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エピソード2
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「ワタシはレアチーズケーキとアッサムティーで。義成くんは?」
「じ、じゃあ僕は苺のショートケーキとカプチーノで」
ウェイターに注文を告げてから、改めて互いに向き合う。自然と背筋が真っ直ぐに伸びてしまう。
「ふふ、義成くんってば緊張してるね。そんなに畏まらなくっていいのに」
「だ、だって、会って間も無いのにご馳走してもらうなんて、恐縮しちゃいますよ」
「別に構わないよ~。お話しするならお茶とお菓子は必須だからね。それに高校生の子にお金を集るのはみっともないし」
そう言って頰を緩めると、セルシアさんは僕に話すよう促す。ひとまず呼吸を整えて、それから友達との諍いについて要説した。
一通り話し終えて、届けられたカプチーノに口を付ける。時間が経ってしまった所為で、少し温くなっていた。それでも、ミルクでまろやかになったコーヒーの旨味は格別だった。次いで食べたケーキも絶妙な甘さで、刹那の幸せを享受した。
僕が話している間、セルシアさんは真面目に聞いてくれていた。息苦しくなるような張り詰めた空気にはならず、されども合間合間でタイミング良く相槌を打ってくれる。とても話しやすかった。
「そっか、友達と喧嘩しちゃったんだねー。それは大変だな、うんうん」
何に納得したのかは定かではないが、しきりに頷くセルシアさん。やがて顔を上げて、僕に告げる。
「義成くんは多分早く仲直りしたいと思ってるんだろうけど、別に焦らなくても良いんじゃないかな。ワタシ、勇気の出し方って人それぞれだと思うの。パパッと勇気を出せる人もいれば、時間を掛けて出していく人もいる。義成くんはきっと後者なんだろうね。
でもそれって単に逃げてるんじゃなくて、ゆっくりと、着実に心の準備をしてるんだよ。だから今のままでも大丈夫。そのうちに話しかける勇気が持てるようになるよ。友達ともう一度やり直したいと思い続けてる限り、駄目なほうには進まないんじゃないかな」
彼女の言葉はとても温かった。口調は軽いけれど、親身になってくれているのがよく判るし、何より嬉しい。
「ありがとうございます。なんだか気持ちが軽くなったような気がします」
「それは良かった」
セルシアさんは微笑んでから、机上のアッサムティーに口を付ける。フゥ、と一息零れる。それからチーズケーキを頬張ったかと思えば、みるみるうちに目尻が垂れ下がる。こうやって見ると、彼女はとても表情豊かな人なんだなと実感する。
「それにしても、セルシアさんはなんで僕みたいな見ず知らずの人間に対して、ここまで親切にしてくれるんですか?」
率直な疑問をぶつけてみる。するとセルシアさんは「どう説明したものかなぁ」と困ったように笑って、
「端的に言えば、好きだから親切をやってる、って感じなんだよね。
誰かに求められたからやるんじゃなくて、もっと人とお話がしたいな、もっと人の事について知りたいなと思うからあれこれとお節介を焼くんじゃないかな、ワタシは。
でもまぁ、傍目から見ればワタシみたいなのはとんだ奇人変人なのかもしれないけどね。エヘヘ」
何故そこで照れ笑いを浮かべるのか。
「それでも……セルシアさんは優しくて良い人だと思います。赤の他人の相談に乗ってくれるなんて、やっぱり貴女が優しいから出来ることなんだと思います。僕は、セルシアさんのこと、素敵だなって……」
やばい、口が滑った。これじゃ、告白したようなものじゃないか。対面の反応を窺ってみると、
「優しくて、良い人、か……」
セルシアさんは哀しそうな顔でそう呟いた。
それからケーキを食べながら談笑に花を咲かせて、喫茶店を後にした。
「せっかくだし、もう少し寄り道して行こうよ」
と言うセルシアさんのお誘いに乗って、商店街を巡ることにした。夕方ごろともなれば人の往来が多い。チラチラとセルシアさんと僕を横見する視線が幾度も投げかけられる。一体周りの人達から、僕達はどのような関係に見えるのだろうか。カップル……は無いかな。ホームステイしてきた留学生とそのステイ先の住人、と云った具合か。それはそれでちょっと寂しいけど。
あちこちと散策していると、セルシアさんは一軒のお店に注目した。それから軽快なステップでそのお店へ向かって行った。まるで街中を踊るかのように、白いパンプスで地面を叩く音が奏でられる。僕もその後に続く。
向かったのは小綺麗な雑貨屋だった。大きめのテナントに所狭しと商品が様々に並んでいる。しばらく巡回していると、とあるコーナーに目が留まる。
「これ、可愛い」
セルシアさんが独りごちる。その視線の先にあったのは、凛々しい太眉が特徴的な熊だった。どうやらキーホルダーのようだ。掌サイズだと云うのに、なんて存在感なんだ……。しかも赤、青、緑と三種類のバリエーションが(無駄に)ある。
「決めた。これ買うわ。この熊さんには運命的なモノを感じるもの」
セルシアさんは赤と青の熊を一体ずつ手に取った。
「あれ、二個買うんですか?」
「そうよ。赤はワタシの分で、青は義成くんの分」
マジか。セルシアさんからプレゼントしてもらう事は大変嬉しい事なんだけど、それにしても熊が圧倒的存在感を放って気が気でない。
「今日出会った記念という事で。貰ってくれると嬉しいな」
じっと見つめられて、赤い眼がキラキラと輝いて、僕は耐え切れず「ありがとうございます」と頭を下げた。顔を上げると、セルシアさんは満足そうに口角を上げた。
「じ、じゃあ僕は苺のショートケーキとカプチーノで」
ウェイターに注文を告げてから、改めて互いに向き合う。自然と背筋が真っ直ぐに伸びてしまう。
「ふふ、義成くんってば緊張してるね。そんなに畏まらなくっていいのに」
「だ、だって、会って間も無いのにご馳走してもらうなんて、恐縮しちゃいますよ」
「別に構わないよ~。お話しするならお茶とお菓子は必須だからね。それに高校生の子にお金を集るのはみっともないし」
そう言って頰を緩めると、セルシアさんは僕に話すよう促す。ひとまず呼吸を整えて、それから友達との諍いについて要説した。
一通り話し終えて、届けられたカプチーノに口を付ける。時間が経ってしまった所為で、少し温くなっていた。それでも、ミルクでまろやかになったコーヒーの旨味は格別だった。次いで食べたケーキも絶妙な甘さで、刹那の幸せを享受した。
僕が話している間、セルシアさんは真面目に聞いてくれていた。息苦しくなるような張り詰めた空気にはならず、されども合間合間でタイミング良く相槌を打ってくれる。とても話しやすかった。
「そっか、友達と喧嘩しちゃったんだねー。それは大変だな、うんうん」
何に納得したのかは定かではないが、しきりに頷くセルシアさん。やがて顔を上げて、僕に告げる。
「義成くんは多分早く仲直りしたいと思ってるんだろうけど、別に焦らなくても良いんじゃないかな。ワタシ、勇気の出し方って人それぞれだと思うの。パパッと勇気を出せる人もいれば、時間を掛けて出していく人もいる。義成くんはきっと後者なんだろうね。
でもそれって単に逃げてるんじゃなくて、ゆっくりと、着実に心の準備をしてるんだよ。だから今のままでも大丈夫。そのうちに話しかける勇気が持てるようになるよ。友達ともう一度やり直したいと思い続けてる限り、駄目なほうには進まないんじゃないかな」
彼女の言葉はとても温かった。口調は軽いけれど、親身になってくれているのがよく判るし、何より嬉しい。
「ありがとうございます。なんだか気持ちが軽くなったような気がします」
「それは良かった」
セルシアさんは微笑んでから、机上のアッサムティーに口を付ける。フゥ、と一息零れる。それからチーズケーキを頬張ったかと思えば、みるみるうちに目尻が垂れ下がる。こうやって見ると、彼女はとても表情豊かな人なんだなと実感する。
「それにしても、セルシアさんはなんで僕みたいな見ず知らずの人間に対して、ここまで親切にしてくれるんですか?」
率直な疑問をぶつけてみる。するとセルシアさんは「どう説明したものかなぁ」と困ったように笑って、
「端的に言えば、好きだから親切をやってる、って感じなんだよね。
誰かに求められたからやるんじゃなくて、もっと人とお話がしたいな、もっと人の事について知りたいなと思うからあれこれとお節介を焼くんじゃないかな、ワタシは。
でもまぁ、傍目から見ればワタシみたいなのはとんだ奇人変人なのかもしれないけどね。エヘヘ」
何故そこで照れ笑いを浮かべるのか。
「それでも……セルシアさんは優しくて良い人だと思います。赤の他人の相談に乗ってくれるなんて、やっぱり貴女が優しいから出来ることなんだと思います。僕は、セルシアさんのこと、素敵だなって……」
やばい、口が滑った。これじゃ、告白したようなものじゃないか。対面の反応を窺ってみると、
「優しくて、良い人、か……」
セルシアさんは哀しそうな顔でそう呟いた。
それからケーキを食べながら談笑に花を咲かせて、喫茶店を後にした。
「せっかくだし、もう少し寄り道して行こうよ」
と言うセルシアさんのお誘いに乗って、商店街を巡ることにした。夕方ごろともなれば人の往来が多い。チラチラとセルシアさんと僕を横見する視線が幾度も投げかけられる。一体周りの人達から、僕達はどのような関係に見えるのだろうか。カップル……は無いかな。ホームステイしてきた留学生とそのステイ先の住人、と云った具合か。それはそれでちょっと寂しいけど。
あちこちと散策していると、セルシアさんは一軒のお店に注目した。それから軽快なステップでそのお店へ向かって行った。まるで街中を踊るかのように、白いパンプスで地面を叩く音が奏でられる。僕もその後に続く。
向かったのは小綺麗な雑貨屋だった。大きめのテナントに所狭しと商品が様々に並んでいる。しばらく巡回していると、とあるコーナーに目が留まる。
「これ、可愛い」
セルシアさんが独りごちる。その視線の先にあったのは、凛々しい太眉が特徴的な熊だった。どうやらキーホルダーのようだ。掌サイズだと云うのに、なんて存在感なんだ……。しかも赤、青、緑と三種類のバリエーションが(無駄に)ある。
「決めた。これ買うわ。この熊さんには運命的なモノを感じるもの」
セルシアさんは赤と青の熊を一体ずつ手に取った。
「あれ、二個買うんですか?」
「そうよ。赤はワタシの分で、青は義成くんの分」
マジか。セルシアさんからプレゼントしてもらう事は大変嬉しい事なんだけど、それにしても熊が圧倒的存在感を放って気が気でない。
「今日出会った記念という事で。貰ってくれると嬉しいな」
じっと見つめられて、赤い眼がキラキラと輝いて、僕は耐え切れず「ありがとうございます」と頭を下げた。顔を上げると、セルシアさんは満足そうに口角を上げた。
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