維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第3章 宴と留守番

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ここは島原。

夜になっても三味線の音は止むことを知らず、
明るいろうそくの光に照らされて男も女も酒と色に溺れる街である。

新選組ご一行も例に漏れず、どんちゃんどんちゃんとお茶屋遊びに興じていた。


そんな中、所在なさげに座敷の隅を陣取る隊士が一人。

薫である。

くっ、と杯を煽る。

周囲を見渡せば、女に顔を緩めるもの。

仲間内で騒ぎ飲むもの。

既に酔い潰れ大の字になって寝転がるもの。


現代社会の飲み会も中々見てられないものがあったが、これほどではない。

仕方がないからと、同じく隅の方で小さくなっている河合の方を見たが、彼は既に女の虜になっていた。


「東雲!楽しんでるか!」

両肩を強い力で掴まれると、島田に酒を強要された。

酒は弱い方ではないから、手に持っていた杯を差し出すと酒を並々と継がれた。島田の顔は真っ赤である。


「いただきます。」

「硬い、硬い。楽しまなきゃ損だ。」

「せやで、東雲はん!いっつも副長がお傍にいるさかい、近寄れへんけど、今日は無礼講や!」


京言葉を操る男は監察方を務める山崎烝という。

彼とは一度も話したことはなかったが、優秀な密偵として副長の信頼を得ていることを島田から聞いていた。

「お酒美味しいです。」


杯のお酒を一気に飲み干すと二人について来た取巻きの隊士たちが歓声を上げた。

飲めや飲めやという声に煽られるようにして一杯、また一杯と酒を煽る。

「薫、実は評判がいいんだぜ。」

飲みすぎた、と男の声がガンガンと頭に鳴り響くのを聞いて思った。

視界はぼやけて、頭に霧がかかったようにはっきりともの後を考えられない。


「え?なんですかあ?」

見ろよ、この腕と二の腕を無遠慮に触られる。

「女みてえに柔らけえし、華奢だし飯は上手いし文句ねえ。」

そして何よりいい匂いがする、と見知らぬ隊士の鼻が服の上から薫の体を伝う。

おぉ、色っぺえ、と再び薫の周りが賑やかになった。


会社の人からそんなこと言われたこともない。

仕事にかまけて、恋から遠ざかっていた薫は少しだけ高揚した。

そのとき、ふとよぎったのは楠の美しい顔だった。

霞がかかっていた頭は急にはっきりとしてくる。

薫の閉じた瞼の裏で綺麗な楠の顔が赤く染まっていく。

青ざめた顔の薫に周囲の隊士たちは心配そうに様子をうかがった。


「薫、大丈夫か。」

島田に両肩を揺さぶられ、薫はようやく我に返った。

「だ、大丈夫です。ちょっと嫌なこと思い出しただけで。」

もう何も知らない自分ではいられないのだ。

この世界で生きると決めた以上、死というものは身近であり当たり前なのだ。

「酔っぱらったみたいだから、夜風に当たってきます。」

一緒に行くよ、と数人の隊士が一緒に立ち上がったけれど
薫は微笑を浮かべてひとりで行けますと返すとそれ以上誰もついて来ようとはしなかった。


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