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第11章 過去と未来
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しおりを挟む翌朝には齋藤が試衛館を発ち、伊東の元へ向かった。
恐らくそこには藤堂もいるのだろう。
土方は多くを語らなかったが、齋藤は土方の意を全て悟ったかのように頷き、そして深川へ向かった。
それからしばらくして、土方は隊士募集のためと久方ぶりの故郷へ帰るため、日野に向けて試衛館道場を発った。
勿論、薫も一緒である。
藤堂が飛び出した一件以来、薫と土方はろくに口をきいていない。
別に何があるわけではなかったが、鬼の目をした土方がどこか恐ろしくて薫は話しかけることができずにいた。
羽を揺らす蝉の声が街道中に響き渡る。
日の光を遮るものは何もなく、強い夏の太陽が薫に容赦なく照り付ける。
ずんずんと、今までにない速足で土方は日野までの道を歩いていく。
仲間の死すらも政治の道具として駆け引きに使う男が目の前にいるのだ。
血も涙もない、鬼の副長として。
ただ、新選組のためという一心で。
薫の頭からあの土方の鬼のようなまなざしがこびりついて離れない。
しかし、江戸までの道中に見せた土方の顔は心優しい青年そのものだった。
険しい坂道を黙っておぶって連れて行ってくれたのは他でもない、土方である。
私はどの歳三さんを信じたらいいの。
幼い頃の無邪気な土方。
薫だけに見せる優しい土方。
そして、新選組の鬼副長として冷徹な土方。
土方との色んな思い出が走馬灯のように駆け巡る。
そんなとき、薫の手が誰かの手に触れて、そして握られた。
見上げれば、土方の背中がある。
「遅い!」
「す、すみません。」
握られた手のひらから土方の熱が伝わってくる。
土方はただ前だけを見て、相変わらず速足でずんずんと進んでいく。
歩きというよりむしろ駆け足と言った方が良いくらいのスピードだった。
それでも薫は握られた手を離すまいと、必死で食らいついた。
どれくらい歩いたのかわからないが、土方の歩みが急に止まった時、眼前には懐かしい多摩川が流れていた。
「多摩川だ…。」
薫の生まれ故郷でもあり、土方と出会った場所でもあるそこは変わらず悠然と水が絶え間なく流れていた。
心地よい風が二人の背中を押すように吹き抜けた。
たとえ百年の時が流れようとも、木造の建物が鉄筋コンクリートの建物に変わろうとも、
多摩の大地に注がれる風は何一つ変わらない。
「薫、行くぞ。」
いつの間にか解かれていた手が再び土方の手の中に収まり、二人は川を渡った。
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