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第20章 不安と胸騒ぎ

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京の街を見下ろす山々が赤く染まり始めたころ、土方と井上の江戸行きが決まった。
薩長の不穏な動きに備えるため隊を更に大きくせんがための隊士募集に加え、幕臣取立が決まったことを江戸に残る家族に伝えるための江戸行きである。
試衛館以来の同志で江戸に帰ったことがない井上と沖田を連れて行きたい土方だったが、沖田の今の体では江戸への道中に耐え切れないと断念せざるを得なかった。
「くれぐれも総司を頼む。」
旅支度を整えた土方は、薫の差し出した刀を腰に差しながら呟いた。
頼まれなくても沖田の看病を続けるつもりでいたが、改めて土方の言葉に薫は首を深く縦に振った。


全ての準備を整え玄関へ向かうと、土方と井上を見送ろうと沖田が柱に背中を預けて佇んでいた。
「お気をつけて。」
少し頬のこけた沖田が着流し姿で玄関に現れた。
「お前はいいから寝てろ。」
「源さん、土方さんが悪所通いしないよう、よく見張っていてくださいね。」
「合点承知。」
「俺の女房でもあるまいし。」
「本当の女房は言いたくても言えない性分だから、私が代わりに言って差し上げたのです。」
ね、と両肩を掴まれ沖田に同意を求められた薫は、想定外の質問にあたふたするばかりで答えにならない。
女房こっちにも悪い虫がつかぬよう見張っておきますからね。」
土方は沖田を一睨みすると、行ってくるとだけ言ってそそくさと屯所を出発していった。

屯所を出てもなお、沖田は見えぬ土方の姿を追うように玄関から外を眺めていた。
「薫さん、私はあとどれくらい生きられるのでしょうか。」
玄関先に一輪だけ残った、とうに時期を過ぎたはずの彼岸花が風で左右に揺れる。
「沖田先生、お体が冷えます。」
中に入りましょう、と沖田の袖を掴んだが、沖田は頑としてその場を離れようとしない。
「沖田先生。また、近藤先生と一緒に戦える日が必ず来ます。
そのためにはまず、病気と戦わなくちゃ。」
薫は強く沖田の袖を一段と強く引っ張った。
「そうですね。薫さんの言うとおりだ。」
「おいしい梅干をお部屋にお持ちします。」
顔は少しこけているのに、薫が掴んだ腕は筋肉が筋張った、剣士のそれであった。
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