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第5章 To be, or not to be.
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しおりを挟む屯所に帰ったのは、夜が明けて次の日の昼頃であった。
しかし、戻ったからと言って休めるわけではない。
土方は諸々の報告書を描き上げなければならなかったし、薫も怪我人の手当てに従事した。
土方から休めと言われたけれども今はできるだけ体を動かして何も考えないようにしている方が良いと、
その役目を買って出たのだ。
怪我人の中に、沖田と賄いお手伝い衆の一人、安藤の姿があった。
安藤は深い傷を負っていた。
意識はあるようだが、剣を振るうのは難しいかもしれない。
「安藤さん、大丈夫ですか。」
「ハハ、こんな傷…訳ないさ。すぐに良くなる。」
「今、包帯取り替えますから。」
包帯を取ると肩に受けた大きな傷が露わになる。
「早く俺が手伝いに行かなくては、蟻通のまずい飯を食わされるのは勘弁だからな。」
血まみれになった白い布を新しい綺麗な布に取り換えると少し楽になったのか、彼はそんな冗談まで言った。
「安藤さんがまたお手伝いしてくれるの、待ってますからね。」
「あぁ…。すぐ戻るさ。」
しかし、安藤に今までの快活さはなく、笑い声もどこか弱弱しい。
「薫さん、安藤さんばかり見てないで僕も手当てをしてくださいよ。」
隣に寝ている沖田が不満そうに呟いた。
「沖田さんは、熱中症だからすぐに治ります。」
「つれないなぁ、薫さんは。」
「頬を膨らましても駄目ですよ。」
薫は沖田の氷枕を交換しながら言った。
諸々の仕事を終えて、薫はようやく部屋に戻った。
部屋では土方が方々への報告資料を綺麗な字で書いていた。
「まだお休みにならないんですか。」
「俺はまだ仕事が残っている。お前こそ、早く寝ろ。」
「今日は、副長がお休みになるまで寝ません。」
土方の筆が止まる。
「路地裏にいた男、松村小介か。」
「そうです。本名は、吉田稔麿と言うそうです。」
「…見事な最期だった。」
吉田が何故あそこで腹を切らなければならなかったのか、薫にはわからない。
たとえ生きる道が残されていたとしても、きっと彼は死を選んだのだろう。
武士というものは生死の境でしか生きられない、と齋藤がかつて言っていたことを思い出す。
「稔麿さんは、優しくて真っすぐで純粋な人でした。」
瞼を閉じれば今でも彼の表情が思い浮かぶ。
優しい手も、肌も、感触も全て。
しかし、これが私の選んだ道なのだ。
たとえ歴史の波に逆らおうとも私は土方さんの傍にいる。
それが、この世界に落とされた私の生きる道だから。
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