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第14章 誠と正義と
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しおりを挟む年が明けた。
慶応二年―。
風は変わろうとしている。
しかし、まだ誰もその風の変貌に気づくものはいない。
年明け早々、近藤は京都守護職屋敷に呼び出された。
再度広島への出張が命じられたのである。
「なんでまた、あんたが広島くんだりまで行かなきゃならねえんだ。」
土方は再度の広島出張により伊東と近藤が行動を共にすることが気に食わなかった。
「殿の直々のご下命だぞ。
こんな名誉なことがあるか。」
近藤は土方のとがった発言に対し窘める口調で言った。
「長州に対する断固たる処断を、と諸藩に説かれた姿が殿の耳にも入ったのでしょう。
これは新選組にとっても絶好の機会と考えます。」
「長州征伐に及び腰のあんたにそんなことは言われたくねえな。」
「及び腰とは!言葉を慎みください。」
汚らわしい、と言わんばかりに伊東は顔に扇子を当てて土方を見下げる。
「いいか、言葉は実行があってこそ初めて価値が生まれる。
あんたみたいな能書き垂れても人はついてこねえんだよ。」
「トシ!いい加減にしないか。」
近藤は強い口調で土方に言った。
「前回の広島出張で思い知らされたのだ。
諸藩は逆賊長州と戦う意志などまるでない。
日和見を決め込んでいるのだ。
しかし、京都守護職であり譜代の筆頭でもある会津だけは
ご公儀に仇なす長州を許さぬという意志を示すこともまた大きな意味があるのだ。
前にも伊東参謀がおっしゃったように、我々は京の治安をお守りすることが役目。
それをないがしろにしてまで長州征伐に加わることこそ無価値である。」
土方はふっと口元を緩めた。
「近藤さん、立派になったな。」
「なっ!真面目に言ってるんだぞ。」
「本当にそう思ってるんだ。」
見つめ合う二人はまるで夫婦のように、互いを信頼し合っている。
伊東の咳払いがなければいつまでも二人でそうしていたかもしれない。
「とにかく、今回の広島出張には私と篠原が同行いたします。」
伊東の提案に土方の鋭い目が光る。
「待て。武田でいいではないか。」
武田観流斎。
甲州流軍学を修め、新選組では兵学師範を務めている知識人である。
池田屋事件以前に加入した隊士の一人で土方の信頼は厚い。
一方で、篠原は伊東の腹心で腕の立つ男である。
新選組の乗っ取りすら考えている節のある伊東を同行させる手前、
伊東の息のかかった剣豪を傍に置くことは土方として許容できぬ提案だった。
「武田君は、知識に長けていますが議論となるといささか考えが古いようです。」
「ならば尾形も同行させる。それでよろしいか。」
「無論、尾形君なら鬼に金棒。」
こうして、広島出張の人員は土方と伊東の思惑の中で決められたのである。
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