維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第15章 前世と来世

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三条大橋に打ち上げられていたあの日。

京の街は火の海と化していた。

多くの人が逃げ惑い、遥以外にも橋のたもとで怯えている女子供の姿があった。

そんな中、遥は逃げ惑う人々に紛れ込んだ暴漢に襲われた。

異人の女子だと、人としての扱いもされず欲望を押し付けられた。

着ているものもボロボロにされ、

浮浪者のようにさまよっていた遥を拾ってくれたのはここの女郎屋の主人だった。

現代で毎日のように口にしていた食事とは程遠い、味気ない食事ばかりだったが、

何日も飲まず食わずの遥には何よりのご馳走だった。



捨てる神あれば拾う神あり。

遥には手触りの良い着物が与えられ、ふかふかの布団が部屋には用意されていた。

しかし、遥は女郎屋の主人が何のために自分を拾ったのかすぐに思い知らされることになる。

まともに恋だってしたことないのに、毎日のように何人もの男に抱かれた。



それから間もなくして、遥は上方ではそこそこ名の知れた妓になった。

「掃き溜めの鶴」、それが彼女につけられた二つ名だった。

どうやら話を聞く限り、大坂の売れっ子芸者深雪太夫に自分がそっくりなのだそうだ。

遥かにつく客は皆、手ごろな値段で太夫に似た女が抱けるとあって、こぞって遥を買った。

遥がその身で銭を稼げば稼ぐほど、心と体は蝕まれていった。



深雪太夫の妹、なぞと触れ込みだしたのは伊勢屋の主人。

金のない男たちが上玉を一目見ようとなけなしの金を出して遥に会いに来る。

けれど、伊勢屋の主人も客の男たちも誰一人として遥自身を見てはくれなかった。



―こりゃ深雪太夫も顔負けだ。―

―深雪太夫だと名乗ってごらんよ。―



誰にも気遣われずに商品のように体を売る日々に、遥は絶望することも希望を抱くこともやめた。

毎日生きるだけの、ただ死んでいないだけの人間に徹することに決めたのだ。

そうすれば、傷つかないし悲しくないから。



だから、薫の提案には死んでも乗りたくない。

死に目に妹に会いたいだって?

そんな贅沢、あの女には絶対にくれてやらない。

誰も私を見てはくれないのに、どうしてあの女ばかり皆に大切にされるのだろう。

天日干しにされた布団に横たわり、うとうとする意識の中で遥はそう毒づいた。



真上に上がったお天道様は遥の頬に伝う涙を宝石のように光り輝かせている。




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