錯乱しそうになりながら言うと、
「意味が違うよ」
 と、修太朗が言う。
「ユリは魂の底からの妻だ。もう絶対に離さない。ユキの魂も取り戻す。だが、まだまだ力が足りない。永遠に現人神として生き抜くには、一つの未練を断ち切りたいんだ」

 そう言うと、しづかに向き直り
「残してきた両親がいます。ユキの両親もいます。職場の同僚たちもいます。友人達もいます。自分とひなたの分身のような存在を作り出して、自分の代わりに生きさせることはできないか」
 と、決意を込めた目で告げた。その目を見て、しづかは、
「できる」
 と言い、さらに、
「だが、それをすると修太朗は二度と戻れない」
 とも告げた。修太朗がその覚悟があるからお願いしていると頼み込むと、しづかはユリの手から神別の勾玉を受け取って、修太朗に渡した。
「使う前に世界樹の雫を数的飲んで思い切り神気を高めよ。我もそなたに力を流そう」
 風蓮も同意し、修太朗は世界樹の雫をあおるように口にした。修太朗の体がはちきれそうに感じ、眩暈がしてきた時、ひなたの髪を一本、自分の髪を一本、神別の勾玉と一緒に握り込む。
 しづかが修太朗の右肩に手を置き、風蓮は左肩に手を置く。溢れ出した神気が神別の勾玉に流れ出した時、
「願えよ、願え」
 と、しづかの鈴を鳴らすような声が聞こえた。
 修太朗が願うと、全身の力が全て抜け視界が暗転しそうになった。必死で我慢しながらなおも願うと、握っていた髪の毛が一つは修太朗に、もう一つはひなたに変わると、一気に飛び去った。
「これでよいわ」
 そうしづかの声が聞こえると、修太朗は限界を迎え倒れてしまった。
 その修太朗をユリは抱きかかえて、その顔を慈しむように撫で続けたのであった。
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