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第5章 To be, or not to be.
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しおりを挟むあれから薫はすぐに屯所に戻り、土方の元へ報告に向かった。
「ご苦労だった。」
「それでは、失礼します。」
「懐かしいな。」
「え?」
「昔を思い出す。」
かつて土方の家で働いていたときは毎日着物を着て働いていたときのことを思い出した。
今では袴姿の方が着慣れてしまったが、そういえばと薫は懐かしくなった。
「そういえば、そうですね。」
「そういう格好も悪くない。」
フッと笑うと土方は部屋から出ていった。
きっと着替える薫に配慮したのだろう。
確かに、齋藤の言う通り、彼は不器用なのかもしれない。
それからほどなくして、桝屋の主人・喜右衛門は新選組に捕らえられた。
あの商家に似合わぬ土蔵の中からは大量の武器弾薬が見つかったらしい。
今日はさすがに山南も病を押して近藤の傍で働いている。
新選組はいつでも出動できるよう祇園会所へ集まることになった。
しかし、食あたりや夏風邪によって隊士の半分は屯所で待機せざるを得ず、
薫は土方から戦力に加わるよう言い渡されていた。
だから薫は土方から借りた無銘刀が差し、会所でおにぎりを握っていた。
「あれ、薫さん。腰に刀差してる!」
「沖田先生、盗み食いは切腹です!」
「副長に似てきましたね。」
そんな冗談を言いながら、沖田は台所へやって来た。
幹部は皆広間に集められ、今後の作戦について話し合っているはずだ。
沖田がこんなところで油を売っている暇はないはず。
「いいんですか、こんなところにいて。」
「私は近藤先生に言われた通りに働くだけですから。」
食べたいと目で訴える沖田にとうとう折れて、一つおにぎりを差し出した。
「ありがとうございます!腹が減っては戦はできぬ、ですからね。」
「喜んでもらえて、よかったです。」
沖田自身も体調は芳しくないようだから、握り飯で精をつけてもらわなければ。
「よし、できた。皆さんの所へ運ぶの手伝っていただけますか?」
「喜んで。」
二人で笹の葉に包んだおにぎりをかご一杯に詰めたものを大広間まで運ぶ。
大広間には既に出陣の備えをした男たちが会津藩からの下知を待っていた。
隊士は六十名ほど在籍していたが、ここで待機しているのはその半分の30名程。
山南を始めとした、体調のすぐれない隊士は屯所の守りを託されている。
「握り飯をお持ちしました。」
おぉ、と大広間は歓声が沸いた。
昼飯もちゃんとしたものを食べていない者が多かったせいか、あっという間に握り飯は彼らの腹の中に納まった。
「薫。」
近藤の隣に控える土方に呼び止められる。
「お前は俺と一緒に来い。
今は一人でも動ける奴が欲しい。小姓としての初仕事だ。」
薫は驚くとともに、ようやく土方に認めてもらえたようで嬉しかった。
「精一杯努めます!」
そして、鎖帷子を渡された。
「これは?」
「鎖帷子だ。中に着込め。万が一、お前の身を助けるはずだ。」
薫ははい、と返事をすると沖田に手伝ってもらいながら、鎖帷子を身に着ける。
鉄でできている武具だから、胴着よりもはるかに重かったが、動けないこともない。
全員身支度を整え、会津藩からの沙汰を待っていた。
しかし、日が沈んでも肝心の下知は来ない。
とうとう痺れを切らした近藤は立ち上がり、出陣すると大音声で宣言した。
「二手に分かれ、周辺の旅籠を当たる。手筈は先に述べた通り。」
男たちは立ち上がった。
薫もそれに応ずるが如く立ち上がり土方の傍に立った。
近藤の手勢はわずか十名であったが、精鋭ばかりがそろっている。
これには近藤の考えがあった。
近藤が屯所を出発した後、土方は先陣を切って前へ進んだ。
そして、その横に薫の姿があった。
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