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第6章 武士と正義

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柴司という若い侍の葬儀は会津の本拠地、金戒光明寺で粛々と行われた。

武士は時として名誉と命を天秤にかけたとき、有無を言わさず名誉を取る。

柴は選ばざるを得なかったとはいえ、彼の死は誰の目から見ても名誉ある死であった。



二十歳という若さで死を選ばざるを得なかった彼を偲んで、新選組から出席した男たちは皆涙を流した。

しかし、土方だけは前を見つめ表情一つ変えずに葬儀をこなしていく。

薫は土方が無理をしているように見えてならない。



葬儀が終わり土方以外の新選組から来た人間は既に建物の中に入ってしまったが、
土方は柴の墓から離れようとはしない。

「副長…。」

「向こうへ行ってろ。」

土方の声は心なしか震えている。

薫は静かに後ろに下がり土方から距離を置いたが、彼から目を離すことはなかった。



土方は泣いていた。



声を殺し、一人で肩を震わせている。

程なくして土方は立ち上がり、薫の方へ向かってきた。

「向こうへ行ってろって言っただろう。」

土方は赤い目をそのままに、他の人たちの後を追う。

足早に進む土方を薫は小走りで追いかけた。



夜、薫と土方は普段と変わらず部屋にいた。

土方はいつものように机に向かって書類仕事をしている。

薫はというと、隊士から頼まれた着物を繕っていた。

ちょっと前までは薫は仕事があるからと先に寝ることが多かったが、
池田屋以来朝が早くても必ず土方が寝るまではずっと起きているようになった。

土方がようやく筆をおいたとき、薫は副長、と土方の背中に向かって呼びかけた。

「私に悲しみを背負わせてください。」

「なんだ、急に。」

蝋燭の灯が消えた。

土方が消したのだろう。

「一人でなんて泣かないでください。」

土方は何も言わない。

「苦しい時も悲しい時も副長のお傍にいたいんです。」



薫の体は急にふわりと浮いたかと思うと、抱きしめられる感触がした。

土方の体が震えている。

やがて彼の口から嗚咽が漏れた。

薫は土方の背中に腕を回し、背中を優しくさすった。

まだ土方のことを歳三君と呼んでいた頃、眠れない彼の背中をポンポンとあやしていたことを思い出す。

「薫。」

「はい。」

「俺の傍にいろ。」

「はい。」

薫は強く深く頷いた。


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