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二九、逢瀬
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今日の食事は天麩羅だった。もうどこから食材が出てくるのかを考えることすらやめていた。どうも新右衛門さんも大好物だったらしく、揚げたてをどんどん食べていたらユリは喜んで本当に嬉しそうであった。
はち切れそうなお腹をさすりながら、今日師匠に言われたことをユリに伝えた。ユリはほんの少し考える仕草をした後、ひなたをしづかに預けてきた。
「姉様がひなたを抱いて涙ぐむので大変でした」
そう言いながらユリは帰ってくると修太朗に向き合った。
「では、修太朗さん。二人きりになりましたのではじめましょうか」
「何をはじめるの?」
「夫婦が二人ですることです」
「……えっ」
「初の共同作業ですね」
そういうとユリは一つの盃を持ってきて酒をなみなみを注ぎ、白拍子を抜くと、指先をほんの少し切って血を一滴酒にたらした。
「修太朗さんもお願いします」
そう言われたので、同じように自分の血も一滴酒にたらした。
二人の血が透明な酒の中で混じり合っているのを眺めていると、銀獅子の腕輪を外しておいてくれと言われたので、外しておいた。
「では、およそ六〇〇年ぶりに夫婦水入らずで、固めの盃と参りましょう」
と、ユリは酒を飲むように言ってきたので半分ほど飲み干し、残りはユリが飲み干した。すると、強烈な眠気が襲ってくる。
「修太朗さん、少し横になってください。夢で逢いましょう」
ユリの言葉に従って、横になった。
「拙者は武上新右衛門と申します。無名一刀斎殿に師事をしておる無骨者であります。ユリ殿、以後よろしくお願い申し上げます」
何故か、まだ十五、六歳のあどけなさを残したユリに挨拶をしていた。
「お主は剣の才はそうでもないが、心根は真っ直ぐだ。たゆまず精進せよ」
師匠にそう言われていると、
「新右衛門様、お弁当をおもちしました」
と、ユリが弁当を持ってくる。
「拙者は都に出没した鬼を討ちそこなった。そのせいで大勢の人が亡くなったのですよ。もう、あんな思いはしたくないと八幡大菩薩に願掛けをしたところ、こちらに呼ばれました」
……都に鬼?
「ユリ殿、あの風蓮殿の館近くに綺麗に花の咲いた丘があります。そ、そ、その良ければ、ご、ご一緒に……あっ……あの」
……おいおい、もっとうまく誘えよ
「ユリ殿、ようやく禊を済ませて現人神となりました。これからは武神新右衛門と名乗ります。ようやくこれで日ノ本を守れます」
……これって
「ユリ殿、別に夫婦になるならそなたは人間のままで良いのではないか。私はいつまでもそなた一人を妻とする覚悟だ」
……新右衛門さんの
「ユリ、現人神となったのだな。これで永遠に一緒にいられるな」
……記憶だよな
間違いない。新右衛門さんの記憶が蘇ってくる。
山奥の小屋で新右衛門が木を切り井桁《いげた》に組むとユリが水漏れしないように神気を用いて何かをした。
「新右衛門様、湯は任せても良いですか?」
とユリが言うと、
「おう、まかせておけ」
そう言って神気を使って風呂の湯を出した。
……あっ、この感覚、これだ!
「新右衛門様、お召し物をお預かりいたします」
「新右衛門様、お背中を流します」
「あっ、新右衛門様……続きは寝所でお願いいたします……」
もう、意識は完全に新右衛門になっていた。
朝起きると、二人とも全裸で抱き合い涙を流しながら寝ていた……
こうして、新右衛門とユリは六〇〇年ぶりに逢瀬を楽しんだのである
はち切れそうなお腹をさすりながら、今日師匠に言われたことをユリに伝えた。ユリはほんの少し考える仕草をした後、ひなたをしづかに預けてきた。
「姉様がひなたを抱いて涙ぐむので大変でした」
そう言いながらユリは帰ってくると修太朗に向き合った。
「では、修太朗さん。二人きりになりましたのではじめましょうか」
「何をはじめるの?」
「夫婦が二人ですることです」
「……えっ」
「初の共同作業ですね」
そういうとユリは一つの盃を持ってきて酒をなみなみを注ぎ、白拍子を抜くと、指先をほんの少し切って血を一滴酒にたらした。
「修太朗さんもお願いします」
そう言われたので、同じように自分の血も一滴酒にたらした。
二人の血が透明な酒の中で混じり合っているのを眺めていると、銀獅子の腕輪を外しておいてくれと言われたので、外しておいた。
「では、およそ六〇〇年ぶりに夫婦水入らずで、固めの盃と参りましょう」
と、ユリは酒を飲むように言ってきたので半分ほど飲み干し、残りはユリが飲み干した。すると、強烈な眠気が襲ってくる。
「修太朗さん、少し横になってください。夢で逢いましょう」
ユリの言葉に従って、横になった。
「拙者は武上新右衛門と申します。無名一刀斎殿に師事をしておる無骨者であります。ユリ殿、以後よろしくお願い申し上げます」
何故か、まだ十五、六歳のあどけなさを残したユリに挨拶をしていた。
「お主は剣の才はそうでもないが、心根は真っ直ぐだ。たゆまず精進せよ」
師匠にそう言われていると、
「新右衛門様、お弁当をおもちしました」
と、ユリが弁当を持ってくる。
「拙者は都に出没した鬼を討ちそこなった。そのせいで大勢の人が亡くなったのですよ。もう、あんな思いはしたくないと八幡大菩薩に願掛けをしたところ、こちらに呼ばれました」
……都に鬼?
「ユリ殿、あの風蓮殿の館近くに綺麗に花の咲いた丘があります。そ、そ、その良ければ、ご、ご一緒に……あっ……あの」
……おいおい、もっとうまく誘えよ
「ユリ殿、ようやく禊を済ませて現人神となりました。これからは武神新右衛門と名乗ります。ようやくこれで日ノ本を守れます」
……これって
「ユリ殿、別に夫婦になるならそなたは人間のままで良いのではないか。私はいつまでもそなた一人を妻とする覚悟だ」
……新右衛門さんの
「ユリ、現人神となったのだな。これで永遠に一緒にいられるな」
……記憶だよな
間違いない。新右衛門さんの記憶が蘇ってくる。
山奥の小屋で新右衛門が木を切り井桁《いげた》に組むとユリが水漏れしないように神気を用いて何かをした。
「新右衛門様、湯は任せても良いですか?」
とユリが言うと、
「おう、まかせておけ」
そう言って神気を使って風呂の湯を出した。
……あっ、この感覚、これだ!
「新右衛門様、お召し物をお預かりいたします」
「新右衛門様、お背中を流します」
「あっ、新右衛門様……続きは寝所でお願いいたします……」
もう、意識は完全に新右衛門になっていた。
朝起きると、二人とも全裸で抱き合い涙を流しながら寝ていた……
こうして、新右衛門とユリは六〇〇年ぶりに逢瀬を楽しんだのである
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