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鳥籠から連れ出して
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第1話 突然の出会い
放課後、茶道部の茶室にて1年女子たちがこそこそと話をしている。
「ねえねえ、きいた?謹慎処分になってた3年の先輩、明日からくるんだって。」
「えー。まじ!なんで謹慎処分になったの?」
「なんでも他校の生徒と喧嘩らしいよ。」
「ちよっとそこ…静かにしてちょうだい。」
と話している1年女子たちに注意する。
1年女子たちがおどろき固まる。
「す、すいません…桃瀬先輩。」
私は桃瀬 美桜。高校3年生。茶道部の部長をしている。まわりは皆、生粋のお嬢様だといい羨ましいがっているが…でもほんとの私は…そんなんじゃない…。
小さい時から両親、とくにお父様のいうことをきいてきた物わかりのいい優等生の娘を演じてきた。
でも最近、小さい時からお父様が決めた婚約を自分から破棄してしまった。お父様はもちろん反対したけど、娘の気持ちを思うお母様の説得もあり、とりあえずこの件をおさめてくれた。
その元婚約者 高梨 蓮。
蓮には、今や可愛らしい彼女がいる。
蓮に対する気持ちは、どことなく弟に近い感情だったような気がしていたためか、なんだかホッとしている。
元々、婚約も、お父様と蓮の父親が仕事仲間で、それで会社の結束を固めるためのもの。蓮にはずっと、窮屈な思いをさせていたので、幸せそうな蓮の姿をみると微笑ましくも思える。
私もかわったのかしら…。いえ、違う。何も変わってない。変えられてないじゃない。
まだ、今でもお父様の言いなり…。
お父様はいつも私を仕事のために利用しているように思う…。
はぁ…自由のない私の人生って…籠の中の鳥…みたい…。
部活も終わりに近づき、片付けをしているとさっきの1年女子 柚木さんが話しかけてくる。
「桃瀬先輩、あとは私達でやっておきますので大丈夫です。ところで先輩、さっきゆってた謹慎処分になってた3年の男子先輩って、たしか桃瀬先輩と同じクラスですよね…そんな野蛮な人と大丈夫でしょうか…。」
と心配してくれている。
「大丈夫よ。クラスが同じでもそんな接点なんてないしね。」
「そうですよね。でも気をつけてください。なんたって先輩はあこがれのお嬢様なんですからー!」
「ありがと。」といって、先に帰ることにする。
家への帰り道、どこからか犬の鳴き声が…。
「クーン…クーン…」
私は鳴き声のする方へ歩いていく。
そこには段ボール箱に入れられた子犬が震えながら鳴いていた。
私の姿を見るなり「キャンキャン!」と力を振り絞ってるかのように鳴く。
私は箱のそばに座り
話しかける。
「きみは捨てられたのね…なんでこんなひどいことを…。」
じっと、箱に入った子犬をみつめる。
「クーン…」
「なんだか私みたい…。でもね、きみには自由がある。きみが羨ましい…。私には…自由なんかない…。」
と子犬に話しかけていると、背後に人の気配が…!恐る恐る振り向くとそこには大柄で筋肉質の切れ長の目の男が立っていた。目つきが鋭い。
「きゃあ!」と思わず声をあげ、私は尻もちをついた。
「おいおい。大丈夫か?俺はお化けかよ。驚きすぎだろ。」
私はしばらく呆然としていた…。
あれ?この制服ってうちの学校?あれこれ考えていると
「ほら。」と男が手を差しのべてくる。
「だ、大丈夫です。」と自分で立ちあがり、スカートの汚れを払う。
「ふーん、お嬢様ってのは、俺みたいな男の手はとれねぇってか…。」
「どうして私のこと知ってるの?」
「そりゃ、うちの学校じゃ、有名なお嬢様だろ?」
やっぱり…。
「それより、そこどけ。」
「えっ、この子に何するの?」
とかなり不安になったが、男は子犬の前に座り少し笑みを浮かべながらパンをあげている。
その光景がなんだか微笑ましくも思えて、私もしばらく一緒にみていた。
「よし!いくか。」
と男は子犬を抱き抱える。
「ちょっとどこに連れていくのよ。」
「家に連れて帰んの。あんたのとこどうせ無理なんだろ?飼うの…。」
図星だ…お父様が許すわけない…。
「じゃな。」と子犬を肩に乗せ歩きだす男。ちょっとまって…私も子犬を抱きしめてあげたいのにー。
「あ、あの…名前…名前は?」
「ん…?名前?あー、そうか。あんたは知らないのか。俺は葡波 翔 だ。覚えとけ。」というと、子犬に話しかけながら帰っていった。
「葡波 翔…またすぐ会えるかしら…。」と私も足早に家路を急ぐ。
第2話 親しみ戸惑い
翌朝、教室で授業開始のチャイムがなったと同時に、教室のドアがバンッとあけられ、男子生徒が入ってくる。
「おい、葡波!今何時だと思ってるんだ。」と先生が声をあらげ、注意する。
私も彼をみてびっくり!えっ!葡波って?もしかして昨日の…?。
彼は窓側の1番後ろの席につくなり、机の上に両足を投げ出して横柄な態度で座った。
始めは皆、ざわざわしていたが、担任もそれ以上、関与せず、淡々と授業を始めた。
休み時間
「葡波くん…」
「よう!昨日はちゃんと帰れたか?お嬢様!」といやみっぽくニヤリと笑う。
「謹慎処分だったのってもしかして葡波くんなの?」
「ああ、そうだよ。」と口調も横柄だ。
私は、葡波くんが謹慎中だったことよりも、子犬のことが気になっていた。
「ねえ、あの子犬…だけど…。」と少し恐々きいた…。
あの子をみたい…触りたい…抱きしめたい!そんなことを考えてると、自然と笑みがこぼれてた。
「なにニヤニヤしてんだ。気持ちわりぃなぁ。ちゃんと元気だ。」
葡波くんがじっと見つめてくる。
私を下からのぞきこむように
「そんなに心配なら…今日、俺んちくる?」
「えっ!ほんと?いいの?いきたい!」
葡波くんはちょっとびっくりしたように目を見開いた
「おいおい…。」
葡波くんはなぜか戸惑っているようだったが、そんなことどうでもいい!
あの子にあえる!と思うといても立ってもいられなかった。
放課後、帰ろうとする葡波くんにすぐさま駆け寄り「じゃ、いきましょ!」と意気込んだ。
葡波くんはあきれた顔をして
「あんたほんとに俺んちくるつもり?お嬢様が男にほいほいついてくるってどうよ…。世間知らずもいいとこだぜ…。」
私は立ち止まった…。
ほんとだ。なにやってんだろ私…。昨日、今日あったよくわからない男についていこうするなんて。
今までの私ならありえないわ…。
とあれこれ考えていると、表情が険しくなる。そんな私の感情を察したのか…
「しゃーねーな。こいよ…。」と観念したようにいった。
みんなは葡波くんが怖いのか…避けて一線をおいている。
でも私、葡波くんのこと恐くない。
それどころかなんか親近感がわいてくるのはなぜ…?
なんて、考えながら葡波くんのあとについていった。
第3話 心が求めるもの
葡波くんの後をついていくと、大きなお屋敷の前で立ち止まる。
えっ、まさか…ここ?それは大きな門構えの西洋のお城のような家!
葡波くんてお金持ちの息子さん?なの?
びっくりするのは失礼だろうけど、だって制服はラフに着てるし、髪も無駄に長いし、横柄な態度、それに口調だって、あんなだし…。どっから見たってお坊ちゃんには見えない。
あれこれ考えているうちに玄関へ。
葡波くんがチャイムを鳴らす。
すると、中から使用人らしき気品のあるおばあさんがでてくる。
「ただいま。チビは?」
「お帰りなさいませ。チビちゃんは坊っちゃんのお部屋でお元気にされてますよ。」
「こいつ…どうしてもチビをみたいってゆうから連れてきた…。」
とおばあさんと目が合う。
ゆっくり会釈をする。
「まぁ、坊っちゃんがお友達をお連れするなんて初めてじゃないですかー!まあまあ、どうぞ。」
と満面の笑みでいう。
その側で、葡波くんが額に手をやり恥ずかしそうにうつむいていた…。
葡波くんの部屋に入ると「キャンキャン!」とあの子犬が駆け寄ってくる。
ぎゅーと抱きしめ、顔をスリスリする。
「元気そうでよかったー!ほんとよかった!」
葡波くんはデスクの椅子に座り、優しい笑みを浮かべじっとこの光景をみていた。
ちょっと恥ずかしくなったので話かけた。
「葡波くんさ…もしかしてお坊ちゃんだったの?」
聞くなり、葡波くんはあわてて立上がり
「それをゆうな!外で絶対にゆうなよ。ひどい目みるぞ。」と私を見下ろす。こうやってみるとほんと大きい…。
かなり照れているのがなんだか可愛い!
普段はみんなにはかくしてるってことか…。
「わかったわよ。それとチビって…。もっとこう綺麗な名前…例えばローズとかジャスミンとかパール、サファイアとかー!」
「バーカ!こいつ雄だよ。」
あっそうなんだ…。そんなん考えてなかった。葡波くんと目が合い2人して笑った。
「ところであんた、犬好きなのか?それはみててわかるけど…。」
「ええ、犬ってゆうか、動物全部…かな。動物ってなんの見返りもなく癒しをくれるでしょ。そんな動物たちが元気でいられる世の中にしたい!私、獣医さんになりたいの!」
はっ!私なんでこんなこと…誰にもいったことなかったのに…。葡波くんにそっと視線をうつすと彼は黙って聞いてくれていた。
「なれよ。あんたならなれんだろ。」
「無理よ…お父様が許してくれないわ。もうお父様には逆らえないもの…。前の婚約破棄の件もあるし…これは私の妄想!もういいの…。」
そう…私はもうお父様には何もいえない…いってはいけない…そう感じている。いろいろ頭をめぐっていると自然と握った手に力が入る。
「ほんとにそれでいいのか?あんたは…。」
と葡波くんが少し険しい表情を浮かべながらいう。
私はうつむいた。これでいいのよ…これで…
「いいの!もう決めたことなんだから…。それよりチビって…」と私は話をチビの話題に変えようとしたとき…
「いつまでもそうやって父親のいいなりかよ!つまんねぇ人生だな…。」
私は本心を見透かされて悔しかったのか…
「葡波くんに何がわかるのよ!私の気持ちなんて誰もわかってくれない…勝手なこといわないで!」
声を荒げた瞬間、腕を捕まれベットへ押し倒された。
えっ!何?葡波くんが覆い被さってくる。
何が起こったのか理解するのに時間はかからなかった…
「そういうの見てるとイライラする。」
「や、やめて!なんでこんなこと…」
「だいたい無防備すぎんだろ!男の部屋にほいほいついてくるってのはこういうことOKってことなんだよな。」
といいながら強引に唇を重ねてきた…。
突然のことで頭は真っ白。
とっさに私は彼の頬にビンタをしていた。
そして、部屋から一目散に駆け出した。
ひどい…最低…。
葡波くんはそんなことする人じゃないって思ってたのに…。
私のファーストキス…返してよ…。
走りながら、目には涙があふれていた…。
第4話 離れゆく心
翌日、私はまだ気持ちの整理がつかないままだったが、学校にいった。
内心、今日だけは休んでいいか…とも思ったけど、私は1度も休んだことはなかったしプライドが許さなかった。
教室をそっとのぞくと、葡波くんは案の定 まだきてない。
昨日、あんな…ことになって葡波くんにはどんな顔であったらいいのかわからないけど、ひっぱたいて出てきちゃったのは、なんだか申し訳なかったかも…。
葡波くんの席は後ろで私は前の席。
とりあえず顔を合わせずにすみそう…。
授業の途中、後ろのドアが荒々しくバタンッと開けられた。葡波くんだとすぐにわかった。担任が注意をするが、聞いてない。
横柄な態度に担任はあきれてまた授業を再開してしまった…。
なんとなくは視線は感じつつも、私は休み時間はすぐにトイレに立ち、放課後はすぐに部活にいくようにしたので、葡波くんと顔を合わすことはない…と思ってた。
茶道部の部活が終わり茶室の片付けを後輩にまかせ、1人で部室で次回の茶会などの日程調整などをしていた。
コンコンとノックの音。
「桃瀬先輩、茶室の片付け終わりました。」
と1年の柚木さんの声。
「そう、ありがとう。帰っていいわよ。お疲れ様!」
「お疲れ様でした!お先に失礼します。」
と元気よく帰っていく。
はぁ…
私は楽しいなんてあまり感じたことがない。
今まで、両親とくにお父様に気に入られたい一心で、なんでもそつがなくこなしてきた。
その中に自分が楽しいための理由なんてなかった…。
茶道だって女として教養を磨くためだし、今も淡々と毎日をこなしてる。
私はうまくやれてるわ。
いろんなことが頭をめぐっていると…
バタンッと扉が開く音がした。
そして、勢いよく閉める。
そこにはあの葡波くんがいた…。
私は驚いて声がでなかった。
葡波くんがゆっくり近づいてくる。
「なんで俺を避ける?」
「葡波…くん…。」私は心臓の鼓動が高鳴るのを押さえられなかった。
葡波くんはそばにあるデスクに腰かけ
「はぁ…。」と大きくため息をつく。
そしていきなり
「昨日は悪かった…。突然あんなこと…。」
「えっ!あ……。」
なんか…昨日の今日だからてっきり怒鳴られるかと思ってたし朝から避けてたし…。
なんて答えればいいのが戸惑っていると…
「あんたが父親の言いなりになろうとしてるのが無性にイラついた。あんた、やりたいことがあんのになんで我慢しなきゃなんねぇんだ?俺は納得いかねぇ…。」
と徐々に間を詰めてくる。
私が座ってる机を挟む形で向かい合う。
こうやってみると、葡波くんてやっぱり迫力ある…。
「だから…無理だっていってるでしょ!それに葡波くんが納得しなくても関係ないでしょ!私の問題なんだから…。もうほっといて。」自然と声を荒らげてしまった。
しばらくして
「俺とあんたは似てる…。」と少し落ち着いたかのように話し始めた。
自分も父親の会社を継ぐためたくさんのことを我慢してきたこと…。
耐えられなく反発心で家出をしたり、不良グループとつるんでいたこと…。
祖母が見かねて父親から離し、自分の家に引き取って今の学校に編入させてくれたことなど…。
「だから心配だ…。あんたのことが気になってしかたない。」
とさっきの瞳とは違って優しく、少し寂しげにいった。
「そうなんだ…。そんな大事なこと話してくれてありがとう。でも私は葡波くんとは違うし大丈夫。」
そうよ。今までもやってきたんだから、これからもやっていけるわ。
「あんたってほんと頑固だな…。ところで1つ聞くが…あんた、父親のいうことならなんでもきくんだな?」
なんでそんなこと聞かれるのかわからなかったけど
「ええ。お父様が喜ぶことなら…。」
「そうか…わかった。」
と同時に部室のドアが勢いよく開けられた。
そこには息せききった蓮の姿が…。
「蓮!」
高梨 蓮は私の幼馴染で元婚約者。
最近、ちゃんと可愛い彼女がいるイケメン男子でとおってる。
なんでも後輩の柚木さんが、葡波くんが部室に入っていくのをみたらしく、心配になって蓮に知らせたらしい…。
もともと心配してくれてたから…。
「美桜、大丈夫か?おい!葡波…お前なにやってんだよ!美桜に何をした!」
「蓮…違うの!何もしてないよ。ただ話してただけ…。大丈夫…。」
と蓮に説明すると少し落ち着きをとりもどした。
「ずいぶん心配性なんだな…元婚約者さんよ。婚約解消したんだからこいつが誰と何やろうが問題ねえだろ。たかがキスくらいで…。」
蓮がひるむのと同時に
私はまたまた葡波くんにビンタした。
今度は思いっきり!
「いってー!いきなりなんだよ…。」
「たかがキスって…なによ…。」
「えっ…。」
下を向き感情を押さえ震える声でいった。
「私のファーストキス…返してよ!」
と私は走って部室を後にした。
残された2人は呆然としていた…
「おい高梨…お前ら婚約してたよな?まだ手だしてねぇとか…まさかキスもしてねぇの?」
「えっ!ああ…。美桜にはそういう感情はないというか身内みたいなもんだから…。てかお前は美桜に何したんだよ!」
「だからキスだけ…ちょっと強引に…。」
「強引にって…お前なぁ…。」
「しゃーねーだろ!男の部屋にほいほいついてくるぐらいならてっきり男慣れしてるもんだと…そうじゃなきゃよっぽどの世間知らずのド天然か………。」
「……。」
「後者かよ…。まいったな…。」
2人はしばらく頭を抱えていた…。
「高梨…なんであいつは父親にそこまで気を遣うんだ?」
「その前にお前…美桜に遊びで近づいてる訳じゃないよな?それならやめろ!」
「もしそうなら今ここでお前と話なんかしねえよ!」
「だよな…。」
蓮は葡波くんに全て話したらしい。
昔、お父様が事業で失敗し一家心中でもしかねないほどに追い込まれたこと。
その姿がわすれられないトラウマが私にあること。
自分との婚約も結局は会社存続のためだったこと…
2人がそんな話をしていたなんて私は何も知らなかった…。
第5話 羽ばたける未来
朝、教室に入るとなぜかすでに葡波くんが席についている。
しかも、制服を正し、髪型も整えていて、一瞬誰かわからないくらいだった。
「葡波くん…?だよね。一体どうしたの?」
「よう!まぁ…これは…ある人との約束だから気にすんな!今日から俺もちゃんとしようと思ってな。それより昨日は悪かった…。」と頭を下げてきた。
教室のみんなが私たちを不思議そうにみる。
まぁいいか!葡波くんが真面目になるならいいことよね。
放課後、蓮が昨日のことを心配して教室までやってきた。
「あれから大丈夫だったか?」
蓮の表情は曇っていてほんとに心配してくれている。
「大丈夫!なんだか心配かけてごめん…。」
というやりとりをしている中、葡波くんがこちらに視線をやり、少し微笑んだようにみえたけどすぐに帰ってしまった。
「あいつ急に雰囲気変わったけどどうしたんだ?」と蓮も不思議がる。
「うん、そうなのよね…。なんか約束なんだって…ある人と。」
今日は部活もなく久々に蓮と帰ることする。
「なあ、美桜…お前、葡波のことどうおもってんだよ。」
「えっ!なに急に!」
どうってそんなこと…わからない…。
ただ、なぜだか葡波くんにはなんでも話せてしまう。私と彼は似てるっていってたからそれで…?
「あいつは悪い奴じゃねえよ、きっと…」
「そうね…でも蓮が他の男子を誉めるなんて珍しい!」
「ほっとけ!」と照れながら私の家の玄関先で別れた。
自宅に着くとすぐに両親によばれた。
なんでも大事な話だそうだ。それは私にお見合いの話がきているとのこと。
この縁談がうまくいけば会社も何もかも安泰だということをお父様から聞かされた。
お父様のこんな笑顔を最近みたことがない…。
でもお母様は私を心配してくれている。
「わかりました。お受けします。」
とだけ答えた…。
これでいいの…と自分の心に言い聞かせた。
翌日、蓮が慌ててかけよってくる。
「お前、見合いするのか?」
父親に聞いたようで情報が早い…。
「うん、後悔なんかないよ。これでいいと思ってる!」と笑ってみせた…。
そこへ葡波くんが「どうした?」とわりこんでくる。
強引なとこは変わってない!
蓮が見合いをうけることを早口で話してしまう。もう!余計なことを…。
「あんたが決めたならいいんじゃねえの。父親も喜ぶしな…。ただ1度決めたなら気持ち変えるんじゃねえぞ!」
とだけ言い残し帰っていく。
言われなくてもわかってるわよ…
戸惑っている蓮を置いて、私は足早に帰宅する。
とある週末にお見合いはとりおこなわれた。
私はきらびやかな振袖を身にまとい、高級料亭の一室で両親とともに待つ。
私にもう迷いはない…。
ただあるとすれば…
葡波くんともう一度だけ話したい…
あの時のように怒ったり…笑ったり…照れたり…そういう感情をだせたのは葡波くんだけだったから…。
考える間もなく、お見合い相手とそのおばあ様らしき気品のある方が来られた。
私の目の前にお見合い相手が座ったが、緊張と不安でなかなか顔を合わせられず、うつむいたままだ。
両親とおばあ様が互いに笑顔で挨拶をかわしている。
私は緊張のため喉が乾き、目の前のお茶に手を伸ばした瞬間、つかみ損ねて湯飲みをたおしお茶をこぼしてしまった…。どうしよう…
「あっ、すみません…。」
すぐに拭こう慌てていると強く手首をつかまれた!
「なにやってんだよ!緊張しすぎ!」
「えっ!」
とっさに顔をあげるとそこには葡波くんがいた!夢?錯覚?
いや…ちゃんといる!
「なんで、葡波くんがここに?」
スーツをさらりと着こなしネクタイを締めた姿はまるで会社社長のようだ!
おばあ様が笑顔で話しかけてくる。
「美桜さん、ごめんなさいね…。孫の翔がどうしてもあなたとのお見合いをとせがむので…。ところであなたたち知り合い?」と優しく頬笑む。
両親も少し驚いていたがホッと緊張がほぐれたようだった。
程なくして
「ではあとはお若い人同士で…。」
とおばあ様と両親は退室する。
何話したらいいの?とっさに
「はぁー!お見合いなんて疲れるもんだな。」と足を崩す。
「いったいどういうこと?ちゃんと説明して!」
「そうだな…。」
といって葡波くんは話はじめた…。
実はおばあ様は私達の学校の理事長であり、たくさんの会社を束ねるとある財閥のご令嬢だとか。
父親とは折り合いが悪く、今はおばあ様と暮らしていることは前に聞いていた。
おばあ様の経営されている子会社とお父様の会社は取引先にあたり、おばあ様にお願いをしてこのお見合い話を進めてもらったのだと…。
「その交換条件が学校で真面目に勉強すること…たったんだ。」
「でも、そうまでしてなんでお見合いなんか計画したの?」
「それはな…。」と立ちあがり広く豪華な日本庭園を歩こうと誘った…。
私もついていくが、不慣れな振袖や履物でつまづきバランスを崩しかけた時、葡波くんの大きな体と手が私を包んで支えてくれた。
「ご、ごめん…。」
「ほらな、しっかりしてるようで危なっかしいんだよ。あんたは…。」
「ごめん…」
「あんたは父親を気にして自分のしたいことに蓋をする。言っても聞く女じゃない!じゃあ、俺があんたと見合いして、婚約いずれ結婚しちまえばあんたは好きなことができる!父親も文句はないはずだ!」
「なにいってるの…それじゃ、葡波くんが我慢することになっちゃうじゃない!そんなのよくない!」
そう言ったと同時に大きな体と手につつまれ抱きしめられた!
「好きだ…好きなんだ…好きになっちまったんだから仕方ねえだろ!」
私は驚きと緊張で体が固まってしまう…。
それを悟ったのか、葡波くんがゆっくりと力を緩めるが離してはくれない…。
「ごめんな…俺はいつもあんたを泣かせてしまう。でもこれからはあんたを守ってやる!もう籠の鳥じゃない…俺の胸に羽ばたいてこい!」
私は目に涙が溢れるのを感じた…。
葡波くんの腰に手をまわし、思いきり抱きついた…自然に流れ落ちる涙を止めることもできずに…。
「好きです…葡波くんが好き…大好き!」
ふいに体がフワッと浮かび私は葡波くんに軽く抱き抱えられた!
「お前の初めては俺が全部もらう!ファーストキスはもうもらったけどな…。」
そういいながら
彼は強引じゃない優しいキスをしてくれた…
それから5年…
私は晴れて獣医になった。
葡波くんは父親とも和解し、大学で経営学を学び、今は代表取締役としての訓練に日々励んでいる。
そして明日…私たちは結婚する!
鳥籠じゃない…
自由で温かな家庭を見据えて…。
放課後、茶道部の茶室にて1年女子たちがこそこそと話をしている。
「ねえねえ、きいた?謹慎処分になってた3年の先輩、明日からくるんだって。」
「えー。まじ!なんで謹慎処分になったの?」
「なんでも他校の生徒と喧嘩らしいよ。」
「ちよっとそこ…静かにしてちょうだい。」
と話している1年女子たちに注意する。
1年女子たちがおどろき固まる。
「す、すいません…桃瀬先輩。」
私は桃瀬 美桜。高校3年生。茶道部の部長をしている。まわりは皆、生粋のお嬢様だといい羨ましいがっているが…でもほんとの私は…そんなんじゃない…。
小さい時から両親、とくにお父様のいうことをきいてきた物わかりのいい優等生の娘を演じてきた。
でも最近、小さい時からお父様が決めた婚約を自分から破棄してしまった。お父様はもちろん反対したけど、娘の気持ちを思うお母様の説得もあり、とりあえずこの件をおさめてくれた。
その元婚約者 高梨 蓮。
蓮には、今や可愛らしい彼女がいる。
蓮に対する気持ちは、どことなく弟に近い感情だったような気がしていたためか、なんだかホッとしている。
元々、婚約も、お父様と蓮の父親が仕事仲間で、それで会社の結束を固めるためのもの。蓮にはずっと、窮屈な思いをさせていたので、幸せそうな蓮の姿をみると微笑ましくも思える。
私もかわったのかしら…。いえ、違う。何も変わってない。変えられてないじゃない。
まだ、今でもお父様の言いなり…。
お父様はいつも私を仕事のために利用しているように思う…。
はぁ…自由のない私の人生って…籠の中の鳥…みたい…。
部活も終わりに近づき、片付けをしているとさっきの1年女子 柚木さんが話しかけてくる。
「桃瀬先輩、あとは私達でやっておきますので大丈夫です。ところで先輩、さっきゆってた謹慎処分になってた3年の男子先輩って、たしか桃瀬先輩と同じクラスですよね…そんな野蛮な人と大丈夫でしょうか…。」
と心配してくれている。
「大丈夫よ。クラスが同じでもそんな接点なんてないしね。」
「そうですよね。でも気をつけてください。なんたって先輩はあこがれのお嬢様なんですからー!」
「ありがと。」といって、先に帰ることにする。
家への帰り道、どこからか犬の鳴き声が…。
「クーン…クーン…」
私は鳴き声のする方へ歩いていく。
そこには段ボール箱に入れられた子犬が震えながら鳴いていた。
私の姿を見るなり「キャンキャン!」と力を振り絞ってるかのように鳴く。
私は箱のそばに座り
話しかける。
「きみは捨てられたのね…なんでこんなひどいことを…。」
じっと、箱に入った子犬をみつめる。
「クーン…」
「なんだか私みたい…。でもね、きみには自由がある。きみが羨ましい…。私には…自由なんかない…。」
と子犬に話しかけていると、背後に人の気配が…!恐る恐る振り向くとそこには大柄で筋肉質の切れ長の目の男が立っていた。目つきが鋭い。
「きゃあ!」と思わず声をあげ、私は尻もちをついた。
「おいおい。大丈夫か?俺はお化けかよ。驚きすぎだろ。」
私はしばらく呆然としていた…。
あれ?この制服ってうちの学校?あれこれ考えていると
「ほら。」と男が手を差しのべてくる。
「だ、大丈夫です。」と自分で立ちあがり、スカートの汚れを払う。
「ふーん、お嬢様ってのは、俺みたいな男の手はとれねぇってか…。」
「どうして私のこと知ってるの?」
「そりゃ、うちの学校じゃ、有名なお嬢様だろ?」
やっぱり…。
「それより、そこどけ。」
「えっ、この子に何するの?」
とかなり不安になったが、男は子犬の前に座り少し笑みを浮かべながらパンをあげている。
その光景がなんだか微笑ましくも思えて、私もしばらく一緒にみていた。
「よし!いくか。」
と男は子犬を抱き抱える。
「ちょっとどこに連れていくのよ。」
「家に連れて帰んの。あんたのとこどうせ無理なんだろ?飼うの…。」
図星だ…お父様が許すわけない…。
「じゃな。」と子犬を肩に乗せ歩きだす男。ちょっとまって…私も子犬を抱きしめてあげたいのにー。
「あ、あの…名前…名前は?」
「ん…?名前?あー、そうか。あんたは知らないのか。俺は葡波 翔 だ。覚えとけ。」というと、子犬に話しかけながら帰っていった。
「葡波 翔…またすぐ会えるかしら…。」と私も足早に家路を急ぐ。
第2話 親しみ戸惑い
翌朝、教室で授業開始のチャイムがなったと同時に、教室のドアがバンッとあけられ、男子生徒が入ってくる。
「おい、葡波!今何時だと思ってるんだ。」と先生が声をあらげ、注意する。
私も彼をみてびっくり!えっ!葡波って?もしかして昨日の…?。
彼は窓側の1番後ろの席につくなり、机の上に両足を投げ出して横柄な態度で座った。
始めは皆、ざわざわしていたが、担任もそれ以上、関与せず、淡々と授業を始めた。
休み時間
「葡波くん…」
「よう!昨日はちゃんと帰れたか?お嬢様!」といやみっぽくニヤリと笑う。
「謹慎処分だったのってもしかして葡波くんなの?」
「ああ、そうだよ。」と口調も横柄だ。
私は、葡波くんが謹慎中だったことよりも、子犬のことが気になっていた。
「ねえ、あの子犬…だけど…。」と少し恐々きいた…。
あの子をみたい…触りたい…抱きしめたい!そんなことを考えてると、自然と笑みがこぼれてた。
「なにニヤニヤしてんだ。気持ちわりぃなぁ。ちゃんと元気だ。」
葡波くんがじっと見つめてくる。
私を下からのぞきこむように
「そんなに心配なら…今日、俺んちくる?」
「えっ!ほんと?いいの?いきたい!」
葡波くんはちょっとびっくりしたように目を見開いた
「おいおい…。」
葡波くんはなぜか戸惑っているようだったが、そんなことどうでもいい!
あの子にあえる!と思うといても立ってもいられなかった。
放課後、帰ろうとする葡波くんにすぐさま駆け寄り「じゃ、いきましょ!」と意気込んだ。
葡波くんはあきれた顔をして
「あんたほんとに俺んちくるつもり?お嬢様が男にほいほいついてくるってどうよ…。世間知らずもいいとこだぜ…。」
私は立ち止まった…。
ほんとだ。なにやってんだろ私…。昨日、今日あったよくわからない男についていこうするなんて。
今までの私ならありえないわ…。
とあれこれ考えていると、表情が険しくなる。そんな私の感情を察したのか…
「しゃーねーな。こいよ…。」と観念したようにいった。
みんなは葡波くんが怖いのか…避けて一線をおいている。
でも私、葡波くんのこと恐くない。
それどころかなんか親近感がわいてくるのはなぜ…?
なんて、考えながら葡波くんのあとについていった。
第3話 心が求めるもの
葡波くんの後をついていくと、大きなお屋敷の前で立ち止まる。
えっ、まさか…ここ?それは大きな門構えの西洋のお城のような家!
葡波くんてお金持ちの息子さん?なの?
びっくりするのは失礼だろうけど、だって制服はラフに着てるし、髪も無駄に長いし、横柄な態度、それに口調だって、あんなだし…。どっから見たってお坊ちゃんには見えない。
あれこれ考えているうちに玄関へ。
葡波くんがチャイムを鳴らす。
すると、中から使用人らしき気品のあるおばあさんがでてくる。
「ただいま。チビは?」
「お帰りなさいませ。チビちゃんは坊っちゃんのお部屋でお元気にされてますよ。」
「こいつ…どうしてもチビをみたいってゆうから連れてきた…。」
とおばあさんと目が合う。
ゆっくり会釈をする。
「まぁ、坊っちゃんがお友達をお連れするなんて初めてじゃないですかー!まあまあ、どうぞ。」
と満面の笑みでいう。
その側で、葡波くんが額に手をやり恥ずかしそうにうつむいていた…。
葡波くんの部屋に入ると「キャンキャン!」とあの子犬が駆け寄ってくる。
ぎゅーと抱きしめ、顔をスリスリする。
「元気そうでよかったー!ほんとよかった!」
葡波くんはデスクの椅子に座り、優しい笑みを浮かべじっとこの光景をみていた。
ちょっと恥ずかしくなったので話かけた。
「葡波くんさ…もしかしてお坊ちゃんだったの?」
聞くなり、葡波くんはあわてて立上がり
「それをゆうな!外で絶対にゆうなよ。ひどい目みるぞ。」と私を見下ろす。こうやってみるとほんと大きい…。
かなり照れているのがなんだか可愛い!
普段はみんなにはかくしてるってことか…。
「わかったわよ。それとチビって…。もっとこう綺麗な名前…例えばローズとかジャスミンとかパール、サファイアとかー!」
「バーカ!こいつ雄だよ。」
あっそうなんだ…。そんなん考えてなかった。葡波くんと目が合い2人して笑った。
「ところであんた、犬好きなのか?それはみててわかるけど…。」
「ええ、犬ってゆうか、動物全部…かな。動物ってなんの見返りもなく癒しをくれるでしょ。そんな動物たちが元気でいられる世の中にしたい!私、獣医さんになりたいの!」
はっ!私なんでこんなこと…誰にもいったことなかったのに…。葡波くんにそっと視線をうつすと彼は黙って聞いてくれていた。
「なれよ。あんたならなれんだろ。」
「無理よ…お父様が許してくれないわ。もうお父様には逆らえないもの…。前の婚約破棄の件もあるし…これは私の妄想!もういいの…。」
そう…私はもうお父様には何もいえない…いってはいけない…そう感じている。いろいろ頭をめぐっていると自然と握った手に力が入る。
「ほんとにそれでいいのか?あんたは…。」
と葡波くんが少し険しい表情を浮かべながらいう。
私はうつむいた。これでいいのよ…これで…
「いいの!もう決めたことなんだから…。それよりチビって…」と私は話をチビの話題に変えようとしたとき…
「いつまでもそうやって父親のいいなりかよ!つまんねぇ人生だな…。」
私は本心を見透かされて悔しかったのか…
「葡波くんに何がわかるのよ!私の気持ちなんて誰もわかってくれない…勝手なこといわないで!」
声を荒げた瞬間、腕を捕まれベットへ押し倒された。
えっ!何?葡波くんが覆い被さってくる。
何が起こったのか理解するのに時間はかからなかった…
「そういうの見てるとイライラする。」
「や、やめて!なんでこんなこと…」
「だいたい無防備すぎんだろ!男の部屋にほいほいついてくるってのはこういうことOKってことなんだよな。」
といいながら強引に唇を重ねてきた…。
突然のことで頭は真っ白。
とっさに私は彼の頬にビンタをしていた。
そして、部屋から一目散に駆け出した。
ひどい…最低…。
葡波くんはそんなことする人じゃないって思ってたのに…。
私のファーストキス…返してよ…。
走りながら、目には涙があふれていた…。
第4話 離れゆく心
翌日、私はまだ気持ちの整理がつかないままだったが、学校にいった。
内心、今日だけは休んでいいか…とも思ったけど、私は1度も休んだことはなかったしプライドが許さなかった。
教室をそっとのぞくと、葡波くんは案の定 まだきてない。
昨日、あんな…ことになって葡波くんにはどんな顔であったらいいのかわからないけど、ひっぱたいて出てきちゃったのは、なんだか申し訳なかったかも…。
葡波くんの席は後ろで私は前の席。
とりあえず顔を合わせずにすみそう…。
授業の途中、後ろのドアが荒々しくバタンッと開けられた。葡波くんだとすぐにわかった。担任が注意をするが、聞いてない。
横柄な態度に担任はあきれてまた授業を再開してしまった…。
なんとなくは視線は感じつつも、私は休み時間はすぐにトイレに立ち、放課後はすぐに部活にいくようにしたので、葡波くんと顔を合わすことはない…と思ってた。
茶道部の部活が終わり茶室の片付けを後輩にまかせ、1人で部室で次回の茶会などの日程調整などをしていた。
コンコンとノックの音。
「桃瀬先輩、茶室の片付け終わりました。」
と1年の柚木さんの声。
「そう、ありがとう。帰っていいわよ。お疲れ様!」
「お疲れ様でした!お先に失礼します。」
と元気よく帰っていく。
はぁ…
私は楽しいなんてあまり感じたことがない。
今まで、両親とくにお父様に気に入られたい一心で、なんでもそつがなくこなしてきた。
その中に自分が楽しいための理由なんてなかった…。
茶道だって女として教養を磨くためだし、今も淡々と毎日をこなしてる。
私はうまくやれてるわ。
いろんなことが頭をめぐっていると…
バタンッと扉が開く音がした。
そして、勢いよく閉める。
そこにはあの葡波くんがいた…。
私は驚いて声がでなかった。
葡波くんがゆっくり近づいてくる。
「なんで俺を避ける?」
「葡波…くん…。」私は心臓の鼓動が高鳴るのを押さえられなかった。
葡波くんはそばにあるデスクに腰かけ
「はぁ…。」と大きくため息をつく。
そしていきなり
「昨日は悪かった…。突然あんなこと…。」
「えっ!あ……。」
なんか…昨日の今日だからてっきり怒鳴られるかと思ってたし朝から避けてたし…。
なんて答えればいいのが戸惑っていると…
「あんたが父親の言いなりになろうとしてるのが無性にイラついた。あんた、やりたいことがあんのになんで我慢しなきゃなんねぇんだ?俺は納得いかねぇ…。」
と徐々に間を詰めてくる。
私が座ってる机を挟む形で向かい合う。
こうやってみると、葡波くんてやっぱり迫力ある…。
「だから…無理だっていってるでしょ!それに葡波くんが納得しなくても関係ないでしょ!私の問題なんだから…。もうほっといて。」自然と声を荒らげてしまった。
しばらくして
「俺とあんたは似てる…。」と少し落ち着いたかのように話し始めた。
自分も父親の会社を継ぐためたくさんのことを我慢してきたこと…。
耐えられなく反発心で家出をしたり、不良グループとつるんでいたこと…。
祖母が見かねて父親から離し、自分の家に引き取って今の学校に編入させてくれたことなど…。
「だから心配だ…。あんたのことが気になってしかたない。」
とさっきの瞳とは違って優しく、少し寂しげにいった。
「そうなんだ…。そんな大事なこと話してくれてありがとう。でも私は葡波くんとは違うし大丈夫。」
そうよ。今までもやってきたんだから、これからもやっていけるわ。
「あんたってほんと頑固だな…。ところで1つ聞くが…あんた、父親のいうことならなんでもきくんだな?」
なんでそんなこと聞かれるのかわからなかったけど
「ええ。お父様が喜ぶことなら…。」
「そうか…わかった。」
と同時に部室のドアが勢いよく開けられた。
そこには息せききった蓮の姿が…。
「蓮!」
高梨 蓮は私の幼馴染で元婚約者。
最近、ちゃんと可愛い彼女がいるイケメン男子でとおってる。
なんでも後輩の柚木さんが、葡波くんが部室に入っていくのをみたらしく、心配になって蓮に知らせたらしい…。
もともと心配してくれてたから…。
「美桜、大丈夫か?おい!葡波…お前なにやってんだよ!美桜に何をした!」
「蓮…違うの!何もしてないよ。ただ話してただけ…。大丈夫…。」
と蓮に説明すると少し落ち着きをとりもどした。
「ずいぶん心配性なんだな…元婚約者さんよ。婚約解消したんだからこいつが誰と何やろうが問題ねえだろ。たかがキスくらいで…。」
蓮がひるむのと同時に
私はまたまた葡波くんにビンタした。
今度は思いっきり!
「いってー!いきなりなんだよ…。」
「たかがキスって…なによ…。」
「えっ…。」
下を向き感情を押さえ震える声でいった。
「私のファーストキス…返してよ!」
と私は走って部室を後にした。
残された2人は呆然としていた…
「おい高梨…お前ら婚約してたよな?まだ手だしてねぇとか…まさかキスもしてねぇの?」
「えっ!ああ…。美桜にはそういう感情はないというか身内みたいなもんだから…。てかお前は美桜に何したんだよ!」
「だからキスだけ…ちょっと強引に…。」
「強引にって…お前なぁ…。」
「しゃーねーだろ!男の部屋にほいほいついてくるぐらいならてっきり男慣れしてるもんだと…そうじゃなきゃよっぽどの世間知らずのド天然か………。」
「……。」
「後者かよ…。まいったな…。」
2人はしばらく頭を抱えていた…。
「高梨…なんであいつは父親にそこまで気を遣うんだ?」
「その前にお前…美桜に遊びで近づいてる訳じゃないよな?それならやめろ!」
「もしそうなら今ここでお前と話なんかしねえよ!」
「だよな…。」
蓮は葡波くんに全て話したらしい。
昔、お父様が事業で失敗し一家心中でもしかねないほどに追い込まれたこと。
その姿がわすれられないトラウマが私にあること。
自分との婚約も結局は会社存続のためだったこと…
2人がそんな話をしていたなんて私は何も知らなかった…。
第5話 羽ばたける未来
朝、教室に入るとなぜかすでに葡波くんが席についている。
しかも、制服を正し、髪型も整えていて、一瞬誰かわからないくらいだった。
「葡波くん…?だよね。一体どうしたの?」
「よう!まぁ…これは…ある人との約束だから気にすんな!今日から俺もちゃんとしようと思ってな。それより昨日は悪かった…。」と頭を下げてきた。
教室のみんなが私たちを不思議そうにみる。
まぁいいか!葡波くんが真面目になるならいいことよね。
放課後、蓮が昨日のことを心配して教室までやってきた。
「あれから大丈夫だったか?」
蓮の表情は曇っていてほんとに心配してくれている。
「大丈夫!なんだか心配かけてごめん…。」
というやりとりをしている中、葡波くんがこちらに視線をやり、少し微笑んだようにみえたけどすぐに帰ってしまった。
「あいつ急に雰囲気変わったけどどうしたんだ?」と蓮も不思議がる。
「うん、そうなのよね…。なんか約束なんだって…ある人と。」
今日は部活もなく久々に蓮と帰ることする。
「なあ、美桜…お前、葡波のことどうおもってんだよ。」
「えっ!なに急に!」
どうってそんなこと…わからない…。
ただ、なぜだか葡波くんにはなんでも話せてしまう。私と彼は似てるっていってたからそれで…?
「あいつは悪い奴じゃねえよ、きっと…」
「そうね…でも蓮が他の男子を誉めるなんて珍しい!」
「ほっとけ!」と照れながら私の家の玄関先で別れた。
自宅に着くとすぐに両親によばれた。
なんでも大事な話だそうだ。それは私にお見合いの話がきているとのこと。
この縁談がうまくいけば会社も何もかも安泰だということをお父様から聞かされた。
お父様のこんな笑顔を最近みたことがない…。
でもお母様は私を心配してくれている。
「わかりました。お受けします。」
とだけ答えた…。
これでいいの…と自分の心に言い聞かせた。
翌日、蓮が慌ててかけよってくる。
「お前、見合いするのか?」
父親に聞いたようで情報が早い…。
「うん、後悔なんかないよ。これでいいと思ってる!」と笑ってみせた…。
そこへ葡波くんが「どうした?」とわりこんでくる。
強引なとこは変わってない!
蓮が見合いをうけることを早口で話してしまう。もう!余計なことを…。
「あんたが決めたならいいんじゃねえの。父親も喜ぶしな…。ただ1度決めたなら気持ち変えるんじゃねえぞ!」
とだけ言い残し帰っていく。
言われなくてもわかってるわよ…
戸惑っている蓮を置いて、私は足早に帰宅する。
とある週末にお見合いはとりおこなわれた。
私はきらびやかな振袖を身にまとい、高級料亭の一室で両親とともに待つ。
私にもう迷いはない…。
ただあるとすれば…
葡波くんともう一度だけ話したい…
あの時のように怒ったり…笑ったり…照れたり…そういう感情をだせたのは葡波くんだけだったから…。
考える間もなく、お見合い相手とそのおばあ様らしき気品のある方が来られた。
私の目の前にお見合い相手が座ったが、緊張と不安でなかなか顔を合わせられず、うつむいたままだ。
両親とおばあ様が互いに笑顔で挨拶をかわしている。
私は緊張のため喉が乾き、目の前のお茶に手を伸ばした瞬間、つかみ損ねて湯飲みをたおしお茶をこぼしてしまった…。どうしよう…
「あっ、すみません…。」
すぐに拭こう慌てていると強く手首をつかまれた!
「なにやってんだよ!緊張しすぎ!」
「えっ!」
とっさに顔をあげるとそこには葡波くんがいた!夢?錯覚?
いや…ちゃんといる!
「なんで、葡波くんがここに?」
スーツをさらりと着こなしネクタイを締めた姿はまるで会社社長のようだ!
おばあ様が笑顔で話しかけてくる。
「美桜さん、ごめんなさいね…。孫の翔がどうしてもあなたとのお見合いをとせがむので…。ところであなたたち知り合い?」と優しく頬笑む。
両親も少し驚いていたがホッと緊張がほぐれたようだった。
程なくして
「ではあとはお若い人同士で…。」
とおばあ様と両親は退室する。
何話したらいいの?とっさに
「はぁー!お見合いなんて疲れるもんだな。」と足を崩す。
「いったいどういうこと?ちゃんと説明して!」
「そうだな…。」
といって葡波くんは話はじめた…。
実はおばあ様は私達の学校の理事長であり、たくさんの会社を束ねるとある財閥のご令嬢だとか。
父親とは折り合いが悪く、今はおばあ様と暮らしていることは前に聞いていた。
おばあ様の経営されている子会社とお父様の会社は取引先にあたり、おばあ様にお願いをしてこのお見合い話を進めてもらったのだと…。
「その交換条件が学校で真面目に勉強すること…たったんだ。」
「でも、そうまでしてなんでお見合いなんか計画したの?」
「それはな…。」と立ちあがり広く豪華な日本庭園を歩こうと誘った…。
私もついていくが、不慣れな振袖や履物でつまづきバランスを崩しかけた時、葡波くんの大きな体と手が私を包んで支えてくれた。
「ご、ごめん…。」
「ほらな、しっかりしてるようで危なっかしいんだよ。あんたは…。」
「ごめん…」
「あんたは父親を気にして自分のしたいことに蓋をする。言っても聞く女じゃない!じゃあ、俺があんたと見合いして、婚約いずれ結婚しちまえばあんたは好きなことができる!父親も文句はないはずだ!」
「なにいってるの…それじゃ、葡波くんが我慢することになっちゃうじゃない!そんなのよくない!」
そう言ったと同時に大きな体と手につつまれ抱きしめられた!
「好きだ…好きなんだ…好きになっちまったんだから仕方ねえだろ!」
私は驚きと緊張で体が固まってしまう…。
それを悟ったのか、葡波くんがゆっくりと力を緩めるが離してはくれない…。
「ごめんな…俺はいつもあんたを泣かせてしまう。でもこれからはあんたを守ってやる!もう籠の鳥じゃない…俺の胸に羽ばたいてこい!」
私は目に涙が溢れるのを感じた…。
葡波くんの腰に手をまわし、思いきり抱きついた…自然に流れ落ちる涙を止めることもできずに…。
「好きです…葡波くんが好き…大好き!」
ふいに体がフワッと浮かび私は葡波くんに軽く抱き抱えられた!
「お前の初めては俺が全部もらう!ファーストキスはもうもらったけどな…。」
そういいながら
彼は強引じゃない優しいキスをしてくれた…
それから5年…
私は晴れて獣医になった。
葡波くんは父親とも和解し、大学で経営学を学び、今は代表取締役としての訓練に日々励んでいる。
そして明日…私たちは結婚する!
鳥籠じゃない…
自由で温かな家庭を見据えて…。
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