119 / 154
第17章 生まれと育ち
3
しおりを挟む一仕事終えた薫は、醒ヶ井にある近藤の別宅を訪れていた。
中庭に植えられた一本の紅葉の木は赤い葉で染められている。
お腹の膨らんだお孝は転ばないように一歩一歩ゆっくりと足を進めながら玄関まで薫を出迎えた。
「薫さん、いつもありがとう。」
お孝も臨月を迎え、まもなく子供が生まれる。
薫やお孝の生きていた現代と違い、子供を産むということは命懸けである。
近藤が自ら雇った女中の人が一日中家に詰めていたが、
気晴らしになるようにと薫は仕事の合間にお孝の所へ通い続けていた。
「体調は大丈夫?」
「うん、お腹の子も元気でよく私のお腹を蹴ったりするの。」
「早く出ておいでね。」
お孝のお腹を優しく撫でると、小さな足で蹴ったのかお孝のお腹が少しだけ飛び出たような気がした。
二人で顔を見合わせてフフフ、と笑い合う。
薫とはいくつも年が離れているはずなのに、今のお孝はとても大人びて見えた。
自分のお腹を愛おしそうにさする彼女は母親そのものだ。
こんな世界に飛ばされていなければ、私も母親になれたのだろうか。
袴に二本差しで武士の格好をしている薫には自分のお腹をさすることさえ許されないような気がした。
「ごめんください。」
聞き慣れた声が玄関から聞こえた。
お孝は誰だろう、と首をかしげるようにして立ち上がろうとしたが、薫はそれを制した。
「私が行ってくるから、お孝ちゃんは休んでて。」
薫は畳の上に置いていた刀を腰に差すと玄関へ向かう。
「いたのか。」
「お孝の様子を伺いに。」
玄関に立っていたのは土方だった。
手元には酒の入った大きな徳利。
近藤と飲む約束でもしているのだろうか。
しかし、土方はあまり酒を好まない。
だとしたら、どうして。
先達ての三条大橋での一件が関係しているのだろうか。
「客人だぞ。さっさと上がらせろ。」
あれこれと思案している薫に痺れを切らした土方は
徳利を薫に押しつけると我が家のようにずかずかと中へ上がった。
「お酒なんて珍しいですね。」
居間に繋がる障子を開けようとした土方の視線が薫を向いた。
「今宵ここは戦場になる。
上手い肴を用意しておけ。」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
戦争はただ冷酷に
航空戦艦信濃
歴史・時代
1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…
1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる