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第21章 裏切りの代償
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しおりを挟む蝋燭の明かりもつけぬまま、伊東は座敷の奥に腰を下ろしている。
暗闇の中で伊東の表情を読み取ることはできなかったが、狭い居室には重苦しい雰囲気が漂っていた。
「君に嫌疑が掛かっている。」
齋藤は表情を変えず、黙って伊東の言葉の続きを待った。
「君が新選組の手先だと騒ぎ立てる者も少なくない。」
「事実無根です。」
「勿論、私は信じていない。だが、私をもってしても噂を打ち消せないほどに、声が大きくなっている。」
伊東の思考が読めた、と齋藤は口元に笑みをたたえた。無論、暗闇の中で齋藤が笑っていることは伊東にもその後ろに控える篠原にもわからない。
「伊東先生、回りくどい言い方は好みませぬ。」
二人の間に沈黙が流れる。
伊東はその言葉を口にすることをためらっていた様子だったが、決心がついたのか震える手で強く拳を握りながら言った。
「近藤勇を斬れ。近藤君を斬って、皆に御陵衛士の同志だと示すのだ。」
「…承知。」
「良いのか。」
「良いも何も、伊東先生がお命じになったのではありませぬか。」
「長年の同志だろう。そんなに簡単に斬れるものか。」
「私は言ったはずです。私の剣に思想はない、と。求められれば振るうのみ。」
気の抜けたような声で、伊東は、そうか、と短く答えた。
「ただし、一つだけお願いがござる。」
「何だ。」
「御陵衛士を抜けさせていただきたい。」
「ならぬ。」
これまで沈黙を貫いていた篠原が立ち上がろうとしたが、伊東は篠原を制した。
「訳を聞こう。」
「御陵衛士の立場のまま、私が近藤を斬れば、土方に討ち入る隙を与えます。
しかし、私が御陵衛士を抜けて一介の浪人の身で近藤を斬れば、土方がここに押し寄せてきても、伊東先生は知らぬ存ぜぬを突き通せます。」
「なるほど。それは妙案だ。」
「だめだ。新選組の手先であるという疑いが拭えぬ以上、我々の目が届かぬところで動いてはならぬ。」
「では、土方に御陵衛士を潰す口実を与えても良いというのですか。
新選組の隊士は二百を超えます。二十名足らずの我々で立ち向かえるとお考えか。」
齋藤の反論に篠原は押し黙る。
「やり方は、齋藤君に一任しよう。私は君を信じているのだから。」
「必ずや、やり遂げて見せましょう。」
齋藤は拳を畳について、恭しく頭を垂れた。
それから数日して、齋藤は高台寺から姿を消した。
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