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三四、魔王
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修太朗の承諾を得た偉丈夫は、馬車をすぐに用意させると、御者に、
「大切な客人であられるから、くれぐれも失礼のないように」
と、申し付けてから先に城へ向かった。
修太朗を乗せた馬車は特に何の装飾もされておらずただの頑丈な箱にしか見えなかった。乗り心地も悪く、よく跳ねたため飛んでいこうかとも思ったが、その度に御者が謝るので気にしないように言うと、大人しく乗り続ける事にした。
あたりを夕日が橙色に染めるころに修太朗を乗せた馬車は止まった。修太朗が周囲を眺めると、少し背が高い石造りの家が立ち並んでおり、あちらこちらで子供たちが遊んでいるのが見えた。
武装した一人の兵士が先導して案内をしてくれたのでついていくと、黒塗りの建物が現れた。その建物は周りの建物よりも少しばかり高いが、特別な感じは一切しなかった。
「こちらになります」
そう兵士が言うと、建物の扉を開けた。
扉の中には先程の偉丈夫ともう一人の男がいた。その男は大柄な修太朗が見上げるほどの体格をしており、頭に二本の大きな角をのせ、意志の強そうな太い眉に大きな鼻。分厚い唇を引き締めて、その隆々たる体躯を漆黒の外套に包んでいた。
隣の偉丈夫が修太朗を紹介しようと口を開きかけると、その大男はおもむろに修太朗に歩み寄り、その手を取るといきなり礼を言い始めた。
「俺の名はグレン、こんななりだが魔族の王をしている。そこの男は弟のグランだ。アクスの街を助けてくれたことに魔王として礼を言いたい」
「……ハネス魔国はヤンゴート王国と戦争中だと聞いている。敵国の街を助けるのは何故だ?」
そう修太朗は問う。
「ふむ。確かにヤンゴート王国に攻め込まれているからな。最低限の応戦はしないといけない。俺も我が国の民を守らねばならないからな。だが、元々アクスに限らず戦争前は互いに隣国として交流があったのだ。中には人間と魔族が結婚して子供がいる者もある。国同士の争いはそのまま民の争いではないのだ。民同士は仲良く助け合って暮らし、アクスでは協力して魔物退治もしている。助けるのは当たり前だ」
「なるほどな、貴方は立派な王のようだ」
そう修太朗が言うと、魔王グレンは両手を広げた。
「立派などではない。俺一人で守れるのはこの手を広げた範囲だけだ。だが、他の者と手をつなげばどうなる。皆で手をつなげば守れる範囲は広くなるのだ。俺が王としていられるのは他の者が俺の手を握ってくれるからだ」
「もう一度言う。自分はグレンが立派な王だと思うよ」
と、言うと、
「自分は、武神修太朗だ。何か力になれることは無いか?」
魔王グレンの手を握るとそう告げた。
「グランに聞いたのだが、修太朗は一万ものゴブリンの大群を一撃で消し去ったという。本当だな?」
「本当だよ」
「なら、その力を見込んで頼みがある……が、そろそろ腹が減らないか?」
魔王グレンはそう言うと、修太朗を食事に誘って食べながら話をすることにした。
魔王グレンとグランに連れられて修太朗は街の広場にやってきた。すると、そこには同じように魔族たちが座っており、石造りのかまどに大きな焚き火をして、その上に鉄板をひいていた。その鉄板の上に肉や野菜などをどんどん放り込んで豪快に焼くと、修太朗に勧めてきた。修太朗は地球でのバーベキューを思い起こしながら、塩味のきいた肉と野菜に豪快にかぶりつくと、魔族たちと食事を楽しんでいた。
「修太朗、頼みとは魔物が現れる無限回廊のことだ」
魔王グレンはそう切り出した。
「無限回廊?」
「そうだ。そこは洞窟のようになっているのだが、無限に魔物が湧き出てくる。通路を進むと大部屋があってな、そこには強力な魔物が待ち構えているのだ。その魔物を倒すと次への通路が開き先に進める」
「……それってゲームでいうダンジョンじゃないの?」
「へっ? げむ? だんじょ?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
「その無限回廊は一か月ほど誰も入らないとその入り口から魔物の群れを放出する。かと言って入ったら最後、一〇階層に行き奥の部屋にある帰還の水晶に触れないと帰っては来られない。その奥もあるのだが魔物が強くてそれ以上は進めんのだ」
「では、今わかっているのは一〇階層までということか?」
「そうなるな。しかも各階層の奥の部屋で誰かが敗れると、突然先ほどのようにとんでもない量の魔物が放出される……先ほど放出されたのは、おそらくもう一人の俺の弟グラムがどこかでやられたのだろう」
そう言って魔王グレンは拳を握りしめた。
魔王グレンの話によれは一か月に一度、グランかグラムのどちらかに一隊を率いらせて一〇階層まで攻略させ、魔物の噴出を抑えていたらしい。だが、グラムがやられた今、無限回廊に挑めるのは魔王グレンかグランしかいないが、どちらかが欠けるとヤンゴート王国が攻め込んでくる可能性があり迂闊に動けないという。しかも、今回グラムが失敗したため魔物の噴出は三日後には起きるだろうとのことだった。
「風蓮さんが、地球のゲーム方式と言っていたのはこのことか……」
修太朗は一人で納得すると魔王グレンに向き合い、
「承った」
と、言った。
「大切な客人であられるから、くれぐれも失礼のないように」
と、申し付けてから先に城へ向かった。
修太朗を乗せた馬車は特に何の装飾もされておらずただの頑丈な箱にしか見えなかった。乗り心地も悪く、よく跳ねたため飛んでいこうかとも思ったが、その度に御者が謝るので気にしないように言うと、大人しく乗り続ける事にした。
あたりを夕日が橙色に染めるころに修太朗を乗せた馬車は止まった。修太朗が周囲を眺めると、少し背が高い石造りの家が立ち並んでおり、あちらこちらで子供たちが遊んでいるのが見えた。
武装した一人の兵士が先導して案内をしてくれたのでついていくと、黒塗りの建物が現れた。その建物は周りの建物よりも少しばかり高いが、特別な感じは一切しなかった。
「こちらになります」
そう兵士が言うと、建物の扉を開けた。
扉の中には先程の偉丈夫ともう一人の男がいた。その男は大柄な修太朗が見上げるほどの体格をしており、頭に二本の大きな角をのせ、意志の強そうな太い眉に大きな鼻。分厚い唇を引き締めて、その隆々たる体躯を漆黒の外套に包んでいた。
隣の偉丈夫が修太朗を紹介しようと口を開きかけると、その大男はおもむろに修太朗に歩み寄り、その手を取るといきなり礼を言い始めた。
「俺の名はグレン、こんななりだが魔族の王をしている。そこの男は弟のグランだ。アクスの街を助けてくれたことに魔王として礼を言いたい」
「……ハネス魔国はヤンゴート王国と戦争中だと聞いている。敵国の街を助けるのは何故だ?」
そう修太朗は問う。
「ふむ。確かにヤンゴート王国に攻め込まれているからな。最低限の応戦はしないといけない。俺も我が国の民を守らねばならないからな。だが、元々アクスに限らず戦争前は互いに隣国として交流があったのだ。中には人間と魔族が結婚して子供がいる者もある。国同士の争いはそのまま民の争いではないのだ。民同士は仲良く助け合って暮らし、アクスでは協力して魔物退治もしている。助けるのは当たり前だ」
「なるほどな、貴方は立派な王のようだ」
そう修太朗が言うと、魔王グレンは両手を広げた。
「立派などではない。俺一人で守れるのはこの手を広げた範囲だけだ。だが、他の者と手をつなげばどうなる。皆で手をつなげば守れる範囲は広くなるのだ。俺が王としていられるのは他の者が俺の手を握ってくれるからだ」
「もう一度言う。自分はグレンが立派な王だと思うよ」
と、言うと、
「自分は、武神修太朗だ。何か力になれることは無いか?」
魔王グレンの手を握るとそう告げた。
「グランに聞いたのだが、修太朗は一万ものゴブリンの大群を一撃で消し去ったという。本当だな?」
「本当だよ」
「なら、その力を見込んで頼みがある……が、そろそろ腹が減らないか?」
魔王グレンはそう言うと、修太朗を食事に誘って食べながら話をすることにした。
魔王グレンとグランに連れられて修太朗は街の広場にやってきた。すると、そこには同じように魔族たちが座っており、石造りのかまどに大きな焚き火をして、その上に鉄板をひいていた。その鉄板の上に肉や野菜などをどんどん放り込んで豪快に焼くと、修太朗に勧めてきた。修太朗は地球でのバーベキューを思い起こしながら、塩味のきいた肉と野菜に豪快にかぶりつくと、魔族たちと食事を楽しんでいた。
「修太朗、頼みとは魔物が現れる無限回廊のことだ」
魔王グレンはそう切り出した。
「無限回廊?」
「そうだ。そこは洞窟のようになっているのだが、無限に魔物が湧き出てくる。通路を進むと大部屋があってな、そこには強力な魔物が待ち構えているのだ。その魔物を倒すと次への通路が開き先に進める」
「……それってゲームでいうダンジョンじゃないの?」
「へっ? げむ? だんじょ?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
「その無限回廊は一か月ほど誰も入らないとその入り口から魔物の群れを放出する。かと言って入ったら最後、一〇階層に行き奥の部屋にある帰還の水晶に触れないと帰っては来られない。その奥もあるのだが魔物が強くてそれ以上は進めんのだ」
「では、今わかっているのは一〇階層までということか?」
「そうなるな。しかも各階層の奥の部屋で誰かが敗れると、突然先ほどのようにとんでもない量の魔物が放出される……先ほど放出されたのは、おそらくもう一人の俺の弟グラムがどこかでやられたのだろう」
そう言って魔王グレンは拳を握りしめた。
魔王グレンの話によれは一か月に一度、グランかグラムのどちらかに一隊を率いらせて一〇階層まで攻略させ、魔物の噴出を抑えていたらしい。だが、グラムがやられた今、無限回廊に挑めるのは魔王グレンかグランしかいないが、どちらかが欠けるとヤンゴート王国が攻め込んでくる可能性があり迂闊に動けないという。しかも、今回グラムが失敗したため魔物の噴出は三日後には起きるだろうとのことだった。
「風蓮さんが、地球のゲーム方式と言っていたのはこのことか……」
修太朗は一人で納得すると魔王グレンに向き合い、
「承った」
と、言った。
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