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第3章

【4話】恋、逃げ出した後

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 俺と、譜久里と、本村の3人のメッセージグループがある。俺たちの会話は個人のトークルームよりも、このグループを使うほうが多かった。
 

 教師の愚痴、宿題の写し、胸の大きい子の話(本村が熱く語っていただけだが)……。くだらない話ばっかりだった。だがそんな会話でも、今思えば狂おしいほど懐かしい。


 だが、つながりはまた不幸を呼ぶ。譜久里との関係を下手に維持してしまうと、俺はずっと自己嫌悪に苛まれることになるだろう。譜久里にだって不幸をもたらす。


『グループを退会しますか?』


 スマホがこう聞いてきた。迷うことなく、澄ました顔で『退会』をタップした。


 直後、3人での思い出が凄まじい速度で失われていく感覚を覚えた。もちろん、過去は過去であり、記憶自体が失われるわけではない。しかし『退会』の二文字に触れた瞬間、何と言えばいいのか、その思い出を経験した自分が、別人のように思えてきた。そしてこれを境に、もう二度とかつての関係には戻れないのだという実感も湧いてきた。むしろ俺にとっては幸運なことかもしれないが。






 次にしようとしたことは、譜久里のアカウント自体もブロックしてしまうことだった。これをするのには多少、戸惑ってしまった。


 これがいけなかった。


 また、スマホが空気を読まずに明るい音を鳴らす。今度は譜久里からの着信だった。
 

 つい、いつもの癖で電話に出てしまった。応答ボタンを押した後でしまった思う。


「何でグループ、抜けたんだよ」
「譜久里には関係ないよ」
「馬鹿、俺もメンバーなんだからあるだろうが。お前やっぱり最近おかしいよ。どうしたんだよ」


 電話を切りたくてしょうがなかったが、こうなってしまった以上、何かしらの答えを返さなければ譜久里は納得しないだろう。


「俺が譜久里に、ひどいことしちゃったから」
「……は? 俺なんかされた?」
「されたよ。気づいてないだけ」
「で、お前はそれで俺を避けてるわけ?」
「うん……」


 しばらく沈黙が続いた。譜久里は何をされたのか考えているのだろうか。だが、これ以上のことを言うつもりはなかった。


「もう話は終わり。じゃあね」


 こういって電話を切ろうとした。


 これがおそらく最後の通話になるだろう。残念ではあるが仕方がない。


 通話終了ボタンを押す直前に、譜久里が声を荒げてこういった


「ふざけるな!!」


 こんなにも怒りの感情をむき出しにしている譜久里の声を聞くのは、初めてのことだった。
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