武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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三九、旅行

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 いつものように、夕食と授乳を済ませてからひと風呂浴びると、修太朗とユリはしづかに貰った『過保護車』にひなたを寝かせてみた。すると、ひなたは魔法にでもかかったかのように健やかな寝息を立てて眠りについた。
「催眠の効果でもあるのかな?」
「もうこうなるとわかりませんね。ところで修太朗さん。修行先はどうでしたか?」
 そう問いかけるユリに修太朗はヤンゴート王国とハネス魔国の話や、無限回廊の話、タリンの話などをして聞かせていた。その話を聞いて、
「ただ、気になることがありますね」
 と、ユリが言う。
「タリンが、瘴気が形作った存在だとすると、ほかに仕掛けた何者かがいるはずですよね」
「それが、誰かだな」
 一体誰が仕掛けたのだろうか。そのことに思いを馳せていると、
「明日にでも風蓮様に聞きに行きましょうか」
 そうユリが言ったので、もう考えるのをやめにした。
「ところで、修太朗さんは新たな技を習得されたのですよね?」
 そのユリの質問に、修太朗は内心大汗をかいていた。
「私の記憶が確かなら、修太朗さんの技は新右衛門様と同じ名前だと思います」
 そう言うと、修太朗の技を列挙していった。
 「一の太刀『扇』」、「二の太刀『破邪顕正はじゃけんしょう』」、「三の太刀『蜷局とぐろ』」、「四の太刀『閃光』」、
 「そして、その次は……」
「五の太刀『二つ櫛』」
 ですね。
 そう断言されて修太朗は観念すると同時に、新右衛門を恨んだ。
「確か遊女の櫛が忘れられずに名付けたと新右衛門様はおっしゃっておられました」
 修太朗が渋々認めると、
「夫婦になる前の出来事です。それに遊女など忘れさせてあげます」
 と、妖艶に修太朗に迫った。

 前回は新右衛門の意識であったが、今は修太朗の意識のままである。流石に修太朗がまずいと引いていると、
「先ほど、修太朗さんが風呂を召されているとき、一瞬風蓮様が来られまして、魔族から土産があるとおっしゃっておられました。土産とはなんでしょう?」
 風蓮の手痛い裏切りにあい、修太朗はしぶしぶ魔王グレンに渡された秘薬をユリに渡した。
「効果は何ですか?」
「ち、超強力な、せ、精力剤……」
 それを聞いたユリは、丸薬を一つ手に取り修太朗に差し出し、飲ませようとした。
 修太朗が拒否すると、今度は自分が口に含み修太朗に覆いかぶさると口移しで飲ませてしまった。丸薬を飲んだとたんに修太朗の体は熱を帯びたかのように熱くなり……、一匹の雄となったのである。

 次の日、気を失ったユリと全てを搾り出した修太朗は二人とも素っ裸で爆睡していた。いつもの時間になってもやってこない修太朗を迎えに風蓮がやってきた。そこにしづかも合流すると、二人で扉を開けた。
 中の惨状を確認した二人は強力な神力を纏った声で全裸の二人をたたき起こしたのであった。
 慌てて身支度を整える二人に対し、まず、しづかが、
「ひなたの乳母車には外の様子を遮断する機能もついておるから、次からそれを使うようにしろ」
 と、呆れたように言い、風蓮は、
「ふふふ。すぐに二人目ができそうですね」
 と、微笑んだ。
 その風蓮に対し、しづかが、
「いや、残滓のユリとは子供は作れんよ」
 と、告げた。どういうことかと訝しげに風蓮が聞くと、
「ユリがユキとしての魂を取り戻し完全に一つの状態にならないと子ができないと子宝の神が言っていたのだ」
 と、風蓮に告げた。
「それは知りませんでした。『過保護車』もありますし、御三方には六〇〇年ぶりに旅行に行ってもらおうかと思っていたのですが。そこであわよくば二人目ができるかもと期待をしておりましたが残念です」
 と、俯きながら言う。
「旅行?」
 と、しづかが問うと、
「修太朗さんに行って貰ったのは惑星アークと申します。そこの主神は紫苑という雷神で私の親友でもあります。その星で突然あちらこちらに大量の魔物たちが生じ、森の奥や海の底など様々な場所で瘴気窟が発生しているとのことでした。そこで瘴気窟の消滅を手伝って欲しいと頼まれたのです」
「危険ではないのか?」
「はい。全くないとは申しません。しかし、修太朗さんの修行にはちょうど良いかと思っております。それにアークは風光明媚な場所も多くありますから、英気を養うにはもってこいです」
 そう言って、微笑むと、ユリと修太朗に準備をするように告げた。外に出てからしづかが風蓮に問う。
「風蓮殿は黒幕が分かっておられるのだな?」
「もちろんです。修行にちょうどいい相手ですから、紫苑に頼んで見張ってもらっています」
「ふむ。黒幕は誰だ?」
「半邪神イルマですよ」
 そう聞いてしづかの口角が上がる。
「その程度なら今の修太朗なら心配はいらんな。わざわざ主神に見張りを頼むとは風蓮殿も過保護ではないか」
「大事な弟子とその家族です。念を入れさせていただきました」
 そこまで言うと、二人はいずこともなくかき消えたのであった。
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