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二三、出陣
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ユリと修太朗のやり取りを冷めた目で見ていたしづかが声を掛ける。
「準備はよいのか?」
ユリは修太朗から離れると、あとはこれだけです。と言って火打石を取り出した。
「修太朗さん、背を向けてください」
そう言われて、修太朗が背を向けると、いつものように右肩に触れた気配がした後、「かちかち」と、音がした。
「いってらっしゃいませ」
いつも通り、品よく優雅にユリは美しい日本髪に結われた頭を下げた。
「行ってきます」
修太朗はそう返すと、宙に飛び上がって、黄泉比良坂《よもつひらさか》に向かい飛んで行った。
「ユリ……」
「何でしょう、姉様」
「いつから修太朗とそのような仲になっておったのだ?」
「いつからって……ずっとですよ」
「……ずっと?」
「はい。ずっとです。修太朗さんは新右衛門様でもあります。妻として当然のことです」
「そうかもしれんが、口づけまで……」
そう言うと、ユリは真剣な目でしづかを見た。
「姉様、出陣前に口づけを交わさなかったのは、あの時だけです」
「……あの時……」
「はい。私が新右衛門様を斬った日です」
「……そうであったか。これ以上は……やめておく」
「ふふふ。姉様、ありがとうございます」
そう言うと、ユリは遠ざかる修太朗に向かって
「ご武運をお祈りしております」
そう呟いた。
修太朗が空を飛び、黄泉比良坂に向かうと、師匠の無名一刀斎が空中で大型の飛龍三頭に囲まれているところであった。
その飛龍に向かって師匠の技が飛び交うが、剣気が当たった瞬間に雲散霧消していた。
「……あれは、銀獅子と戦ったときと同じだな」
そう思い、先ずは小手調べとばかりに一頭の飛龍に狙いをつける。
「来い、黒夜叉」
そう呟くと、修太朗は飛龍の下に潜り込み、その翼を斬りつけた。
だが、飛龍に剣気が届き確実に斬ったはずなのに何の手ごたえもなく、逆に痛烈に反撃されて吹き飛ばされた。
「修太朗か、あの飛龍の上を見てみろ」
修太朗がひときわ大きい飛龍の背を見ると、真っ赤な山伏の装束に身を包み、ぎょろっとした目を血走らせ、大きな長い鼻をひくつかせ、赤ら顔をした男が飛龍の頭に乗っていた。
「あれが天狗ですか?」
「そうだ。あれは煩悩の化身マーラの眷族だな」
「……煩悩の化身?」
「ふむ。お主の世界なら釈迦が悟りを開く前に瞑想の邪魔をした存在として有名だな」
「すみません。勉強不足で知りませんでした」
「まぁよい。奴は煩悩そのものが集まって形になった悪神だ。この黄泉比良坂を通る死者は未だに生前の煩悩を捨てきれず背負った者も多い。おそらくはそのあたりに理由がありそうだな」
「ひなたを狙っていると聞きましたが」
「ふむ。それはひなたが御霊として覚醒しては困るからだろうな」
「……ひなたが覚醒?」
「よく聞け、修太朗。奴らにひなたのことが発覚したなら、今後も悪神たちは狙ってくるぞ。もうお主は何も失ってはならん。守人として必ずひなたを守り抜け」
「はい。当然です」
「なら良い。まずはどうやって剣気を届かせるかだな」
「何が邪魔をしているのでしょうか」
「おそらく天狗が邪法を仕掛けて飛龍の周りの空間を歪めておるのだろうな。
そう言うと、忌々しそうに暴れる飛龍を睨みつけた。
「師匠、ちょっと考えがあるのでやってもいいですか?」
「考え?」
「はい。お願いします」
無名一刀斎に承諾を得ると再び修太朗は飛龍に向かっていった。龍の弱点である喉の下の逆鱗と顎の下の宝玉の位置を確認する。
「黒滅刀は存在を斬る神刀、ならば、」
そう言うと、修太朗は弓なりに構えた。
「一の太刀『扇』」
黒夜叉から白金の剣気が発生し、飛龍を襲う。
飛龍に直撃する瞬間、飛龍の周囲が一瞬歪んで見えたが、白金の剣気が直撃すると歪みが消え去った。
「師匠、今です」
すぐそばで待ち構えていた無名一刀斎が剣を振る。
「破邪顕正……」
飛龍の宝玉と逆鱗を一刀のもとに斬り裂くと、その飛龍は墜落していった。
「準備はよいのか?」
ユリは修太朗から離れると、あとはこれだけです。と言って火打石を取り出した。
「修太朗さん、背を向けてください」
そう言われて、修太朗が背を向けると、いつものように右肩に触れた気配がした後、「かちかち」と、音がした。
「いってらっしゃいませ」
いつも通り、品よく優雅にユリは美しい日本髪に結われた頭を下げた。
「行ってきます」
修太朗はそう返すと、宙に飛び上がって、黄泉比良坂《よもつひらさか》に向かい飛んで行った。
「ユリ……」
「何でしょう、姉様」
「いつから修太朗とそのような仲になっておったのだ?」
「いつからって……ずっとですよ」
「……ずっと?」
「はい。ずっとです。修太朗さんは新右衛門様でもあります。妻として当然のことです」
「そうかもしれんが、口づけまで……」
そう言うと、ユリは真剣な目でしづかを見た。
「姉様、出陣前に口づけを交わさなかったのは、あの時だけです」
「……あの時……」
「はい。私が新右衛門様を斬った日です」
「……そうであったか。これ以上は……やめておく」
「ふふふ。姉様、ありがとうございます」
そう言うと、ユリは遠ざかる修太朗に向かって
「ご武運をお祈りしております」
そう呟いた。
修太朗が空を飛び、黄泉比良坂に向かうと、師匠の無名一刀斎が空中で大型の飛龍三頭に囲まれているところであった。
その飛龍に向かって師匠の技が飛び交うが、剣気が当たった瞬間に雲散霧消していた。
「……あれは、銀獅子と戦ったときと同じだな」
そう思い、先ずは小手調べとばかりに一頭の飛龍に狙いをつける。
「来い、黒夜叉」
そう呟くと、修太朗は飛龍の下に潜り込み、その翼を斬りつけた。
だが、飛龍に剣気が届き確実に斬ったはずなのに何の手ごたえもなく、逆に痛烈に反撃されて吹き飛ばされた。
「修太朗か、あの飛龍の上を見てみろ」
修太朗がひときわ大きい飛龍の背を見ると、真っ赤な山伏の装束に身を包み、ぎょろっとした目を血走らせ、大きな長い鼻をひくつかせ、赤ら顔をした男が飛龍の頭に乗っていた。
「あれが天狗ですか?」
「そうだ。あれは煩悩の化身マーラの眷族だな」
「……煩悩の化身?」
「ふむ。お主の世界なら釈迦が悟りを開く前に瞑想の邪魔をした存在として有名だな」
「すみません。勉強不足で知りませんでした」
「まぁよい。奴は煩悩そのものが集まって形になった悪神だ。この黄泉比良坂を通る死者は未だに生前の煩悩を捨てきれず背負った者も多い。おそらくはそのあたりに理由がありそうだな」
「ひなたを狙っていると聞きましたが」
「ふむ。それはひなたが御霊として覚醒しては困るからだろうな」
「……ひなたが覚醒?」
「よく聞け、修太朗。奴らにひなたのことが発覚したなら、今後も悪神たちは狙ってくるぞ。もうお主は何も失ってはならん。守人として必ずひなたを守り抜け」
「はい。当然です」
「なら良い。まずはどうやって剣気を届かせるかだな」
「何が邪魔をしているのでしょうか」
「おそらく天狗が邪法を仕掛けて飛龍の周りの空間を歪めておるのだろうな。
そう言うと、忌々しそうに暴れる飛龍を睨みつけた。
「師匠、ちょっと考えがあるのでやってもいいですか?」
「考え?」
「はい。お願いします」
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「黒滅刀は存在を斬る神刀、ならば、」
そう言うと、修太朗は弓なりに構えた。
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飛龍に直撃する瞬間、飛龍の周囲が一瞬歪んで見えたが、白金の剣気が直撃すると歪みが消え去った。
「師匠、今です」
すぐそばで待ち構えていた無名一刀斎が剣を振る。
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