武神修太朗異界記 ~ 亡き妻を求めて子連れ剣士が異界を斬る ~

中村月彦

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二八、神力

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 修太朗の新たな師匠となってくれたのは風蓮であった。
 風蓮は自らを風そのものであると告げ、風神とは空間を支配するものだと教えた。
「修太朗さん、空間を支配するということはどういうことかわかりますか?」
「……空間を支配?」
 修太朗が疑問に思うと、
「例えば、こんなことができます」
 そう言い、目の前から忽然と消え去った。
 背後に気配を感じて振り向くと、そこに風蓮は姿勢よく立っていた。
「……転移ですか?」
 と、聞くと、
「正解です」
 あっさりと答えが返ってきた。

「私は生まれながらの風神です。凡そ想像の及ぶ限り宇宙の果てでも一瞬で空間を支配し、移動することができます。天狗が修太朗さんの背後に移動したのも転移でしたね」
「また、こんなこともできます」
 そう言うと、何もない空間からおにぎりを取り出した。
「まずはお食べなさい」
 と、旨そうに食べだしたので、修太朗もご相伴にあずかることにした。
「このおにぎりは、私の作り出した別の空間に保存されたものです。空間を支配することができると、このように別の空間を作り出して利用することができます」
「……現実味がなさ過ぎて付いていけません」
 そう修太朗が言うと、
「他にも色々ありますが、この二つは修行次第で現人神となった修太朗さんは使えるようになりますよ。それに、地球の常識を基準に現実味がないということなら、もう空を飛んだり、龍や天狗と戦ったりしてはいませんか?」

 風蓮は唇に笑みを浮かべて修太朗に語り掛けた。
「もちろん、風を使った攻撃や防御もできるようになります」
 しかし、と風蓮はくぎを刺した。
「どれだけの能力が使えるかどうかはその神が持つ神力で決まります」
「神力ですか?」
「私やしづか殿のように生まれながらに神として存在するものは、その司るものについては、ほぼ無限の神力を持ち合わせています。しづか殿なら『死について』、私なら『風について』は無限に使用することができます」
 修太朗は無限に使用できると聞いて絶句してしまった。そんな修太朗に構わず風蓮は話を続けた。
「しかし、自らが司ることのない事柄については無限というわけには参りません」
 そう言うと、風蓮の手から火が立ち上った。
「火の神ならいくらでもこの火を維持し、それこそ星を消し去るほどの火を起こすこともできますが、私にはそこまでできません。それに、小さな小動物程度なら何とか即死させることもできますが、しづか殿なら、古代龍や神に至ったものでも即死させるでしょう」
「それって、しづかさんは最強ではないのですか?」
「相手が生命体ならしづか殿は最強でしょうね。しかし、命を持たないものにはどうでしょうか。煩悩の化身マーラは煩悩が一塊に集まってできた存在です。煩悩に生命はありません。それに非常に狡猾で姿を見せませんし、残念なことにすぐに煩悩を集めて力を落としながらも何度でも復活します」

 ここに来て、煩悩の化身マーラが非常に厄介であることに気づいた。
 ありとあらゆる世界において、煩悩がなくなることは絶対にない。その煩悩が集まるとマーラが誕生するとなると、一体のマーラを消滅させたとしても、すぐにマーラは復活するだろう。それこそ全宇宙から生命体が死に絶えない限りマーラを完全に消滅させるのは不可能である。
「ですが、力を弱めることは出来ます。小さな煩悩の塊がマーラとなったらすぐに潰すのです。大きくならないうちに潰さないといけません」
「いいですか修太朗さん。この大宇宙にはそれこそ星の数に匹敵するほどの神が存在し、司るものも様々です。中には全く同じことを司る神もいます」

 風蓮の説明によると、例えば風蓮の能力である風のみを司る神もいれば、空間のみを司る神もいるとのことだった。修太朗のような現人神は特に何かを司るものではないが、神力を用いて様々な現象を巻き起こすことができるそうである。
「私は、修太朗さんに神力を用いて事象を発現させる方法と、神力を強くする方法を師匠として教えたいと思います」
 それから色々と修行をした。まずは思った事象を発現させないと話にならないとのことで、小さな風を起こせるように練習を重ねた。師匠によれば事象を起こすには完全にその事象が起きることを信じ切ることと、想像力が大事であるとのことだった。しかし、地球人としての常識が変に邪魔をしているのか、なかなか風は起きなかった。

 修太朗が焦りを覚えたころ風蓮は、
「ふむ。今日はこの辺にしておきましょうか。出来ればひなた殿はしづか殿に預けて、ユリ殿と存分に語らってください。そうすれば、明日には簡単に発現すると思いますよ」
 風蓮が意味ありげに言うと、その日の修業は終わりとなった。

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