上 下
39 / 154
第6章 武士と正義

しおりを挟む


結局、禁門の変は長州の惨敗に終わった。

しかし、京への影響は計り知れないものであった。

京の主要な街は丸焼け。

民は焼け出され、多くの者が路頭に迷った。

更に悪いことに、火をつけた長州よりも火を延焼させた幕府側に不満の矛先が向けられたのである。




土方らは疲れ果てた顔をして屯所に帰って来た。

九条河原では見事な働きを見せ、最後は天王山で総大将の真木和泉を追い詰めたという。




「あれほど守ると誓った京の街を焼け野原にしちまった。」

土方は部屋の中で装具を外しながらこぼした。

薫は何も言わず鎖帷子を外す。

「しかし、これで京の街から長州を一掃できた。」

「そうですね。」

「俺たちのやっていることに間違いはない。そうだよな、薫。」



見たものを全て土方に言ってしまいたかった。

六角獄で見た地獄を。

牢で見た平野という武士を。



きっと土方も同じ思いをしたのだろう。

幕府の役人たちなんかよりも尊王攘夷派の志士達の方がよっぽど正義に見える、と。



話してしまえば只でさえ苦しんでいる土方をもっと苦しめることになってしまう。

「そうです、副長。」

薫は無理やり笑顔を作った。




次の日。

安藤は逝った。

最期は安らかであった。


「粥をお持ちしました。」

身体を起こそうとしたが、体に力が入らないらしく薫は起き上がらせることができない。

「東雲。」

人を呼ぼうと立ち上がったが、安藤に呼び止められた。

「安藤さん。」

「次生まれ変わっても俺は武士でありたい。」

薫は安藤の手を握った。

「俺は幸せもんだ…。」

彼の手から力が抜けた。

「安藤さん!安藤さん!」

薫の呼びかけに安藤が答えることはなかった。




薫は既に息絶えた安藤に嗚咽交じりに尋ねた。

「武士ってなんですか。」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

連合航空艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。 デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。

戦争はただ冷酷に

航空戦艦信濃
歴史・時代
 1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…  1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。

処理中です...