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二十、現人神
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天使は意識を失った修太朗を抱きかかえ高速で飛び続けた。しばらくすると白く輝く大きな社が雲を突き抜けて建っているのがわかる。その社は白一色の壁面を空高くそびえさせ鎮座していた。正面には地面から天空へと果て無く続く階段と、その先に神木であつらえられた壮麗な観音扉が備え付けられていた。
「修太朗さん、着きましたよ、修太朗さん」
天使は修太朗を揺すりながら声をかけ続ける。
天使がしばらくの間、抱えて揺すっていると淡い光が修太朗の胸の中で明滅しているのを見つけた。
「この光は……帰還の勾玉の光ですね……ここまできて命尽きようとしているとは……」
そもそも封印を解いたときに現れる邪な存在は、挑むものの能力に比例させて選ばれることになっているはずである。ゆえに、如何に巨大な古代竜であったとしても、修太朗の能力に応じているはずだ。現に修太朗はあの古代龍を神でもないのに撃退している。どういう仕組みでそうなるのかは分からないが、古代より連綿と続く儀式として常にそうであったし、疑ったこともなかった。だが、天使は自らが大神よりこの役目を担いはじめてから、今までで最も強大な存在を呼び寄せてしまったことに若干の責任と罪悪感のようなものを覚えていた。
天使は意を決して修太朗を抱えなおすと一息に階段を飛びぬけた。
壮麗な神気を纏った扉を押し開くと、天使は修太朗を連れて中に入ろうと試みた。だが、目に見えない膜状の何かが天使と修太朗を押し返し、その侵入を拒んだ。
「くっ、ここまできて、駄目なのか……」
修太朗の胸で段々と明滅する光が徐々に強まっていることに焦りを感じ、天使は思いっ切り叫んだ。
「修太朗さん、あなたには待っている人たちがいるはずです。ここで終わってはなりません」
そこまで叫んだとき、薄く修太朗の目が開いた。
それを見て、天使は扉の中を指し示す。
「あの小さな祠が見えますか。あの中の勾玉を首にかけてその奥の泉に浸かるのです。足がなくとも諦めてはなりません。あなたは飛べるのです。私の最後の手助けです」
そう言うと、天使は奥にある小さな祠に向かって手の中の修太朗を放り投げた。
それまで侵入を阻み続けていた膜など何もなかったかのように、修太朗は上方へと放り出されていた。やがて放物線を描き落下を始めようとした瞬間、社の中央に浮かび上がる巨大な丸鏡から緩やかな道が現れた。その道は修太朗を載せて祠の前まで連れて行くと、消え去った。
「……修ちゃん、修ちゃん……」
ユキが呼んでいる。
「……ユ、キ、どこ……」
そう言うと、修太朗の目の前にある祠の扉が開いた。
扉の奥には、大きなお腹をさすりながら微笑むユキがいた。
「ユキ、ひなた……、守らなきゃ……」
ユキに触れようと修太朗が手を伸ばすと、勾玉に触れた。
「この、……勾玉を首にかけて、……あの泉に……」
修太朗は最後の力を振り絞って勾玉を首にかけると、身体をくねらせて泉へと向かった。泉のほとりに辿り着き、手が水面に触れた。
「……気持ちいいな、ユリが撫でてくれる手みたいだ……」
何とか大きく息を吸うと、修太朗は泉の中に転げ落ちていった。
修太朗が完全に水没すると、巨大な丸鏡から膨大な神気が泉に流れ込む。その神気は泉の水に溶け込み、混じり合い、強大なうねりを作り出す。丸鏡から流れる神気が収まると、うねりも瞬時に収まり、波紋ひとつたてずに泉は静寂をたたえていた。
「修太朗さん、何とかやり遂げたみたいですね」
天使が涙を流しながらその光景を見ていた。
「ありがとう」
そう聞こえてきた言葉に天使が頷くと、
泉の中央に渦が巻き、やがて修太朗が徐々にその姿を現した。
日本人離れした堀の深い目鼻立ちに意思を感じる大きな瞳、その長身を彫刻のような筋肉が包み込み、幅広く大きな腰と長い脚が真の力を示しているように思えた。
「おめでとうございます」
天使は一糸まとわぬ姿で泉の上を歩く修太朗にそう祝福すると、その手をひらひらと左右に振り修太朗に薄衣を羽織らせた。
「あなたのおかげで何とか目的を達成することができました。お礼を言います」
修太朗が天使に丁寧に頭を下げると、
「おそらくあなたはこれまでの現人神の中でも最強の一人となったでしょう」
「……最強?」
「はい。間違いないかと思います。その身にまとう神気は武神と言っても過言ではないかと思いますよ」
「武神、……、そう言えば自分の苗字は武上ですねぇ」
そう言って、修太朗は天使と大笑いした。
「では、新たに現人神として、武神修太朗と名乗られてはどうですか?」
「武神修太朗……」
そう修太朗が呟くと、青空に金色の光が満ち溢れてくる。
「天も祝福していますよ」
その光景を見て修太朗は、あらためて今後「武神修太朗」と名乗ることを決めたのである。
「修太朗さん、着きましたよ、修太朗さん」
天使は修太朗を揺すりながら声をかけ続ける。
天使がしばらくの間、抱えて揺すっていると淡い光が修太朗の胸の中で明滅しているのを見つけた。
「この光は……帰還の勾玉の光ですね……ここまできて命尽きようとしているとは……」
そもそも封印を解いたときに現れる邪な存在は、挑むものの能力に比例させて選ばれることになっているはずである。ゆえに、如何に巨大な古代竜であったとしても、修太朗の能力に応じているはずだ。現に修太朗はあの古代龍を神でもないのに撃退している。どういう仕組みでそうなるのかは分からないが、古代より連綿と続く儀式として常にそうであったし、疑ったこともなかった。だが、天使は自らが大神よりこの役目を担いはじめてから、今までで最も強大な存在を呼び寄せてしまったことに若干の責任と罪悪感のようなものを覚えていた。
天使は意を決して修太朗を抱えなおすと一息に階段を飛びぬけた。
壮麗な神気を纏った扉を押し開くと、天使は修太朗を連れて中に入ろうと試みた。だが、目に見えない膜状の何かが天使と修太朗を押し返し、その侵入を拒んだ。
「くっ、ここまできて、駄目なのか……」
修太朗の胸で段々と明滅する光が徐々に強まっていることに焦りを感じ、天使は思いっ切り叫んだ。
「修太朗さん、あなたには待っている人たちがいるはずです。ここで終わってはなりません」
そこまで叫んだとき、薄く修太朗の目が開いた。
それを見て、天使は扉の中を指し示す。
「あの小さな祠が見えますか。あの中の勾玉を首にかけてその奥の泉に浸かるのです。足がなくとも諦めてはなりません。あなたは飛べるのです。私の最後の手助けです」
そう言うと、天使は奥にある小さな祠に向かって手の中の修太朗を放り投げた。
それまで侵入を阻み続けていた膜など何もなかったかのように、修太朗は上方へと放り出されていた。やがて放物線を描き落下を始めようとした瞬間、社の中央に浮かび上がる巨大な丸鏡から緩やかな道が現れた。その道は修太朗を載せて祠の前まで連れて行くと、消え去った。
「……修ちゃん、修ちゃん……」
ユキが呼んでいる。
「……ユ、キ、どこ……」
そう言うと、修太朗の目の前にある祠の扉が開いた。
扉の奥には、大きなお腹をさすりながら微笑むユキがいた。
「ユキ、ひなた……、守らなきゃ……」
ユキに触れようと修太朗が手を伸ばすと、勾玉に触れた。
「この、……勾玉を首にかけて、……あの泉に……」
修太朗は最後の力を振り絞って勾玉を首にかけると、身体をくねらせて泉へと向かった。泉のほとりに辿り着き、手が水面に触れた。
「……気持ちいいな、ユリが撫でてくれる手みたいだ……」
何とか大きく息を吸うと、修太朗は泉の中に転げ落ちていった。
修太朗が完全に水没すると、巨大な丸鏡から膨大な神気が泉に流れ込む。その神気は泉の水に溶け込み、混じり合い、強大なうねりを作り出す。丸鏡から流れる神気が収まると、うねりも瞬時に収まり、波紋ひとつたてずに泉は静寂をたたえていた。
「修太朗さん、何とかやり遂げたみたいですね」
天使が涙を流しながらその光景を見ていた。
「ありがとう」
そう聞こえてきた言葉に天使が頷くと、
泉の中央に渦が巻き、やがて修太朗が徐々にその姿を現した。
日本人離れした堀の深い目鼻立ちに意思を感じる大きな瞳、その長身を彫刻のような筋肉が包み込み、幅広く大きな腰と長い脚が真の力を示しているように思えた。
「おめでとうございます」
天使は一糸まとわぬ姿で泉の上を歩く修太朗にそう祝福すると、その手をひらひらと左右に振り修太朗に薄衣を羽織らせた。
「あなたのおかげで何とか目的を達成することができました。お礼を言います」
修太朗が天使に丁寧に頭を下げると、
「おそらくあなたはこれまでの現人神の中でも最強の一人となったでしょう」
「……最強?」
「はい。間違いないかと思います。その身にまとう神気は武神と言っても過言ではないかと思いますよ」
「武神、……、そう言えば自分の苗字は武上ですねぇ」
そう言って、修太朗は天使と大笑いした。
「では、新たに現人神として、武神修太朗と名乗られてはどうですか?」
「武神修太朗……」
そう修太朗が呟くと、青空に金色の光が満ち溢れてくる。
「天も祝福していますよ」
その光景を見て修太朗は、あらためて今後「武神修太朗」と名乗ることを決めたのである。
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