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第18章 幸せの定義

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西本願寺の玄関には誰の迎えもなく、余計に気味が悪い。

3日間の居続けから戻った三人を早速局長の部屋に連れていく。

局長の部屋に続く障子を開ければ、

そこには目を瞑ったまま腕を組む近藤と不動の姿勢を保ったまま一点を見つめる土方の姿があった。

「局長、三名がお戻りになりました。」

「…ご苦労であった。」

薫はそれ以上首を突っ込むことはなく、三人を部屋に案内して本来の職場である台所へと戻った。



三人には切腹が申し渡されるのだろうか。

それとも…。

いずれにせよ、三人がお咎めなしではすまされないだろう。

何も処罰が与えられなければ、些細な金策や脱走の罪で殺された隊士が浮かばれない。



「浮かない顔で、どうしたんだい。」

「藤堂先生がここに来るなんて珍しいですね。」

「総司から薫の作る梅干が上手いと聞いてね。」

「つまみ食いは駄目ですよ。」

「味見はいいだろう。」

沖田とはまた違った無垢な笑顔に、薫は棚にある梅干の入った壺を取り出した。

「一つだけですよ。」

「いただきます。」

壺に手を突っ込んで、大きな梅干を口に入れた。

「す、酸っぱい!」

「そりゃあ、梅干ですから。はい、おしまい。」

「つれないなぁ、薫は。もう一つくらいいいじゃないか。」

「駄目ですよ!高血圧になりますよ!」

「こ、こうけつ…あつ?何だい、そりゃあ。」

「梅干をたくさん食べると体に悪いんです。」

「ふうん、なんだか年寄り臭いこと言うんだな、薫は。」

「藤堂先生、そんなに私にお団子をおごりたいんですか?」

「ん?どういうこと?」

「私を怒らせたいんですか、ってことです。」

「そ、そんなつもりはないよ!あ、ほら、団子じゃないけど、これ。」

「何ですか、それ。」

「お守り!初詣に行ったときに買ったんだ。」

藤堂に手渡されたそれは、白いお守り袋に包まれた祇園社、現代で言う八坂神社のお守りだった。

「私のために、ですか。」

「え?あ、うん。まあね。」

照れくさそうに鼻の下を触る藤堂は、年端もゆかぬ少年のようだ。



「平助、ここにいたのか。」

台所に現れたのは、伊東の実弟、三木であった。

勉強会の誘いを断り続けて以来、三木が台所を訪れることはなく、

むしろ薫のことを土方の腰巾着と呼んで蔑んですらいる。

「三木さん、どうしたんですか。」

「伊東先生が探しておられる。お部屋に来い。」

「わかりました。じゃあね、薫。」

「ありがとうございます、藤堂先生。」

大事にします、と言葉を添えて懐にしまえば藤堂は無邪気に笑って三木の後を追った。



伊東先生が藤堂先生を呼ぶということは、局長との話し合いは終わったということだろうか。

三人はどうなったのだろう。

複雑な心境を抱えながら、薫は夕餉の支度を始めた。

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