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似合わない持ち物
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正直、驚いた。行為が始まると、サトシはさっきまでの淡白な様子からは想像できない姿を見せたからだ。
こいつベッドで一緒に添い寝して終わるんじゃ? と、さっきまで抱いていた疑いはすぐに吹き飛んだ。
サトシは性感帯が多いのか、触れるとすぐになんらかの反応をくれる。よほど経験が多いのか、過去の相手に開発されていたのか、そういう体質なのか、とにかく前戯が楽しかった。淡白だった姿が崩れていく様に煽られて、自分自身も興奮した。さっきまでとはまるで別人だ。
「なぁ、サトシは彼氏いないの?」
後ろから抱きながら、少し焦らしたくて手は下半身の愛撫を止めないまま声をかけた。
「っ……いたら、こんな事……」
息を切らしながら、こんな時に何を聞くんだと言わんばかりに醒めた横目で睨まれた。その顔を見て、やはりさっきまでの無愛想な人間と同一人物なのかと不思議な感覚だ。
そのままベッドに寝かせて、今まで触れた部位のなかで特に反応していた背中に指を這わすと体がはね、シーツを握る指に力がこもる。無愛想な表情はあっけなく崩れるが、あまり見られるのが好きじゃないのか、すぐにシーツや枕に顔を埋めてしまう。
照明をなるべく暗くしたいというサトシの希望は、俺が却下した。
「おもしろ……」
ギャップがありすぎだ。
吹き出しそうになるのはなんとか堪えたが、俺がつい小さく溢した言葉を耳で拾えるくらいの余裕はまだサトシにもあったようで、何か言いたげに振り返る。
その後も胸や下半身を愛撫をしてはやめるを繰り返して挿入を焦らしていたら、しつこいと涙目で怒られて、渋々先に進んだ。
最初に疑っていたぶん、良い意味で期待を裏切られて夢中になれる夜だった。
サトシは疲れていたのか、行為が終わるとこちらに背を向けて眠ってしまった。
『一度きり、その後はどこかで会っても互いに干渉しない』
それが会う前にサトシがこちらに提示した約束だった。もしまた会おうといったら、やはり断られるのだろうか。
欲張りなことを考えながら短い黒髪を撫でてみるが、起きる気配は微塵もない。外では気がつかなかったが、よく見ると目の下の隈がひどいから寝不足なのかもしれない。まだそこまで眠くなくて暇だったが、起こしたら悪いかとそのまま一人で時間を潰した。
「……え、今日、ですか? 出来れば昼頃? ……わかりました。いや、何とかします。失礼します」
翌朝、サトシの話し声で目が覚めた。
起き上がって声の方を見ると、部屋の隅でしゃがみ込んでスマホに耳を当てている。まだ顔は眠たそうで声もかすれているが、どうにかはきはきと話すように努めているようだ。仕事の電話だろうか。
会話を終えたサトシは盛大な溜息をついた後、俯いて何か考えている様子でぶつぶつと独り言をいっている。
「どうした?」
声をかけるとようやくサトシは俺が起きていることに気がついたようで、俯いていた顔を上げた。
「あぁ、おはようございます」
「おはよ」
「すいません、先出ます。急用で」
こちらの挨拶を聞いているのか聞いていないのか、帰り支度をしながら早口で話す。
そして、「ありがとうございました」とテーブルに割り勘ぶんのお金を置くと、俺の返事など待たずに出ていってしまった。
あまりに急な退室に、自分は一人部屋に残されたのだと気がつくまでに十秒ほどかかった。
「何だったんだ」
また会えないか聞いてみる隙さえ無かった。そして会話は最後まで盛り上がらなかったし、二人でいるのに俺にまったく興味を示さない。目的通りと言えばそうなのかもしれないが、ここまであからさまな態度をする人間も珍しい。
(なんかこう、もう少しないのかよ)
思わずため息が漏れた。
こんなところに一人でいてもすることはない。とりあえずトイレに行こうとベッドから降りると、足元でガサっと音がした。何だろうと下を見ると、昨日サトシが買っていらないと俺に渡した雑誌が袋に入ったまま床に置いてあった。昨晩サトシからこれを受け取ったタイミングでセックスが始まったから、そのまま床に置いたんだろう。
床にぽつんと放っておかれた袋と、今ホテルの一室で置き去りにされている自分。まるで同じ境遇のように思えて、何とも苦い気持ちになった。
雑誌は全部で三冊、改めてページをめくってみる。掲載している内容は見事にばらばらで、共通のモデルがいたりブランドが重なっているわけでもない。もし暇つぶしに買うなら趣味の系統で絞りそうなものだ。
映画やドラマに出演する俳優が、一斉に複数の雑誌にピックアップされる時もあるが、今回はそういう訳でもないし付録もない。
「全くわからん」
俺は考えるのを放棄した。昨日は地味だったけど普段は案外おしゃれな奴なのかもしれない。全く想像がつかないがそういう事にしておこう。
少しの名残惜しさを残して、サトシとの関係はその日で終わる予定だった。
こいつベッドで一緒に添い寝して終わるんじゃ? と、さっきまで抱いていた疑いはすぐに吹き飛んだ。
サトシは性感帯が多いのか、触れるとすぐになんらかの反応をくれる。よほど経験が多いのか、過去の相手に開発されていたのか、そういう体質なのか、とにかく前戯が楽しかった。淡白だった姿が崩れていく様に煽られて、自分自身も興奮した。さっきまでとはまるで別人だ。
「なぁ、サトシは彼氏いないの?」
後ろから抱きながら、少し焦らしたくて手は下半身の愛撫を止めないまま声をかけた。
「っ……いたら、こんな事……」
息を切らしながら、こんな時に何を聞くんだと言わんばかりに醒めた横目で睨まれた。その顔を見て、やはりさっきまでの無愛想な人間と同一人物なのかと不思議な感覚だ。
そのままベッドに寝かせて、今まで触れた部位のなかで特に反応していた背中に指を這わすと体がはね、シーツを握る指に力がこもる。無愛想な表情はあっけなく崩れるが、あまり見られるのが好きじゃないのか、すぐにシーツや枕に顔を埋めてしまう。
照明をなるべく暗くしたいというサトシの希望は、俺が却下した。
「おもしろ……」
ギャップがありすぎだ。
吹き出しそうになるのはなんとか堪えたが、俺がつい小さく溢した言葉を耳で拾えるくらいの余裕はまだサトシにもあったようで、何か言いたげに振り返る。
その後も胸や下半身を愛撫をしてはやめるを繰り返して挿入を焦らしていたら、しつこいと涙目で怒られて、渋々先に進んだ。
最初に疑っていたぶん、良い意味で期待を裏切られて夢中になれる夜だった。
サトシは疲れていたのか、行為が終わるとこちらに背を向けて眠ってしまった。
『一度きり、その後はどこかで会っても互いに干渉しない』
それが会う前にサトシがこちらに提示した約束だった。もしまた会おうといったら、やはり断られるのだろうか。
欲張りなことを考えながら短い黒髪を撫でてみるが、起きる気配は微塵もない。外では気がつかなかったが、よく見ると目の下の隈がひどいから寝不足なのかもしれない。まだそこまで眠くなくて暇だったが、起こしたら悪いかとそのまま一人で時間を潰した。
「……え、今日、ですか? 出来れば昼頃? ……わかりました。いや、何とかします。失礼します」
翌朝、サトシの話し声で目が覚めた。
起き上がって声の方を見ると、部屋の隅でしゃがみ込んでスマホに耳を当てている。まだ顔は眠たそうで声もかすれているが、どうにかはきはきと話すように努めているようだ。仕事の電話だろうか。
会話を終えたサトシは盛大な溜息をついた後、俯いて何か考えている様子でぶつぶつと独り言をいっている。
「どうした?」
声をかけるとようやくサトシは俺が起きていることに気がついたようで、俯いていた顔を上げた。
「あぁ、おはようございます」
「おはよ」
「すいません、先出ます。急用で」
こちらの挨拶を聞いているのか聞いていないのか、帰り支度をしながら早口で話す。
そして、「ありがとうございました」とテーブルに割り勘ぶんのお金を置くと、俺の返事など待たずに出ていってしまった。
あまりに急な退室に、自分は一人部屋に残されたのだと気がつくまでに十秒ほどかかった。
「何だったんだ」
また会えないか聞いてみる隙さえ無かった。そして会話は最後まで盛り上がらなかったし、二人でいるのに俺にまったく興味を示さない。目的通りと言えばそうなのかもしれないが、ここまであからさまな態度をする人間も珍しい。
(なんかこう、もう少しないのかよ)
思わずため息が漏れた。
こんなところに一人でいてもすることはない。とりあえずトイレに行こうとベッドから降りると、足元でガサっと音がした。何だろうと下を見ると、昨日サトシが買っていらないと俺に渡した雑誌が袋に入ったまま床に置いてあった。昨晩サトシからこれを受け取ったタイミングでセックスが始まったから、そのまま床に置いたんだろう。
床にぽつんと放っておかれた袋と、今ホテルの一室で置き去りにされている自分。まるで同じ境遇のように思えて、何とも苦い気持ちになった。
雑誌は全部で三冊、改めてページをめくってみる。掲載している内容は見事にばらばらで、共通のモデルがいたりブランドが重なっているわけでもない。もし暇つぶしに買うなら趣味の系統で絞りそうなものだ。
映画やドラマに出演する俳優が、一斉に複数の雑誌にピックアップされる時もあるが、今回はそういう訳でもないし付録もない。
「全くわからん」
俺は考えるのを放棄した。昨日は地味だったけど普段は案外おしゃれな奴なのかもしれない。全く想像がつかないがそういう事にしておこう。
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