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第1章

【11話】桜の想い

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 短い冬休みが明けた。
 本村は俺を気にしてビクビクしているようだった。が、それでもやはり譜久里の前では以前と同じように振る舞っていた。
 

 休み中、俺は譜久里とほとんどやり取りをしなかった。しいて言うなら、譜久里からあけましておめでとうとメッセージが来て、それに軽く返信したくらいであろうか。
 あんなことを知ってしまったというのに、俺は自分でも意外なほど、本村と同じように、いつも通りに譜久里と接することができた。






 相変わらず譜久里はいいやつだった。以前の俺ならばキュンキュンして脳内大騒ぎになっていたであろう。ただ、今の俺にはそうすることができなかった。
 別に何も感じなかったわけではない。ましてや、譜久里に対する気持ちが冷めてしまったわけでもない。ただ、キュンとする気持ちが訪れるよりも早く、宗行桜という巨大な不安がやってきて、一つ残らずそれらを追い返してしまうのだ。






 帰ろうとしたとき、俺はその“不安”に呼び止められた。


「実は創に言いたいことあってさー。まだ誰にも言ってはいないんだけど……」


 やめてくれ。お前もまた何を言い出すんだ。


「俺好きな人できちゃったんだよねー」


 笑いながら桜はそう続けた。
 

 心臓が高鳴る。俺は今すぐ耳を塞いでしまいたかった。これでもしその相手が譜久里だと言われたら……。それ以上は考えたくなかった。今にも逃げ出したかった。
 

 いや、しかし桜はノンケだったはずだ。以前も女子と付き合っていたし……。
 

 逃げても何も始まらない。思い切って聞いてみることにした。


「そうなの、誰?」
「えーっとねえ……。う、後ろの席の松方さん」


 予想通りだ。内心ホッとする。


「へー、いい趣味してるじゃん。俺1年のときクラス一緒だったけど結構かわいいよね」
「でしょ!?」
「応援してるぜ」
「サンキュ! あー、やっぱ打ち明けるとスッキリするなあ」






――――譜久里は桜のことが好きで、その桜は後ろの席の女子が好き。
 このように、状況を頭の中で整理してみたその瞬間。
 俺の心の中に、ある黒い考えが芽生えた。その芽は信じられないほどの速度で成長して大木になり、俺の心をすっぽりと覆ってしまった。良心という名の太陽から、地表に光が届くことはなかった。


「なにかあったら俺に言えよ。相談相手になってやる」
「まじ!? やっぱ創に言って正解だったわ! じゃあよろしくな」
「おう」
「じゃあ俺もう行くわ! ホントにサンキュな!」


 やっぱり騒がしいやつだ。






 ふと近くにあった鏡に目を向ける。


そこには、清くあるべき人間の恋を、策略で我が物にしようという狡猾な生物がいた。
 

 



 俺、なんて顔しているんだ。


 そういえばこんなセリフ、前にも言ったことあったっけ。
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