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四四、仔猫
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もうここですることがなくなったと感じた修太朗は、ひなたを連れて帰ろうと思った。
「ひなた、ありがとうな。パパを助けてくれたんだよね」
そう言って、『過保護車』を変化させようとすると、
「あえ、あえ」
と、ひなたが瘴気の噴き出ていた大穴を指差していた。まだ何かあるのかもしれないと再度気を引き締めた修太朗が黒夜叉を構えながらじりじりと大穴に近づくと、大穴近くの窪みに灰色の小さな生物が震えているのを見つけた。
「……仔猫?」
こんな北極点に何故こんな仔猫がいるのか理解に苦しみながらも修太朗は震える仔猫を抱き上げた。神気で体を暖めて亜空間収納から食べ物を取り出し与えてやると、仔猫は次第に元気を取り戻し、修太朗に擦り寄り甘えてきた。
「ほら、ひなた、猫さんだよ、可愛いな」
修太朗がひなたに仔猫を見せると、ひなたは満面の笑みになって手を伸ばして仔猫に触れた。一瞬淡い光が発したようにも思ったが、これまでのこともあり、あまり気にしなかった。だが、やはりここは北極点。だんだんと吹雪が吹き荒れ、銀世界が出来上がりつつあることからも、やがて極寒となるこの場所に仔猫を置いていくのは忍びないように思った。また、ひなたが仔猫を触って撫でているのを眺めていると、ほっこりした気持ちになり、とりあえず連れていくことにした。
世界樹までくらいなら転移できそうに思った修太朗は、その場から一気に世界樹前に転移して帰ったのである。
世界樹前の広場に戻った修太朗を見た森人達はそれこそ五体投地する勢いで泣きながら崇めはじめた。あまりの状態に居心地が悪くなった修太朗はユリの隣にいたシルフィに頼んでやめさせて貰おうとしたが、そのシルフィも同じように修太朗を崇めようとしたので、もはや収拾がつかなくなってしまった。
「お帰りなさいませ。しかし、この状況は居心地がよろしくはありませんね……」
そうユリが言うと、シルフィもようやく気が付き、慌てて森人達をなだめてやめさせたのである。
シルフィに誘われて、世界樹の中ほどにある精霊の住処に修太朗達は転移した。そこは世界樹に出来た節のような場所であり、数十人なら入れそうな空間であった。入口の外には雲海が広がり、夕陽に彩られた雲たちは幻想的な光景を醸し出していた。
「あらためてお礼申し上げます」
そうシルフィは言うと、これは森人達からの捧げものです。と、夕食を提供した。
木の実や果物、野菜に茸など潤沢な森の恵みをユリは修太朗のために天麩羅にしてくれた。食事をしながら修太朗はあらましをユリとシルフィに報告しながら、ひなたの能力について思いを馳せていた。
修太朗の話を聞いて、ユリとシルフィはやはり邪滅の力ではないかと結論付けた。生まれついての神はその司るものについては無限に神力を発することができる。だとすれば、幼いひなたであっても、その邪滅の力は無限に発揮できるはずであり、半邪神イルマ程度では消え去るしかなかったのではないか、ということであった。そして、
「不思議なのはその仔猫ですね」
と、シルフィは言った。
「あの北極点は常に氷を含んだ暴風が吹き荒れ、しかも周辺は永久凍土になっております。一部の生物は環境に適応するために進化をしておりますが、猫が住めるとは思えません」
と、シルフィが言えば、
「そうですね。しかもこの仔猫はひなたと一緒に『過保護車』の中に入って丸くなって寝ていますよね」
と、ユリも言う。
修太朗がひなたと一緒に丸くなって寝ている仔猫を見ると、薄汚れていたはずの毛並みは絹のように滑らかで艶やかなものへと変貌し、一本の抜け毛もなく、ひなたに寄り添うように眠っていた。黄泉の大神しづか特製の『過保護車』の中に入れるというのは、ひなたを害することがないということだと結論付けた修太朗は、
「ひなたの情操教育にも良さそうだし、この仔猫連れて行こうか?」
と、ユリに提案した。それを聞いたユリも賛成して仔猫は武神家の愛猫となったのである。
「でもそうなると、名前を付けないといけませんね」
「……うーん、タマ、シロ、チビ」
「少々安易かと思いますよ」
「じゃぁ、ユリも考えてよ」
「……鵺、陰火、朧車……」
「全部妖怪じゃねぇかよ」
そう言っていると、
「らー」
とひなたが声を出した。
すると、仔猫は鳴き声をあげてひなたに頬ずりをはじめた。
「らー、太陽神ラーってあったな」
そう修太朗が言うと、仔猫は嬉しそうにしっぽを振りながら修太朗に飛びつき頬ずりをはじめた。ユリが
「ラーが気に入ったのですか?」
と、仔猫に聞くと、嬉しそうに鳴きながらユリにも頬ずりをしたのである。
こうして武神家の愛猫は名前を「ラー」と名付けられ、その後の旅路を一緒に続け、後に全宇宙の邪神、悪神を震え上がらせた、邪滅を司る神ひなたの最初の眷族となったのである。
「ひなた、ありがとうな。パパを助けてくれたんだよね」
そう言って、『過保護車』を変化させようとすると、
「あえ、あえ」
と、ひなたが瘴気の噴き出ていた大穴を指差していた。まだ何かあるのかもしれないと再度気を引き締めた修太朗が黒夜叉を構えながらじりじりと大穴に近づくと、大穴近くの窪みに灰色の小さな生物が震えているのを見つけた。
「……仔猫?」
こんな北極点に何故こんな仔猫がいるのか理解に苦しみながらも修太朗は震える仔猫を抱き上げた。神気で体を暖めて亜空間収納から食べ物を取り出し与えてやると、仔猫は次第に元気を取り戻し、修太朗に擦り寄り甘えてきた。
「ほら、ひなた、猫さんだよ、可愛いな」
修太朗がひなたに仔猫を見せると、ひなたは満面の笑みになって手を伸ばして仔猫に触れた。一瞬淡い光が発したようにも思ったが、これまでのこともあり、あまり気にしなかった。だが、やはりここは北極点。だんだんと吹雪が吹き荒れ、銀世界が出来上がりつつあることからも、やがて極寒となるこの場所に仔猫を置いていくのは忍びないように思った。また、ひなたが仔猫を触って撫でているのを眺めていると、ほっこりした気持ちになり、とりあえず連れていくことにした。
世界樹までくらいなら転移できそうに思った修太朗は、その場から一気に世界樹前に転移して帰ったのである。
世界樹前の広場に戻った修太朗を見た森人達はそれこそ五体投地する勢いで泣きながら崇めはじめた。あまりの状態に居心地が悪くなった修太朗はユリの隣にいたシルフィに頼んでやめさせて貰おうとしたが、そのシルフィも同じように修太朗を崇めようとしたので、もはや収拾がつかなくなってしまった。
「お帰りなさいませ。しかし、この状況は居心地がよろしくはありませんね……」
そうユリが言うと、シルフィもようやく気が付き、慌てて森人達をなだめてやめさせたのである。
シルフィに誘われて、世界樹の中ほどにある精霊の住処に修太朗達は転移した。そこは世界樹に出来た節のような場所であり、数十人なら入れそうな空間であった。入口の外には雲海が広がり、夕陽に彩られた雲たちは幻想的な光景を醸し出していた。
「あらためてお礼申し上げます」
そうシルフィは言うと、これは森人達からの捧げものです。と、夕食を提供した。
木の実や果物、野菜に茸など潤沢な森の恵みをユリは修太朗のために天麩羅にしてくれた。食事をしながら修太朗はあらましをユリとシルフィに報告しながら、ひなたの能力について思いを馳せていた。
修太朗の話を聞いて、ユリとシルフィはやはり邪滅の力ではないかと結論付けた。生まれついての神はその司るものについては無限に神力を発することができる。だとすれば、幼いひなたであっても、その邪滅の力は無限に発揮できるはずであり、半邪神イルマ程度では消え去るしかなかったのではないか、ということであった。そして、
「不思議なのはその仔猫ですね」
と、シルフィは言った。
「あの北極点は常に氷を含んだ暴風が吹き荒れ、しかも周辺は永久凍土になっております。一部の生物は環境に適応するために進化をしておりますが、猫が住めるとは思えません」
と、シルフィが言えば、
「そうですね。しかもこの仔猫はひなたと一緒に『過保護車』の中に入って丸くなって寝ていますよね」
と、ユリも言う。
修太朗がひなたと一緒に丸くなって寝ている仔猫を見ると、薄汚れていたはずの毛並みは絹のように滑らかで艶やかなものへと変貌し、一本の抜け毛もなく、ひなたに寄り添うように眠っていた。黄泉の大神しづか特製の『過保護車』の中に入れるというのは、ひなたを害することがないということだと結論付けた修太朗は、
「ひなたの情操教育にも良さそうだし、この仔猫連れて行こうか?」
と、ユリに提案した。それを聞いたユリも賛成して仔猫は武神家の愛猫となったのである。
「でもそうなると、名前を付けないといけませんね」
「……うーん、タマ、シロ、チビ」
「少々安易かと思いますよ」
「じゃぁ、ユリも考えてよ」
「……鵺、陰火、朧車……」
「全部妖怪じゃねぇかよ」
そう言っていると、
「らー」
とひなたが声を出した。
すると、仔猫は鳴き声をあげてひなたに頬ずりをはじめた。
「らー、太陽神ラーってあったな」
そう修太朗が言うと、仔猫は嬉しそうにしっぽを振りながら修太朗に飛びつき頬ずりをはじめた。ユリが
「ラーが気に入ったのですか?」
と、仔猫に聞くと、嬉しそうに鳴きながらユリにも頬ずりをしたのである。
こうして武神家の愛猫は名前を「ラー」と名付けられ、その後の旅路を一緒に続け、後に全宇宙の邪神、悪神を震え上がらせた、邪滅を司る神ひなたの最初の眷族となったのである。
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