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四三、邪滅
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修太朗はひなたを背負い、シルフィに先導されて北の森の更に北側にある海辺にやってきていた。本来なら美しい砂浜は世界樹の恵みを受け砂金をちりばめたかのように輝き、どこまでも透き通った海は滔々と青く波打ち、生命の母として存在しているのだという。しかし、今修太朗の目の前にあるのは、どす黒く呪われた空の色を反射し澱んだ汚水のように成り果てた海の姿であり、血のように赤く染まった雲と一体をなして穢れたものとなっていた。
さらに、彼方に続く水平線の先には黒紫色の靄のようなものが天空に向かって柱状に吹き出ていて、空中へと拡散しているのが微かに見えた。
「この先は海だけですか?」
修太朗がそう尋ねると、
「いえ、この先はこの星の北極圏に入ります。海は凍り、氷河となっていて、その先には永久凍土が広がり、北極点があります」
「……その隕石は北極点に落下したのですか?」
「ご覧ください」
そう言うと、シルフィは修太朗を連れて宇宙空間に転移した。すると、北極点から噴き出している黒紫色の靄のようなものが、この星の北半球を侵食するかのようにじわじわと覆い始めていた。
その時、修太朗は違和感を覚えた。
「この大陸と、北極、南極以外は全て海しかない……」
「……お気づきになられましたか、これは荒ぶる神が暴れた結果です」
「……かつてこの星にはいくつもの大陸があり、高度な文明が栄えておりました」
そう言うと、シルフィは修太朗に話をはじめた。
シルフィによると文明が発達した結果、人間達は星をも砕く兵器を編み出し、ほぼ同時に一人の現人神がこの星から生まれたのだという。人間達はその兵器を用いて一つの国を消滅させたのだが、母国を消された現人神が怒り狂い魔に落ちて暴れた。主神紫苑はどうにか暴れた現人神を消滅させたが、終わったときには世界樹に守られたこの大陸しか残っていなかったとのことだった。それ以降、快活だった主神紫苑は無口になり、シルフィの元へもほとんど姿を見せなくなったそうだ。
「……そんなことがあったんですね」
それだけを呟くと、修太朗はシルフィに元に戻してもらい、ひなたを背負って北極点を目指すことにした。今の自分に大陸を消し去る力はまだない。まだまだ修行しないと家族を守れないと気を引き締めていた。
氷河を越えて、永久凍土に差しかかかるとそこは完全な死の大地へと変貌していた。氷点下数十度の極寒の暴風が吹き荒れる中で、寒さに適応しているはずの様々な生物たちが白目をむき、苦しそうに息絶えてその体を分厚い氷に覆われてさらしていた。
「ペンギンにアザラシか。凄く苦しそうにしているな……可哀想に」
修太朗が心の中で手を合わせたその時、目の前に黒紫色の球が現れ修太朗めがけて飛んできた。間一髪でそれを躱し、黒夜叉を構えると、その球はまたしても修太朗に向かって飛んできた。
「……おそらく瘴気の塊だろうな」
そう呟いた修太朗の周囲を取り囲むかのようにその塊はどんどん増えていった。
向かってくる瘴気の弾を斬り捨てながら進む。だが、瘴気の塊は北極点に近づくにつれて徐々に大きくなってきた。散弾のように放たれる瘴気の塊を次々に斬り捨てながら修太朗はさらに進んだ。すると、断続的に瘴気を噴出している地点を視認するところまで辿り着いた。
「まずは、あの瘴気の根元を斬ってみるか」
修太朗は瘴気という存在を消滅させることを念じ、黒夜叉を弓なりに構え、
「一の太刀『扇』」
そう呟くと、白金に輝く剣気が地面から噴き出す瘴気を断ち切った。あたり一面を覆っていた瘴気が一瞬にして立ち消え、視界が鮮明になる。
修太朗は瘴気が噴き出していた大穴の位置を確認すると、その上空に飛び上がった。集中を高めて黒夜叉に神気を纏わせる。穴の深さがわからないので、まずは穴の中心をめがけて一点突破してみることにした。頭上に捻り込むように黒夜叉を掲げてから、
「四の太刀『閃光』」
と、呟くと、白金に淡い緑の神気を纏わせた閃光が大穴の中心を抜けて地中深くに吸い込まれていった。二つほど息をすると、大地がひび割れる音と、周辺の氷が砕ける轟音が響き、地震が起こった。修太朗が警戒していると、突如として大地のひび割れから異形の存在が姿を現す。全身を赤色の毛皮に覆われ、修太朗の五倍ほどの巨大な体に熊のような手と長く赤い爪をもち、赤い目が忌々し気に修太朗を睨みつける。
「赤色の雪男ってところか」
そう修太朗が呟くと、
「雪男などと一緒にするな。吾輩は大天狗様のしもべである半邪神イルマであるぞ」
と、名乗った。
「この隕石を降らせたのはお前か?」
「大天狗様が特別に作られた瘴気爆弾よ。隕石などではないわ。その瘴気爆弾を消滅させやがって、計画が台無しではないか、許さん」
「計画?」
「この星は大陸が一つしかない。瘴気で世界樹さえ弱らせれば簡単に破滅する。破滅した星は負の霊場となり、我らが崇拝するマーラ様の力となる。この星はマーラ様への貢物になるのだ」
「よくしゃべる雪男だな……輪廻転生の輪に戻れ」
そう言って、修太朗が黒夜叉を構えた時、
「てい」
と、背中のひなたが声を出した。すると、ひなたから暖かい太陽のような熱気が発せられ、それを浴びた半邪神イルマはみるみるうちに小さくなり粒子状になると消滅してしまった。
「……これが、もしかすると、ひなたの邪滅の力か?」
心配になった修太朗が背中の『過保護車』を乳母車の形態にすると、ひなたはにこにこ微笑みながら、天空を指さして、
「あい」
と、言う。すると、またしても強大な熱気が一斉に広がって、一気に残っていた瘴気の残骸をも消し去り、空は抜けるような青空へと変貌し、暴風までもが収まった。
「ここって、北極点……だよな」
呆気にとられつつ、信じられないように呟く修太朗の足元には小さな黄色い花が可憐に咲いていたのである。
さらに、彼方に続く水平線の先には黒紫色の靄のようなものが天空に向かって柱状に吹き出ていて、空中へと拡散しているのが微かに見えた。
「この先は海だけですか?」
修太朗がそう尋ねると、
「いえ、この先はこの星の北極圏に入ります。海は凍り、氷河となっていて、その先には永久凍土が広がり、北極点があります」
「……その隕石は北極点に落下したのですか?」
「ご覧ください」
そう言うと、シルフィは修太朗を連れて宇宙空間に転移した。すると、北極点から噴き出している黒紫色の靄のようなものが、この星の北半球を侵食するかのようにじわじわと覆い始めていた。
その時、修太朗は違和感を覚えた。
「この大陸と、北極、南極以外は全て海しかない……」
「……お気づきになられましたか、これは荒ぶる神が暴れた結果です」
「……かつてこの星にはいくつもの大陸があり、高度な文明が栄えておりました」
そう言うと、シルフィは修太朗に話をはじめた。
シルフィによると文明が発達した結果、人間達は星をも砕く兵器を編み出し、ほぼ同時に一人の現人神がこの星から生まれたのだという。人間達はその兵器を用いて一つの国を消滅させたのだが、母国を消された現人神が怒り狂い魔に落ちて暴れた。主神紫苑はどうにか暴れた現人神を消滅させたが、終わったときには世界樹に守られたこの大陸しか残っていなかったとのことだった。それ以降、快活だった主神紫苑は無口になり、シルフィの元へもほとんど姿を見せなくなったそうだ。
「……そんなことがあったんですね」
それだけを呟くと、修太朗はシルフィに元に戻してもらい、ひなたを背負って北極点を目指すことにした。今の自分に大陸を消し去る力はまだない。まだまだ修行しないと家族を守れないと気を引き締めていた。
氷河を越えて、永久凍土に差しかかかるとそこは完全な死の大地へと変貌していた。氷点下数十度の極寒の暴風が吹き荒れる中で、寒さに適応しているはずの様々な生物たちが白目をむき、苦しそうに息絶えてその体を分厚い氷に覆われてさらしていた。
「ペンギンにアザラシか。凄く苦しそうにしているな……可哀想に」
修太朗が心の中で手を合わせたその時、目の前に黒紫色の球が現れ修太朗めがけて飛んできた。間一髪でそれを躱し、黒夜叉を構えると、その球はまたしても修太朗に向かって飛んできた。
「……おそらく瘴気の塊だろうな」
そう呟いた修太朗の周囲を取り囲むかのようにその塊はどんどん増えていった。
向かってくる瘴気の弾を斬り捨てながら進む。だが、瘴気の塊は北極点に近づくにつれて徐々に大きくなってきた。散弾のように放たれる瘴気の塊を次々に斬り捨てながら修太朗はさらに進んだ。すると、断続的に瘴気を噴出している地点を視認するところまで辿り着いた。
「まずは、あの瘴気の根元を斬ってみるか」
修太朗は瘴気という存在を消滅させることを念じ、黒夜叉を弓なりに構え、
「一の太刀『扇』」
そう呟くと、白金に輝く剣気が地面から噴き出す瘴気を断ち切った。あたり一面を覆っていた瘴気が一瞬にして立ち消え、視界が鮮明になる。
修太朗は瘴気が噴き出していた大穴の位置を確認すると、その上空に飛び上がった。集中を高めて黒夜叉に神気を纏わせる。穴の深さがわからないので、まずは穴の中心をめがけて一点突破してみることにした。頭上に捻り込むように黒夜叉を掲げてから、
「四の太刀『閃光』」
と、呟くと、白金に淡い緑の神気を纏わせた閃光が大穴の中心を抜けて地中深くに吸い込まれていった。二つほど息をすると、大地がひび割れる音と、周辺の氷が砕ける轟音が響き、地震が起こった。修太朗が警戒していると、突如として大地のひび割れから異形の存在が姿を現す。全身を赤色の毛皮に覆われ、修太朗の五倍ほどの巨大な体に熊のような手と長く赤い爪をもち、赤い目が忌々し気に修太朗を睨みつける。
「赤色の雪男ってところか」
そう修太朗が呟くと、
「雪男などと一緒にするな。吾輩は大天狗様のしもべである半邪神イルマであるぞ」
と、名乗った。
「この隕石を降らせたのはお前か?」
「大天狗様が特別に作られた瘴気爆弾よ。隕石などではないわ。その瘴気爆弾を消滅させやがって、計画が台無しではないか、許さん」
「計画?」
「この星は大陸が一つしかない。瘴気で世界樹さえ弱らせれば簡単に破滅する。破滅した星は負の霊場となり、我らが崇拝するマーラ様の力となる。この星はマーラ様への貢物になるのだ」
「よくしゃべる雪男だな……輪廻転生の輪に戻れ」
そう言って、修太朗が黒夜叉を構えた時、
「てい」
と、背中のひなたが声を出した。すると、ひなたから暖かい太陽のような熱気が発せられ、それを浴びた半邪神イルマはみるみるうちに小さくなり粒子状になると消滅してしまった。
「……これが、もしかすると、ひなたの邪滅の力か?」
心配になった修太朗が背中の『過保護車』を乳母車の形態にすると、ひなたはにこにこ微笑みながら、天空を指さして、
「あい」
と、言う。すると、またしても強大な熱気が一斉に広がって、一気に残っていた瘴気の残骸をも消し去り、空は抜けるような青空へと変貌し、暴風までもが収まった。
「ここって、北極点……だよな」
呆気にとられつつ、信じられないように呟く修太朗の足元には小さな黄色い花が可憐に咲いていたのである。
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