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第19章 信念と疑念

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仕事が一段落し部屋に戻ると、人の名前が綴られた書状で畳は埋め尽くされていた。

いつもは土方が使っている文机の前には珍しく尾形が筆を走らせている。

「戻ったか。」

部屋の奥に腕を組んで座る土方の声はいつもよりどこか明るい。

薫は書状の合間を縫って腰をおろし、三つ指をついて頭を下げた。

「この度は、おめでとうございます。」

「まるで他人事みてえな言い方だな。」

「だって…。」

一隊士といえども、食事を作り洗濯物を干すばかりで、命を懸けて戦っているわけではない。

それに、東雲薫という人間はこの時代に存在してはいけない人物なのだ。

「新選組は見廻組と同格の組織になるんだ。平隊士だろうと直参になる。」

「そ、そういうものなんですね。」

「何か困ることでもあるのか。」

土方の鋭い目つきで睨まれれば、喉元まで出かかっていた言葉も引っ込んでしまう。

「べ、別に、何も。」

「気がかりなのは、伊東が残した茨木達です。」

二人のやり取りを黙って見ていた尾形がようやく口を開いた。

「あいつらがどうした。」

「伊東は徳川の世を終わらせ、諸侯で議会を開くことを理想としています。

そんな考えに共鳴する連中が、直参に取り立てられることを良しとするでしょうか。」

尾形は伊東と並び、文学師範を務める頭脳派である。

土方は伊東と対等に渡り合うためにも、尾形を必要としていた。

「あいつらが本気で理想を叶えたいなら、直参だろうが、悪の手先だろうが何にだってなるさ。」

「果たして彼らにそれだけの覚悟があるかどうか。」

尾形は腕を組んで己が書き綴った書状を手に取った。

「覚悟がないなら、死ぬだけだ。」

尾形の手に収まる書状には、茨木司の名前が書かれていた。

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