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第3章 宴と留守番

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年が明け、文久四年、後の元治元年となった。

前年の八月十八日の政変により政治の主導権を握りつつあった長州藩が表舞台から引きずり降ろされた。

それに伴い、新選組は京に潜む尊王攘夷派の取締りに朝な夕な従事していたのである。

そんな中薫は最初こそ仕事に追われる毎日であったが、
日を追うごとに慣れて、空いた時間には山南から剣術や読み書きの指南を受けた。

現代の世では武道に無縁の薫であったが、
山南の丁寧な手解きにより勘定方の河合と稽古するまでの練度に達し、
時折道場での稽古にも顔を出すようになっていた。

「東雲君は筋が良い。女子であることをつい忘れてしまう。」

「山南先生、私は男ですよ。」

「これは失礼。」


隊士が大勢集まる道場で山南はうっかりしていた、と眉間に深いしわを寄せて汗をぬぐう。


「薫君、精が出るな。」

稽古着姿の近藤が文字通り汗をほとばしらせながら薫のところへやって来た。

「山南さんから剣術の稽古を受けていることは耳にしていたが、
短い間にここまで腕を上げるとは。見上げたもんだ。」

「早く戦力になれるよう努めます。」

「まあ、薫を活躍させることにいい顔をしない奴もいるからなぁ。」


ははは、と近藤はある方向を横目に苦笑いを浮かべる。その方をみやれば、薫はその相手に得心がいった。


「副長は私がまだ半人前なのに剣術に励むのが嫌なのです。」

薫が少し頬を膨らませてそういうと、近藤はそんなことはないぞ、と首を横に振った。

「土方君は少し過保護なのですよ。」

近藤の代わりに山南が涼しげな目元に微笑を含ませ答えた。

「そうだ、薫。先日会津公が我らの働きに対し恩賞を下された。
明日にでも島原の茶屋を貸切り宴を催そうと思うんだ。」

「皆きっと喜びます!」

近藤はしばしば隊士総員を島原に招いて慰労会を開いていた。

茶屋を貸し切ってどんちゃんどんちゃん盛り上がってベロベロに酔っ払う。

それが平隊士達の密かな楽しみであった。

しかし、薫にとっては悩みの種でしかない。



「東雲殿。聞きましたか?」

仲の良い勘定方の河合が食事の片付けをしている最中その話をしてきた。

「明日の宴のことですか。」

「そうです。この前の政変での活躍を評して大金をいただいたので、局長が宴を開きたいと仰られて。」

「勘定方の腕が鳴りますね。」

「そうなんですが、皆さん中々無茶苦茶な飲み方をされるのでいつも胃が痛いのです。」

一介の隊士として行く分には楽しい限りなんですけどね、と付け加えた。




島原といえば、男の人が女の人を買う場所。

飲みの席は会社勤めの頃から嫌いではなく、
むしろ好んで行く質ではあったが、女のひとを買う場所でもなると話は変わってくる。

ましてや、他の隊士には男としてふるまっている手前、女を買わないわけには行かないだろう。


どうやって、宴を抜けるか。

それが薫に迫られた課題であった。


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