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第7章 平穏と不穏
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しおりを挟む現在、京都御所近くに同志社大学のキャンパスがある場所にかつて薩摩藩邸があったとされている。
大学のキャンパスが一つ分納まる屋敷なんていうのは現代では見ることのできない規模である。
薫はその薩摩藩邸で一番大きな門の前に立っている。
「あの、すみません。私は会津藩お預かり新選組東雲薫と申す者です。
このお手紙は新選組総長山南敬助という者からのもので、
薩摩藩の西郷吉之助先生にお渡しいただきたいのですが。」
門番は怪訝そうな目をこちらに向けながら手紙を受け取る。
「あい、わかった。」
門番は懐に手紙をしまうと、薫を邪魔者だと言わんばかりに掌で追い払う仕草をした。
「ちょっと、失礼ではありませんか。」
「ないごてな。」
「曲がりなりにも新選組総長の使いとして来たのに、邪魔者のように扱うのはいかがでしょうか。」
「ふんっ、侍風情が。」
「侍風情とはどういうことですか!」
薫は門番に食って掛かった。
薫がこの時代に来て学んだのは、卑屈な態度をとることが一番良くないということ。
失礼なことをされて、言い返さない人は武士として認めてくれないのだ。
「やめやんせ。」
門の奥から声がした。
そして、門の横についてある小さな引き戸から男が現れた
「あなたは…。」
薫の前に現れた男は本屋で出会ったあの男であった。
「また会いもしたな。」
「中村様のお知り合いでごわすか。」
男はえらい身分なのか、門番は居住まいを正し、懐から先ほどの手紙を取り出した。
「この者が西郷先生に手紙をば持って来もした。」
中村は門番から手紙を受け取ると、裏返して差出人を確かめた。
「新選組…山南…。」
「私は会津藩お預かり新選組東雲薫と申します。」
薫は丁寧に頭を下げると、中村も応えるように軽く会釈をした。
「おいは中村半次郎にごわす。こん手紙確かに西郷先生に渡しもんそ。」
「よろしくお願いします。では、これにて。」
「待っちゃんせ。」
薫の足が止まった。
「あん本をこん先生が欲しがったとな。」
「いいえ。欲しがったのは別の人です。」
「ほう。近藤勇殿か。」
「いいえ。」
薫は首を振った。
「土方という者です。」
「そいは、面白かこつを聞きもした。」
中村は薫の受け答えに満足したのか、そのまま門の中へ消えていった。
何が面白かったのだろうか。
薫は首を傾げつつも帰路についた。
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