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第6章 武士と正義
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しおりを挟む結局、禁門の変は長州の惨敗に終わった。
しかし、京への影響は計り知れないものであった。
京の主要な街は丸焼け。
民は焼け出され、多くの者が路頭に迷った。
更に悪いことに、火をつけた長州よりも火を延焼させた幕府側に不満の矛先が向けられたのである。
土方らは疲れ果てた顔をして屯所に帰って来た。
九条河原では見事な働きを見せ、最後は天王山で総大将の真木和泉を追い詰めたという。
「あれほど守ると誓った京の街を焼け野原にしちまった。」
土方は部屋の中で装具を外しながらこぼした。
薫は何も言わず鎖帷子を外す。
「しかし、これで京の街から長州を一掃できた。」
「そうですね。」
「俺たちのやっていることに間違いはない。そうだよな、薫。」
見たものを全て土方に言ってしまいたかった。
六角獄で見た地獄を。
牢で見た平野という武士を。
きっと土方も同じ思いをしたのだろう。
幕府の役人たちなんかよりも尊王攘夷派の志士達の方がよっぽど正義に見える、と。
話してしまえば只でさえ苦しんでいる土方をもっと苦しめることになってしまう。
「そうです、副長。」
薫は無理やり笑顔を作った。
次の日。
安藤は逝った。
最期は安らかであった。
「粥をお持ちしました。」
身体を起こそうとしたが、体に力が入らないらしく薫は起き上がらせることができない。
「東雲。」
人を呼ぼうと立ち上がったが、安藤に呼び止められた。
「安藤さん。」
「次生まれ変わっても俺は武士でありたい。」
薫は安藤の手を握った。
「俺は幸せもんだ…。」
彼の手から力が抜けた。
「安藤さん!安藤さん!」
薫の呼びかけに安藤が答えることはなかった。
薫は既に息絶えた安藤に嗚咽交じりに尋ねた。
「武士ってなんですか。」
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