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第14章 誠と正義と

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薫の足は、光縁寺にある山南の墓前に向かっていた。

今の薫を受け止められるのは山南だけだった。

「山南先生…。

どうして、どうして皆を置いて先に逝ってしまったんですか。」



苦しい。

土方をあの部屋に一人にしてしまったことを今更ながら後悔した。

あの衝動にはきっと土方なりの理由があるはずだ。

それを受け止めずに、一人にしてしまったのだ。

だけど、割り切れない感情を抱いていることもまた、事実だった。

こんなとき、山南先生がいてくれたら。

日はとっくの昔に暮れて、薫は一人暗闇の中で佇む。

京の冬は凍えるほど寒い。

余りの寒さに薫の体は自然と震え始めた。



涙が止まるまでは山南先生の傍に居たい。

薫はそう思って、山南の墓前に座り込んだ。



「そんな所いたら、死ぬぞ。」

蛍のような淡い光が薫の顔の前に差し出された。

提灯の明りだ。

薫が顔を上げた先には、土方がいた。



「悪かった。」

土方はそう言うと、薫の顔の前にしゃがみこみ、瞼から伝い落ちる涙を長く美しいその指で掬った。

やっと、泣き止んだと思ったのに、再び薫の目からは涙が溢れ出す。

「歳三さんの、馬鹿。」

ほら、と差し出された手を薫は握り返した。

わざわざ持ってきてくれた厚い綿の入った半纏に袖を通す。

あったかい。

きっとその温かさは、半纏だけじゃない。



「お前が他の男に触られているのを見て気が気じゃなくなった。」

「だからって。」

「山南さんがいてくれたら。」


月のない夜。

土方の表情を窺うことはできない。

でも、薫にはわかった。



歳三さんは、孤独なのだ、と。



試衛館の仲間にすら、見せられない苦悩。

組を二分しようとする伊東一派に対して、与えてはいけない隙。

彼はその狭間で葛藤し、一人で乗り越えようとしている。



カラン、コロンと二人の下駄が鳴る。

土方の指から伝わってくる温もりが、心地よかった。



「歳三さん。」

薫は足を止めた。

それでも、土方の手が薫の手から離れることはない。

「何だ。」

不愛想な返事。

「一人じゃないですよ。」

暫くの沈黙があって、土方は歩き出す。

「お前じゃ半人前にもならねえよ。」



まるで、思春期の恋愛みたい。

不器用な受け答えしかできない彼の姿に、薫はそう思った。



二人を照らすのは、土方の手にする提灯だけだった。


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