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第11章 過去と未来
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しおりを挟む土方は日野にいる間、休みなく志願者との面談をつづけた。
新選組の噂は日野の田舎にも届いているらしく、山を越えて遠くから駆け付ける者さえあった。
薫は久しぶりに袴を脱いで、台所回りの仕事に専念した。
ノブからは土方の好物を伝授してもらい、更には日野の郷土料理まで教わった。
「近藤先生もお喜びになると思います。」
「それは何よりです。薫さんも時には手紙を出してくださいね。
歳三からの文じゃ物足りないわ。」
「歳三さん、文を出してるんですね。」
「ああ見えてマメな人なのよ。
貴方のこともよく書かれているわ。」
思わず竈に息を吹き込むのを止めて、ノブの方を見た。
「なんて書いてあるんですか。」
「薫さんの作る料理が美味しいとか、部屋に花を飾って風流だとか。」
一言も褒めないくせに。
素直じゃないんだから。
薫が竈に息を吹き込むと、勢いよく火が燃え盛った。
「薫さん、あの子と夫婦になるのかしら。」
「め、めおとですか…?」
「お似合いだと思うけど。」
「考えたこともなかったです。」
「あの子は今、新選組を大きくすることで一杯一杯かもしれないけど、
世の中が落ち着いたらちょっと考えてみてほしいの。」
世の中が落ち着いたら。
わたしと土方さんに平穏が訪れるのは一体いつになるのだろうか。
「そうですね。
世の中が落ち着いたら…歳三さんもちょっとは私のこと見てくれるかな。」
淡い期待は薫の心に浮かび上がったが、すぐに消えた。
そんな明るい未来はたぶん、私と歳三さんの下には訪れないだろうから。
暫くして、土方は一仕事を終え、江戸に戻ることになった。
江戸に戻れば、伊東や齋藤、藤堂と合流することになり、穏やかな土方の姿を見るのはまた遠い先の話になる。
屋敷の前で薫はノブに深々と頭を下げた。
「お世話になりました。」
「いつでも待ってますから。」
「それじゃあ、姉さん。お達者で。」
そして、二人は一路江戸へ向かった。
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