武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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四一、北の森

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 修太朗が事情を説明するように促すと、魔王グレンは修太朗が帰った後のことを話し出した。結局、ヤンゴート王国はムノー一六世が退位した後、共和制へと移行し、貴族たちが会議を開いて国家運営をしているとのことであった。ハネス魔国からはグランが代表として参加しており、両国は交流を深めて何事も協力するようになったとのことである。そして、北の森に異変があることを確認し、調査するためにヤンゴート王国とハネス魔国はグランが団長となって調査団を組織し、北の森へと向かったのだという。だが、それからほぼ一年になるが何の連絡もなく、周囲からはワイバーンの餌になったのではないかとも言われているとのことだった。

 修太朗がユリと顔を見合わせると、
「北の森に行ってみよう」
 と、決めて、魔王グレンに告げた。
「……すまんな。魔王とは言っても肝心な時に何もできやしない」
 そう肩を落とす魔王グレンに、気にするなと一言告げると、修太朗たちは前と同じ宿屋で一泊した。
 次の日、修太朗たちが北の森へと向かうため街を出ようとすると、大勢の人々と魔王グレンが大量の食料を巨大な荷車に積んで待っていた。
「修太朗よ。何の役にも立てないが、せめて食料だけでも貰ってくれ」
 そう言う魔王グレンの心遣いに感謝して修太朗たちは有難く食料を受け取ると旅立っていった。

 『過保護車』を押しながら、修太朗がユリに空を飛んでいくかどうかを尋ねると、道中の魔物を倒しながら進み、魔物が街に向かわないように数を減らそうと提案されたので、修太朗たちは北の森へと続く街道を親子水入らずで、のんびりと進んでいった。
 その街道はほとんど人が通らないにもかかわらず、しっかりと踏み固められており非常に歩きやすかった。時折飛来するワイバーンや、ゴブリンなどを退治しながら進むと少し広めの丘に差し掛かった。その丘の上では心地よいそよ風が吹き、緑に彩られた大地には色とりどりの花たちが咲き乱れ、小鳥たちが飛び交い修太朗とユリは心地よさに負けて少し休憩することにして、柔らかな芝生のような場所に腰を下ろした。
「この丘は最初に新右衛門様と逢引きした丘に似ています」
 と、ユリは言う。修太朗も新右衛門としての記憶の中にあったため、
「確か風蓮さんの館の近くだよね」
 そう言うと、
「覚えておいででしたか」
 と、嬉しそうにユリは修太朗へと肩を寄せた。
 修太朗が優しくユリの背を撫で、ユリがうっとりと修太朗の目を見る。二人は見つめあうと少しずつ顔を近づけ……
「邪魔だな」
「邪魔ですね」
 というと、丘の下から向かってくる武装した集団に向き合った。
 虎ひげをした小汚い男が修太朗に、
「おい、そこの男、金目のものとその女を置いていけ。そこの子供も置いていけ」
 と、大声で喚いた。
「盗賊?」
 と、問いかけると、
「それ以外に何に見える。男には用はない。女はたっぷりと可愛がってから売り飛ばす。子供は奴隷にでもしてやる。この人数相手に勝ち目はない。死にたくなければ早く消えろ」
 そこまで聞いて修太朗が怒りをあらわにしようとした瞬間、盗賊の一人がひなたを乗せた『過保護車』に向かって短剣を投げつけた。短剣は『過保護車』の手前で消失し、薄黄色の神気が纏わりつくと、投げつけた男だけではなく、その周りにいた盗賊全員が一斉に喉をかきむしって瞬時に絶命してしまった。
 「しづかさん、やりすぎだろ」
 そう思ったものの、どちらにしても全員消滅させるつもりだったので、結果は同じだと思いなおし、修太朗たちは再度丘を越えて街道を進んでいくと、やがて夕闇が訪れた。

 ユリは手慣れた様子で亜空間収納から黄泉で使用していた建屋を取り出した。
「建物ごと持ってきたの?」
 そう驚く修太朗に、
「この建物は新右衛門様と二人で建てた丸太小屋に、姉様の神気が込められた特別なものなのですよ。古代竜ぐらいなら襲ってきてもびくともしません」
 そう言うと、いつものように夕餉の支度をはじめた。
「しづかさんって、昔から過保護なんだな……」
 そう思ったが、そんなしづかに、
「ありがとうございます」
 と、修太朗は心の中で手を合わせて礼を言った。

 それから数日、修太朗たちはのんびりと北の森へと向かって歩いていた。道中景色の良い場所を見つければ休憩し、綺麗な湖を見つければひと泳ぎし、夜には煌々と輝く二つの月とその周りに散りばめられた星々を眺めながら晩酌をし、実にゆったりとした時間を過ごしていたのである。
 だが、北の森へと近づくにつれて空の色が変わっていく。抜けるような青空は呪われた血の色のように赤みがかった黒褐色になり、白い雲は鮮血を思わせるような真っ赤に染まっていた。話を弾ませていた二人はだんだんと無言になり、森へと近づく。
 あと少しで森へと入ろうかという時、目の前に数十人の人たちが片膝をついた状態で待ち構えていた。
「貴方達はどうされたのですか?」
 修太朗がそう尋ねると、
「神よ、我らをお救いください」
 と、彼らは一斉に地に頭をつけた。
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