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第20章 不安と胸騒ぎ

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薫が新選組の屯所に戻った時には、陸援隊に潜入していた隊士は牢につながれていた。大事な情報をつかんだ彼はわざと新選組に捕まって、直接近藤に報告した。
山崎が見込んだように、その男は切れ者だったようだ。

「なんや浮かない顔して。」
任務から賄方の仕事に復帰してすぐ、山崎が台所にやってきた。
顔面蒼白で屯所に戻ってきた薫のことを少しは心配しているらしい。
「へましかけました。」
「いつものことやろ。」
「そんなこと…。」
ないです、と言いかけたが、危ない橋を何度も渡ってきたことを思い出して、薫はそれ以上山崎に歯向かえなかった。
「情をかけすぎると身を亡ぼすで。」
「山崎さんは、どうやって対処してるんですか。」
「そんな手の内明かすかいな。」
「意地悪。」
「ああ、心配して損した。」
山崎は少し土方に似ているところがある、と薫は思った。
本当に憎たらしいところとか。
でも、本当は優しく思いやりのあるところとか。

「白川の屯所で、坂本龍馬と陸援隊隊長に会ったんです。」
「あら、えらいお尋ね者に会うたな。」
「山口に潜入しているときに少しお世話になりまして。」
ふうん、と興味なさそうに山崎は相槌を打った。
「その坂本達の前で、私、伊東先生に会ったんです。私は伊東先生に正体をばらされると思って覚悟したんですけど、結局伊東先生は私に目もくれずに…。私は新選組に逃げ帰ってきたわけです。」
「命拾いしたな。」
「本当です。私以前に伊東先生にひどいことをしたので、正体をばらされるもんだと。」
山﨑は今回の潜入に伊東が一枚噛んでいることを近藤から聞いていたから、薫が語る伊東の振る舞いに何の疑いも持たないが、薫の目には不可思議としか言いようの無い行動に映ったのであった。
「伊東はあんたが眼中にないだけや。」
「そっか。」
「ま、知らんくて良いことは知らん方がええこともあるさかい。」
山崎は持っていた扇子で薫の肩をぴしりと叩いた。
おきばりやすという嫌味と満面の笑みを添えて。
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