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第5章 To be, or not to be.
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しおりを挟む松村という名前しかまだ知らなかった頃。
彼は酒を飲みながら、薫に言ったことがあった。
「花里、もうすぐじゃ。」
ふふふ、と彼は不敵な笑みを浮かべた。
街は祇園祭に向けて俄かに賑わいを見せ始めた頃だったから、
薫はてっきり祇園祭のことを指しているのかと思ったが、
そういう訳ではなさそうだった。
「なんどすか。」
「松陰先生の願いを叶える時が来る。」
「しょういんせんせい?」
「わしの師匠じゃ。」
嬉しそうに杯を傾ける彼の横顔に薫はなんだか自分も嬉しいような気がした。
「お、そういえばもうすぐ祇園祭じゃのう。」
世話しなく行き交う街の様子に、彼も気が付いたようだった。
「そうどすえ。うちもお手伝いして、お祭りに備えてますさかい。」
最近は稽古と並行して、祇園祭の準備もあり多忙な日々を送っていた。
「行くか、八坂神社。」
彼は無邪気に笑いながら薫にそう言った。
「行きたい。」
心の底からそう思った。
彼の横に並んで、賑わう街を歩きたい。
「なら、連れてっちゃる。」
「おおきに、嬉しい。」
「その代わり、ちゃんとわしを富士に連れていけよ。」
「覚えてはったん、その約束。」
「わしは物覚えがいいんじゃ。約束を果たすまで忘れんぞ。」
二人は声を上げて笑いあった。
嘘で塗り固められた私だったけれど、一緒に過ごした時間は真実だった。
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