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十八、天使
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洞窟を進むと上り階段が出現した。階段を上りきると洞窟だというのに一面に青空が広がっていた。澄み渡った空にはところどころ雲があり、遠くに太陽まで存在していた。久々に感じる日の光と抜けるような青空に修太朗の心は開放感を得て、思わず両手を上にあげて大きく伸びをしていた。
深呼吸してそよ風を感じていると、
「気持ちよさそうですね」
と、話しかけられた。
「はい、ここは開放感が素晴らしくて凄く気持ちいいです」
「気に入ってもらえて良かったです」
その人は恐ろしく整った顔をしていた。長い金髪をたなびかせ、声も中性的で、顔と声だけでは性別の判定が出来なかった。背には大きな一対の翼を持ち、白い布で柔らかく身体を覆ったその立ち姿は天使という言葉が似あっていた。
「あなたは天使でよろしいでしょうか」
修太朗がそう尋ねると、
「そうですね。よくそう呼ばれます。ここまで来られた貴方に私は一つ課題を解決して、祝福を与えたいと思っています」
「……課題ですか」
「はい。今までの戦いでは見つけられなかった課題です」
「……それは何でしょうか?」
そう修太朗は問いかけた。
「これですよ」
天使が空に向かって手を挙げると、白い燕が飛んできた。
「貴方はあの燕を斬れますか?」
「……燕を斬る?」
「そうです。見たところ貴方は未だに肉を纏った状態です。つまり空高く飛ぶ敵に攻撃する手段を持たないように思いました」
「一応、遠距離攻撃は出来るのですが……」
修太朗がそう答えると、
「では、あの燕を斬ってみてください」
と、告げられた。
修太朗が黒夜叉を弓なりに構え、燕が射程圏内に入った瞬間、
「一の太刀『扇』」
そう呟くと、技を発動した。
だが、修太朗から発動された剣気が超高速で飛来しているにもかかわらず、燕はひらりと身をかわして剣気を避けてしまった。
「お分かりになられましたか」
「……確かに」
「剣を使う方は射程距離が短くなります。貴方は卓越した技でそれを補っていますが、それとて万全ではありません」
「……はい」
「次が最後の試練になりますが、このままでは全く相手にならないでしょう」
そう断言されて、晴れやかだった修太朗の心が沈み込み、
「どうすればよろしいでしょうか」
と、教えを乞うていた。
「簡単です。空を飛ぶのですよ」
「……空を飛ぶ」
「その力を今から私が与えましょう」
そう言うと、天使は背中の羽根を一枚抜いて修太朗の胸にあてた。
胸に当たった羽根が修太朗の中に消えると、何やら身体が軽やかになってゆくのを感じた。
「身体が軽くなりました」
「ふふ。もう貴方は空を飛ぶことができますよ。あとは訓練次第ですね、少し飛んでみてください」
修太朗は思い切って地面を蹴り、上空へと飛び上がった。すると、驚くことに重力を全く感じず、どこまでも上昇を続けたのである。
「では、次にあの燕を斬ってもらいます。追いかけてみてください」
それからは、必死に燕を追いかけ続けた。
上昇、下降、滑空、錐揉み、急旋回……ありとあらゆる飛行方法を天使から教わり、練習を続けていった。修太朗がほぼ飛行技術を覚えきったころ、目の前を燕が横切り間合いに入った。
一閃。あっけなく燕は真っ二つになると消え去った。
「お見事です。そろそろおりましょうか」
修太朗が地に足をつけると、天使が真剣な表情で語りだした。
「では修太朗さん。貴方には暴龍と戦ってもらいます」
「暴龍ですか?」
「はい。但し、今までとは違い、本当に別の世界で暴れ、調伏に失敗した実在の暴龍です」
「実在の暴龍……」
「その調伏に失敗した暴龍を大神の力で封印しているのですが、その一つをここで解き放ちます。私は封印を解くことは出来ますが、再度封印する力はありません。ですから、どのような暴龍が現れるのかわかりませんし、確実に仕留めなければなりません」
「…………」
「極めて危険ですが、挑まれますか?」
その時、顔に白布をかけられたユキの姿が浮かんできた。
にこやかに笑い、真っ直ぐに自分を見つめるひなたの姿が浮かんできた。
ひなたを嬉しそうに抱いて、幸せそうに授乳するユリの姿が浮かんできた。
本当ならユキが抱いていたはずだ……。
ユキにひなたを抱かせてやりたい……。
そのために…………。
「やります。その暴龍を一刀両断にしてやります」
そう力強く答えた。
深呼吸してそよ風を感じていると、
「気持ちよさそうですね」
と、話しかけられた。
「はい、ここは開放感が素晴らしくて凄く気持ちいいです」
「気に入ってもらえて良かったです」
その人は恐ろしく整った顔をしていた。長い金髪をたなびかせ、声も中性的で、顔と声だけでは性別の判定が出来なかった。背には大きな一対の翼を持ち、白い布で柔らかく身体を覆ったその立ち姿は天使という言葉が似あっていた。
「あなたは天使でよろしいでしょうか」
修太朗がそう尋ねると、
「そうですね。よくそう呼ばれます。ここまで来られた貴方に私は一つ課題を解決して、祝福を与えたいと思っています」
「……課題ですか」
「はい。今までの戦いでは見つけられなかった課題です」
「……それは何でしょうか?」
そう修太朗は問いかけた。
「これですよ」
天使が空に向かって手を挙げると、白い燕が飛んできた。
「貴方はあの燕を斬れますか?」
「……燕を斬る?」
「そうです。見たところ貴方は未だに肉を纏った状態です。つまり空高く飛ぶ敵に攻撃する手段を持たないように思いました」
「一応、遠距離攻撃は出来るのですが……」
修太朗がそう答えると、
「では、あの燕を斬ってみてください」
と、告げられた。
修太朗が黒夜叉を弓なりに構え、燕が射程圏内に入った瞬間、
「一の太刀『扇』」
そう呟くと、技を発動した。
だが、修太朗から発動された剣気が超高速で飛来しているにもかかわらず、燕はひらりと身をかわして剣気を避けてしまった。
「お分かりになられましたか」
「……確かに」
「剣を使う方は射程距離が短くなります。貴方は卓越した技でそれを補っていますが、それとて万全ではありません」
「……はい」
「次が最後の試練になりますが、このままでは全く相手にならないでしょう」
そう断言されて、晴れやかだった修太朗の心が沈み込み、
「どうすればよろしいでしょうか」
と、教えを乞うていた。
「簡単です。空を飛ぶのですよ」
「……空を飛ぶ」
「その力を今から私が与えましょう」
そう言うと、天使は背中の羽根を一枚抜いて修太朗の胸にあてた。
胸に当たった羽根が修太朗の中に消えると、何やら身体が軽やかになってゆくのを感じた。
「身体が軽くなりました」
「ふふ。もう貴方は空を飛ぶことができますよ。あとは訓練次第ですね、少し飛んでみてください」
修太朗は思い切って地面を蹴り、上空へと飛び上がった。すると、驚くことに重力を全く感じず、どこまでも上昇を続けたのである。
「では、次にあの燕を斬ってもらいます。追いかけてみてください」
それからは、必死に燕を追いかけ続けた。
上昇、下降、滑空、錐揉み、急旋回……ありとあらゆる飛行方法を天使から教わり、練習を続けていった。修太朗がほぼ飛行技術を覚えきったころ、目の前を燕が横切り間合いに入った。
一閃。あっけなく燕は真っ二つになると消え去った。
「お見事です。そろそろおりましょうか」
修太朗が地に足をつけると、天使が真剣な表情で語りだした。
「では修太朗さん。貴方には暴龍と戦ってもらいます」
「暴龍ですか?」
「はい。但し、今までとは違い、本当に別の世界で暴れ、調伏に失敗した実在の暴龍です」
「実在の暴龍……」
「その調伏に失敗した暴龍を大神の力で封印しているのですが、その一つをここで解き放ちます。私は封印を解くことは出来ますが、再度封印する力はありません。ですから、どのような暴龍が現れるのかわかりませんし、確実に仕留めなければなりません」
「…………」
「極めて危険ですが、挑まれますか?」
その時、顔に白布をかけられたユキの姿が浮かんできた。
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ひなたを嬉しそうに抱いて、幸せそうに授乳するユリの姿が浮かんできた。
本当ならユキが抱いていたはずだ……。
ユキにひなたを抱かせてやりたい……。
そのために…………。
「やります。その暴龍を一刀両断にしてやります」
そう力強く答えた。
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