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第14章 誠と正義と
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しおりを挟む西本願寺の境内の隅に、つくしが咲いている。
もう春はすぐそばまで来ているのだと、小さなつくしが教えてくれている気がした。
「つくしんぼだ。」
薫がしゃがみこんでつくしを眺めているすぐ隣に、沖田がやって来た。
「沖田先生。近藤先生達の見送り、行かなくていいんですか。」
「いいですよ。別れなら昨日済ませましたから。」
この時代の人の出張というのは命懸けである。
飛行機で地球の裏側まで行けてしまう時代から来た人間からすれば
大げさに感じるのだが、彼らにとっては国内旅行ですらも、
現代人からすれば月に行くようなものだ。
「また、副長は一人ぼっちです。」
近藤のいない間、新選組を一人で背負うのは土方だ。
もっと永倉や原田、齋藤を頼りにしてもいいと思うのだが、土方の責任感がそれを阻む。
「あの人は意地っ張りですから。
嫌われ者は自分一人でいいと思っている。」
「だからって、あんなに簡単に人を死に追い込んでいいんでしょうか。」
近藤のいなかった間、一体何人の隊士が切腹させられたのだろうか。
「薫さん。」
いつになく真面目な口調で沖田は薫の名を呼んだ。
「切腹をただの罰と思い込んでいるのなら、それは違います。
切腹は武士の身に許された、名誉ある死なのです。
新選組がなければ、彼らは切腹すら許されない身分。
あれは土方さんなりの彼らへのはなむけなのです。」
薫は沖田の言葉に黙って頷くほかなかった。
その価値感を理解はしても、納得できない。
同じ日本人であるのに、考え方はまるで違う。
去っていく沖田の背中が、まるで私は同じ日本人ではないと言っている気がして、
薫には寂しく思えた。
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