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現状把握は逃避の第一歩

兄、情報を得る

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『―――私は、存在する価値があるのだろうか…。』


――――俺が憑依した少女、エリスは自分に、…いや、この世界に絶望していた。


エリスが日記を、一枚、また一枚と捲るたび、彼女の孤独と苦痛が伝わってくる。

滲んだ文字は、涙のせいだけではなく、血によって汚れている所もある。

身体はエリスとリンクしているのか、彼女が受けた仕打ちを目で追うだけで、心臓の辺りが冷たくなる。

軽い眩暈と動悸に、文字を追うのが辛くなり、そっと本を閉じベッドに横たわった。

ぼんやりと、天井を見上げながら、得た情報を回顧する。


エリスの日記から得られた情報は、感情的な部分が多くかなり断片的だ。

亡き母への想い、自分に無関心な実父と嫌悪に満ちた義母、義姉・義兄・使用人からの嫌がらせ、その他…。

自分の能力の低さへの諦念と自由への羨望。

そして何度も登場する、「オルクス」という消息不明の実兄。


「なぁ、エリス。お前は逃げたかったのか?」

だから、こんな見ず知らずの男に人生を譲っちまったのかよ。


その問い掛けに答えるかのように、胸に抱いていた日記が浮遊する。

「えっ」

驚く間もなく、耳鳴りと共に辺り一面が光に包まれる。

その中心には、いまの俺と同じ姿をした少女がうずくまりながら泣いていた。

「エリス、なのか?」

こちらからの声は届いているのだろうか。

聲を殺すように啜り泣く、少女の姿。

ただただ、その姿が遠い昔の妹と重なって、俺は胸が痛くなる。

「待ってろよ、エリス。俺が、…お兄ちゃんが必ずお前を幸せにするから。」

その声は、彼女に届いたのだろうか。

ゆっくりと、顔をあげ、俺と視線が重なる。

『ほんとに?お兄ちゃんが助けてくれるの?』

姿から比べると幼い声色で、エリスは問う。

「ああ。今よりももっと自由で自分らしく生きられる様にしてやる。だから、もう泣くな。」

エリスの頬を伝う涙を指先で拭ったとき、脳に衝撃が走った。

また、耳鳴りだ。

視界がぐらぐらと揺れるなか、確かにエリスの微笑みを見た…きがする。

『わたしの記憶をお兄ちゃんに貸してあげる』

そんな言葉が、頭に響いて、再び、気が付けば天井を見ていた。

あぁ、分かる…。

自分の置かれた状況、この世界の仕組みが。

そして。

今すぐ自分がやらなくては行けないことが。



やべぇえ、今すぐ支度しねぇと。

クロエにまたどやされる!が、しかし。

もう俺はやられっぱなしじゃいられねぇ。

エリスのためにも、クロエに言わなきゃいけねぇことがある。





ーーガチャ

「準備はできましたか?」

「あぁ、クロエ。部屋から出る前に一ついいかしら」

「なんですか?私は貴女と違って忙しいのですよ。旦那様も待っているところですし、さっさと行きますよ」

「貴女、誰の命令で動いているの?」

「…は?」

「貴女が後ろ楯もなしに大きな顔が出きるとはおもえないもの。ロイド義兄様かしら?ベアトリス義姉様かしら。まぁ誰でもいいわ。でも覚えておいてね。」

何をーというクロエの言葉は挟ませない。

「貴女は近い将来、私に頭を垂れ命乞いをすることになるわ。精々それまでに、これまでの行いを後悔するといいわ。」

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