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第12章 戦争と平和
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しおりを挟む冬だ。
境内に咲く草花に霜が降りた日の朝、薫はそう思った。
これまでの日々を思えば、草花に降りた霜に季節の変わり目を感じるほどに
平穏な日々が続いている。
京の街には小さないざこざこそ起きても、池田屋のように天地がひっくり返るような出来事は起きていない。
明治維新なんて、本当に起こるのかな。
薫はそう疑いたくなった。
もしこのまま平和な毎日が続いたら、私は土方さんと夫婦になれるのかな。
世の中が落ち着いたら、
二人で軒先に並んで座って、花見をするのかな。
私がご飯を作って歳三さんが食べる…ってそれじゃ今と一緒か。
鳥の鳴き声が聞こえてきた。
朝焼けも近い。
ご飯の炊きあがる香ばしい香りが鼻を掠める。
何気ない日常の始まりだった。
そうこうしているうちに道場の方から雄叫びが聞こえてくるようになり、
やがて大砲や銃を打ち鳴らす音が聞こえてくる。
人が増えたのに合わせて賄い当番というのが新たに設置され、薫は数人と共に朝餉の用意をする。
食事に鶏肉や豚肉が毎日取り入れられるようになってから、隊士の食事の量は格段に上昇した。
米も何回も炊き直さなければならないし、食事の片づけを終える頃には冬だというのに薫は汗だくになっていた。
「薫。」
一仕事終えた後の薫の元に、土方がやって来た。
土方自ら赴くなんて珍しい、と薫は思ったが、どうしましたかと普段通り返事をした。
「部屋に来い。話がある。」
薫は先だっての申し出の話に違いないと確信した。
料理道具を定位置に戻すと、薫は土方の後を追った。
「長州へ行け。」
土方と向かい合わせで座るように言われた後、土方は周囲に漏れないよう小声で話し始めた。
「副長…。」
結局、土方が薫の申し出を受け入れた形となった。
「伊東の方は山崎に任せる。だから、お前は長州に入り内部を探れ。」
「内部を、ですか。」
「俺の掴んでいる情報によれば、長州は今年の初めに内乱が起こり、
主戦派が藩政を握っていると聞く。恐らく秘密裏に戦支度を進めているはずだ。」
「それでは、私は長州が戦支度をしている証拠を集めればよろしいんですね。」
「そういうことになるが…そう簡単に事は運ばないだろう。」
「些細なことでも副長にお知らせします。」
土方は黙って薫を見た。
「死ぬな。」
そう言うや否や、土方は薫の身を抱き寄せた。
突然の動きで薫の心はついていけなかったが、
自分は土方に抱きしめられているのだと認識してからは、静かに土方の背中に手を回した。
「歳三さんを残して死にませんよ。」
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