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三六、二つ櫛
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無限回廊の地下1000階にいたのはヤンゴート王国の宰相タリンであった。修太朗はタリンが黒幕なのか、それとも瘴気がタリンを形作っているのか、判断に迷っていた。だが、ここですることは変わらない。まずは目の前にいるタリンを倒すことだと思いを定めると、黒夜叉を正眼に構えてタリンに向き合った。
タリンはにやりと笑うと転移をした。修太朗の死角に入ったタリンを仕留めるべく、修太朗は胸元に黒夜叉を構えて神気を纏わせる。
「二の太刀『破邪顕正』」
そう呟く修太朗を中心に同心円状の剣気が吹き荒れる。斜め後ろの死角から修太朗を攻撃しようとしていたタリンはまたもや一刀両断され消え失せた。
「む、また再生している……」
修太朗の目の前に集まった瘴気はまたしてもタリンを形作った。
「もう一度仕切り直しか……」
修太朗が言うが早いか、タリンは修太朗の背後に転移した。
「三の太刀『蜷局』」
修太朗の身体中を黒夜叉が剣気を纏わりつかせてはい回る。至近距離に転移していたタリンはまたしても粉微塵になってしまった。
だが、またしてもタリンは瘴気に形作られ再生する。修太朗は狙いを変えて、黒紫の瘴気をまとった球状の物体を狙うことにした。
「四の太刀『閃光』」
そう呟くと、修太朗から一筋の閃光が迸り球状の物体の中心を寸分たがわず打ち抜いた。
しかし、一瞬揺らぎはしたものの球状の物体は同じ場所にそのまま存在していた。修太朗は、目の前のタリンも球状の物体も幻覚なのではないかと疑い、どうするのかを考える。その時、タリンは紫の瘴気を纏った禍々しい曲刀を構え修太朗に突撃して来た。
「受けてみるか」
幻覚かどうかを確かめるべく修太朗は曲刀を黒夜叉に合わせて受け止める。すると、甲高い金属音とともに、確かに剣を合わせた時と同じ手ごたえを感じた。また、黒夜叉と刃を合わせたためにその存在を消された曲刀もタリンの手の中で再生をはじめた。
「……実体はあるようだな。少しばかり観察してみるか」
その後、修太朗は曲刀を受けて消滅させ、時には躱し、また自分も攻撃を加えながら、じっくりと観察をした。すると、自分の考え違いに気づいた。
「あの球状の物体は物体ではないな。何かの物体を消滅させようと斬りつけてはいたが……瘴気が無限に湧き出す場所……?」
「場所……、つまり亜空間の入り口か」
そう修太朗は球状の物体の正体を推し量った。
瘴気の噴き出す亜空間の小さな入り口が球状に存在するために、帰還の水晶のような物質を連想していたのだ。ならば亜空間の入り口という存在を消滅させればいい。だが、修太朗は同時にもう一つ気になることがあった。
「入り口を消滅させても、あの瘴気を消滅させないと誰かが同じように入口を開ければまた同じことが起きる……」
「なら、亜空間の入り口という存在を消滅させる効果と、瘴気という存在を消滅させる効果の二つの効果を一つの剣気に載せて放てばすむのではないか」
「一粒で二度おいしい、キャラメルみたいだな」
そんなことを思いながら、修太朗はどのような剣気にするかを考え始めた。すると、不意に新右衛門の記憶が蘇ってくる。
ユリと知り合う前、新右衛門が都で鬼と戦っていた時、激務の合間を縫って先輩方が遊郭に誘ってくれたことがあった。その時の遊女が二枚で一対となる櫛を頭にさしていたことを思い出した。
「ユリにばれたらまずい……、何やってるんだ新右衛門……」
若干の後ろめたさを感じながらも、修太朗は他にいい考えも思い浮かばなかったので、ものは試しとやってみることにした。
大きく息を吐きかつてないほどの集中をする。完全に自我が『領域』に入ったことを確認すると、神気を思い切り高める。一つは入り口の消滅、もう一つは瘴気の消滅、二つの存在を消滅させる効果を一つの剣気に纏わせる……
「五の太刀『二つ櫛』」
そう呟くと、黒夜叉を高速で左右に往復させる。左から右へと黒夜叉を走らせたときに生じた白金に淡い青色の剣気と、右から左に黒夜叉を走らせたときに生じた白金に淡い赤色の剣気が平行に走ると二つの剣気は混じり合い白金に淡い赤紫色になって、球状の物体に直撃し、斬り裂いた。
球状の物体が消滅すると、タリンも、もがき苦しみだしやがて消滅していった。
タリンも、球状の物体も消滅した後、物体があった場所を見ると何やら魔法陣のような模様が描かれていた。修太朗がその魔法陣を黒夜叉で斬り捨てると、ヤンゴート王国の玉座の間に転移させられていた。
呆気にとられるヤンゴート王国の国王ムノー一六世と王女に向かって、タリンは、
「くそっ、もはやここまで」
そう言いながら曲刀を取り出し斬りかかる。
修太朗は冷めた目で軽く黒夜叉を振ると、タリンを消滅させたのであった。
タリンはにやりと笑うと転移をした。修太朗の死角に入ったタリンを仕留めるべく、修太朗は胸元に黒夜叉を構えて神気を纏わせる。
「二の太刀『破邪顕正』」
そう呟く修太朗を中心に同心円状の剣気が吹き荒れる。斜め後ろの死角から修太朗を攻撃しようとしていたタリンはまたもや一刀両断され消え失せた。
「む、また再生している……」
修太朗の目の前に集まった瘴気はまたしてもタリンを形作った。
「もう一度仕切り直しか……」
修太朗が言うが早いか、タリンは修太朗の背後に転移した。
「三の太刀『蜷局』」
修太朗の身体中を黒夜叉が剣気を纏わりつかせてはい回る。至近距離に転移していたタリンはまたしても粉微塵になってしまった。
だが、またしてもタリンは瘴気に形作られ再生する。修太朗は狙いを変えて、黒紫の瘴気をまとった球状の物体を狙うことにした。
「四の太刀『閃光』」
そう呟くと、修太朗から一筋の閃光が迸り球状の物体の中心を寸分たがわず打ち抜いた。
しかし、一瞬揺らぎはしたものの球状の物体は同じ場所にそのまま存在していた。修太朗は、目の前のタリンも球状の物体も幻覚なのではないかと疑い、どうするのかを考える。その時、タリンは紫の瘴気を纏った禍々しい曲刀を構え修太朗に突撃して来た。
「受けてみるか」
幻覚かどうかを確かめるべく修太朗は曲刀を黒夜叉に合わせて受け止める。すると、甲高い金属音とともに、確かに剣を合わせた時と同じ手ごたえを感じた。また、黒夜叉と刃を合わせたためにその存在を消された曲刀もタリンの手の中で再生をはじめた。
「……実体はあるようだな。少しばかり観察してみるか」
その後、修太朗は曲刀を受けて消滅させ、時には躱し、また自分も攻撃を加えながら、じっくりと観察をした。すると、自分の考え違いに気づいた。
「あの球状の物体は物体ではないな。何かの物体を消滅させようと斬りつけてはいたが……瘴気が無限に湧き出す場所……?」
「場所……、つまり亜空間の入り口か」
そう修太朗は球状の物体の正体を推し量った。
瘴気の噴き出す亜空間の小さな入り口が球状に存在するために、帰還の水晶のような物質を連想していたのだ。ならば亜空間の入り口という存在を消滅させればいい。だが、修太朗は同時にもう一つ気になることがあった。
「入り口を消滅させても、あの瘴気を消滅させないと誰かが同じように入口を開ければまた同じことが起きる……」
「なら、亜空間の入り口という存在を消滅させる効果と、瘴気という存在を消滅させる効果の二つの効果を一つの剣気に載せて放てばすむのではないか」
「一粒で二度おいしい、キャラメルみたいだな」
そんなことを思いながら、修太朗はどのような剣気にするかを考え始めた。すると、不意に新右衛門の記憶が蘇ってくる。
ユリと知り合う前、新右衛門が都で鬼と戦っていた時、激務の合間を縫って先輩方が遊郭に誘ってくれたことがあった。その時の遊女が二枚で一対となる櫛を頭にさしていたことを思い出した。
「ユリにばれたらまずい……、何やってるんだ新右衛門……」
若干の後ろめたさを感じながらも、修太朗は他にいい考えも思い浮かばなかったので、ものは試しとやってみることにした。
大きく息を吐きかつてないほどの集中をする。完全に自我が『領域』に入ったことを確認すると、神気を思い切り高める。一つは入り口の消滅、もう一つは瘴気の消滅、二つの存在を消滅させる効果を一つの剣気に纏わせる……
「五の太刀『二つ櫛』」
そう呟くと、黒夜叉を高速で左右に往復させる。左から右へと黒夜叉を走らせたときに生じた白金に淡い青色の剣気と、右から左に黒夜叉を走らせたときに生じた白金に淡い赤色の剣気が平行に走ると二つの剣気は混じり合い白金に淡い赤紫色になって、球状の物体に直撃し、斬り裂いた。
球状の物体が消滅すると、タリンも、もがき苦しみだしやがて消滅していった。
タリンも、球状の物体も消滅した後、物体があった場所を見ると何やら魔法陣のような模様が描かれていた。修太朗がその魔法陣を黒夜叉で斬り捨てると、ヤンゴート王国の玉座の間に転移させられていた。
呆気にとられるヤンゴート王国の国王ムノー一六世と王女に向かって、タリンは、
「くそっ、もはやここまで」
そう言いながら曲刀を取り出し斬りかかる。
修太朗は冷めた目で軽く黒夜叉を振ると、タリンを消滅させたのであった。
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