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第10章 誠か正義か

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壬生寺の空に大きな凧が上がっている。

正月も落ち着いたというのに、いったい誰が凧揚げをしているのだろうと

壬生寺を覗いてみると、子供たちと楽しそうに遊んでいる沖田を見つけた。

「沖田先生!」

声をかけると、沖田は大空にたなびく凧から視線を外した。

「薫さん、あなたも凧揚げがしたくなったんですか。」

「違いますよ。まだお正月気分が抜けていない人の顔を拝みに来ただけです。」

「こんな顔をしています。」

「もう、冗談ばかり言って…。」

新選組は穏やかな日々が続いていた一方で、天下を巡る情勢は目まぐるしく変化していた。

長州征伐を訴えていた幕府と薩摩は長州の家老3名の首を召し出すことで禁門の変の責めを手打ちとした。

そんな中、長州では、俗論派と呼ばれる穏健派を高杉晋作らが一蹴するクーデーターが発生。

時流は少しずつ倒幕へと傾きつつあるというのに、新選組は何も変わらない日々が続いている。

山南の時勢講座もとうとう時代に追いつき、昨今の政治情勢について少しばかり明るくなっていた。

薫の胸のざわめきは時勢を知れば知るほど、落ち着かなくなる。

この物語の終わりを知っているからこそ、新選組の生き生きとした姿が薫の胸をより一層締め付けるのであった。



「どうしたんですか、そんな浮かない顔して。」

沖田は俯いたまま動かない薫の顔を覗き込む。

「ううん、なんでもないです。」

「壬生から引っ越すのは寂しいですね。」

「総司兄ちゃん、壬生から引っ越すん?」

一緒に遊んでいた子供たちが沖田を囲み、心配そうな目で見上げた。

「うん。所帯が思いの外大きくなってしまいましたからね。

それに、いつまでも八木家の皆さんにご迷惑をおかけする訳にもいきませんし。」

「うっとこやったら、いつまでもおってええよ。」

八木家の為三郎こと、為坊たあぼうは薫の袴の裾を揺すりながら言った。

「どこに引っ越しになっても為坊の所に遊びに来るから。」

薫は目に涙を浮かべる為坊の頭を撫でた。

「待ってるからな。また、遊んでや。」

「ほら、為坊!余所見してると凧が落っこちちゃいますよ!」

それ、と凧を操る沖田の姿は子供の時ときっと変わらない天真爛漫な姿だった。



「薫君!」

壬生寺の大門の方から薫を呼ぶ声がした。

余所行きの格好をした山南が大門に立っている。

「そうだ、忘れてた!」

「どうしたんですか。」

「今日は山南先生とお西さんの所へご挨拶に伺うんでした!」

「あらあら、行ってらっしゃい。」

沖田に手を振られて見送られると、薫は急いで支度を整え京の中心部にある西本願寺へ急いだ。

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