山羊

杜乃日熊

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山羊

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「メェ~」

「な、何だこれは……」

 俺はひどく動揺していた。
 目の前には一頭のヤギがいて、気だるそうな目で俺を見つめている。
 何でここにヤギがいるんだ?ここは牧場でもないしアルプスの山でもない。俺の家の前である。
 とにかくコイツをどうにかしないと俺は家の中に入れない。
 なので俺はヤギをどかすためにそぉっと手を伸ばしてみた。

「ンメェ~!」

 キレられた。気安く触るな、とでも言いたそうに鼻を鳴らすヤギ。
 触れないんだったら一体俺はどうすればいいんだよ……。
 と。

「息子がお騒がせしてしまって、どうも申し訳ございません」

 後方から声をかけられた。聞きなれない女性の声だった。ヤギがメェ~、と顔を上に向ける。
 俺は振り返って後ろを確かめる。するとそこにはヤギがいた。

 “またヤギが出てきたー!”

 俺はもう何が何だか分からず、頭がついていかなくなっていた。というか、さっきこのヤギ喋ってなかったか!?

「あのぉ、どちら様でしょうか?」

 恐る恐る新たに現れたヤギに問いかける。するとそのヤギは笑みを浮かべた、ように見えた。

「私はたまたまこの街に旅行へ来たヤギです。そこにいるのは私の息子なのですが、先ほどはぐれてしまったのです。街中を走り回って探していたのですが、見つかってホッとしましたよ」

 どうやら後ろのあのヤギの母親らしい。それはいいのだが、どうしてヤギが人語を話せるんだ。本当にただのヤギなのか?

「そうですか。それは良かったですね。それにしても、日本語がお上手なんですね」

「そう思いますか?こっちに来る前に頑張って勉強したんですよぉ」

 嬉しそうに母ヤギは答えた。言語学習をするヤギなんて聞いたことがない。サーカスへ連れて行けば一躍スターになれそうだな。
 と、そんなことを考えている場合ではない。とにかくあの息子ヤギを早く母ヤギに返さなくては。

「あの、息子さんを迎えに来たんですよね。だったらあそこからどかしてはもらえないでしょうか?」

「いえ、別にどかす必要はありませんよ。もうじきいなくなりますから」

 え?一体どういうことなのだろうか。俺が質問をしようとしたその時。

 ウィ~ン。

 息子ヤギの腰の部分からジェットエンジンが出てきた。

「な、何だよアレは!!」

「アレは私たちの星で開発された体内収容型の小型エンジンです。体内に摂取される食物エネルギーを利用して、ジェット噴射を起こすことができるのです」

 なんか急に解説が始まった!私たちの星って一体どこの話だよ!!
 そんな疑問に答えてはくれることはなく、母ヤギもエンジンを体から出し始める。そして、二匹のエンジンは噴射を始める。

「それでは地球の人間さん。またお会いしましょう。さよなら~」

 ブシュー、と豪快な音を立てながら、二匹の親子ヤギは空の彼方へと飛んで行った。

「一体何だったんだ?あのヤギたちは……」

 俺はヤギが飛んで行った方角を見つめながら、とりあえずは今日の晩御飯を何にしようか考えることにした。





「今日はジンギスカンにしよう」
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