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第15章 前世と来世
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「どうだ、上玉だろう。」
帰って来て開口一番、土方は薫にそう言った。
「上玉って、私にはわかりませんよ。」
「他の男じゃ皆やられちまうからな。
近藤さんの休憩所への使いはあんた以外には頼めねえ。」
蝋燭の明りを頼りに筆を進める土方はその手を止めることなく、薫に告げる。
「はいはい。」
呆れたように返事をしながら、薫は床に散らばった手紙の類を整理して土方の傍にあるお盆の上に置いた。
河合の一件以来、薫の傍から人が消えた。
皆、薫のことを土方のスパイか何かに思っているらしく、
お手伝い衆は解散し台所に立つ薫に話しかける人もない。
幸か不幸か、お手伝い衆の代わりに雇われた女中達は比にならないほど手際が良く、
賄い方としての仕事がスムーズに終わるようになり、こうして土方の雑務を手伝えるようになっていた。
薫にとっても隊士からの白い目を浴びずに済むし、土方も心なしか素の自分でいてくれている気がしている。
これでよかったのだ、と薫は自分自身に言い聞かせるように、手触りの良い和紙に手紙を包んでいく。
「辛くねえか。」
土方の独り言のような問いかけが、薫の鼓膜を揺らした。
何がですか、と白を切りたくなったが、
今まで薫の身を案じるような言葉を掛けられたことなんて一度もなかったと思い返して口を噤んだ。
「副長のお傍にいれれば、それで十分です。」
綺麗に整った土方の横顔を見つめて、言った。
「とんだ殺し文句だな。」
土方が薫に目を向けることはなかった。
けれど、土方の瞳には今まで見たことのなかった安らぎが宿っている。
これでいいのだ。
薫は再び土方の筆跡が滲む手紙に目を落とした。
帰って来て開口一番、土方は薫にそう言った。
「上玉って、私にはわかりませんよ。」
「他の男じゃ皆やられちまうからな。
近藤さんの休憩所への使いはあんた以外には頼めねえ。」
蝋燭の明りを頼りに筆を進める土方はその手を止めることなく、薫に告げる。
「はいはい。」
呆れたように返事をしながら、薫は床に散らばった手紙の類を整理して土方の傍にあるお盆の上に置いた。
河合の一件以来、薫の傍から人が消えた。
皆、薫のことを土方のスパイか何かに思っているらしく、
お手伝い衆は解散し台所に立つ薫に話しかける人もない。
幸か不幸か、お手伝い衆の代わりに雇われた女中達は比にならないほど手際が良く、
賄い方としての仕事がスムーズに終わるようになり、こうして土方の雑務を手伝えるようになっていた。
薫にとっても隊士からの白い目を浴びずに済むし、土方も心なしか素の自分でいてくれている気がしている。
これでよかったのだ、と薫は自分自身に言い聞かせるように、手触りの良い和紙に手紙を包んでいく。
「辛くねえか。」
土方の独り言のような問いかけが、薫の鼓膜を揺らした。
何がですか、と白を切りたくなったが、
今まで薫の身を案じるような言葉を掛けられたことなんて一度もなかったと思い返して口を噤んだ。
「副長のお傍にいれれば、それで十分です。」
綺麗に整った土方の横顔を見つめて、言った。
「とんだ殺し文句だな。」
土方が薫に目を向けることはなかった。
けれど、土方の瞳には今まで見たことのなかった安らぎが宿っている。
これでいいのだ。
薫は再び土方の筆跡が滲む手紙に目を落とした。
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